体質が変わったので

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誘い(3)お泊り会

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 諸星君の住むアパートは、学校の近くにあり、アパートの住人はほとんどが学生だった。
 よく考えると明日は日曜日なので休みだが、迎えに来るのはともかく、朝の目覚ましベルは無いそうだ。
「それはまた、気の利いた彼女やな」
「はい。休みの日は寝かせてくれるんですよ。まあ、8時半にドアチャイムはなりますけど、休みの日といえどもあんまり寝るのもどうかと起こしてくれてるのかなあと」
 意外とポジティブな考え方をするやつだな。
 しかし今回は、ちょっと実験だ。
「明日は7時起きで、8時半にここを出るぞ。休みの日の図書館は、この時期は席の取り合いになるからな」
 即座に皆、合わせて来る。
「そうだよねえ。4年生は必死だもんねえ」
「特に俺らの学部と、公務員試験受けるやつやな」
 直と智史が頷き合い、
「ぼくたちも来年は就職活動かあ」
「自分は、教員実習があるんですよ」
と、楓太郎と宗も乗る。
 それで、諸星君も何か察したらしい。
「大変ですねえ。明日が楽しみです」
 にこにこしながら言う。
 そして、一緒に夕食の準備に取り掛かる。とはいえ、今日はホットプレートでの鉄板焼きだ。あまりすることが無い。
 ホットプレートを出したり肉や野菜を切ったりしながら、さり気なく部屋の中を視る。
 霊がここにいるのは感じられない。
 目覚ましの方はどうも別ではないかという予想が強くなる。
「乾杯や、乾杯。ソーダとグレープフルーツ果汁やけど」
「これが美味しいんだよ、諸星君。アルコール抜きの酎ハイみたいな感じで」
「へええ」
 そんな風に、宴会はスタートした。

 夜中。皆が寝ている中で、僕は警戒を続けていた。しかし、霊が近寄って来る気配は今のところない。
 と、諸星君がうんうんとうなされ始めた。
「ごめん、七瀬、ごめん」
 そう言い、バチッと目を見開いたので、覗き込んでいた僕は驚いて固まってしまった。
 だが、目は開いているのに、起きているわけではないらしい。
「うう、ううう……」
 ひとしきり唸ると、パタリと電池が切れるように目を閉じて寝始める。
「……びっくりした……」
 思わず呟いて、僕は胸を撫で下ろした。

 午前7時である。待ち構えていた僕達は、7時の時報の如く鳴り出した電話を見つめた。その中で諸星君が恐る恐る電話に出て、
「もしもし」
と言うと、電話を耳から離してこちらを見る。
「無言で切れました。いつもと同じです」
 ふうん。
「いくつか分かった事はあるよ。まあ、ご飯でも食べてから話そうか」
 ご飯を炊いて、昨日の残り物のキャベツを塩で揉んで浅漬けにしたものを添え、だし巻き卵を焼き、小アジのみりん干しを焼き、えのきとしめじのお浸しと、もやしとわかめの味噌汁を作っておいた。
「おおお……!」
 智史がテーブルに貼り付く。
 宗は味噌汁をよそい始め、楓太郎はおかずの皿を運び始める。
「家にいた時より豪華……!」
 諸星君が言うのに、
「キャベツももやしもえのきもしめじも昨日の残り物だし、アジは冷凍しておけるし、わかめは乾燥のだし、卵は大体買い置きがあるだろ?そう、大したもんじゃないよ」
と言うと、直が続ける。
「前の夜に下拵えを少ししておけばいいんだねえ」
「わかってても、それがでけへんねんわ」
 言って、智史がお茶を淹れ始める。
 とにかくご飯だと、いただきますをしてから、まずは食べる。
 そして食器を片付けて、テーブルを囲んで座った。
「で、どういう事やったん?」
「うん。まず、体が重く、だるくなって来てるのは、睡眠障害だな。うなされた後、目を見開いて唸ってた」
 言うと、諸星君が顔をひきつらせた。
「それ、金縛りってやつじゃないんですか」
 それに僕達は、ああ、と軽く頷いた。
「脳だけ目覚めて体が目覚めてないと、体が動かなくて喋れもしないのに、音は聞こえたり周りは見えたりだけはできるんだよ。いわゆる、金縛り状態。全てがそうとは言わないけど、世の中の金縛りの大半は、この覚醒時のタイムラグが原因だろうね」
「疲れてる時とかに起こりやすいんだよねえ。後、心配とかで眠りが浅い時。
 諸星君は、彼女の事を考えて罪悪感でうなされるくらいだよね。それに、電話と迎えに来る彼女の事が頭にあって、熟睡できてないよねえ」
 僕と直が説明すると、皆、頷く。
「彼女が事故死して亡くなったのは気の毒だけど、一緒に進学できなくなったと、それを負い目に思う必要は全くないよ。それに関しては、何ならカウンセラーに相談して、ケアを受けるといい」
「そうだよう。君は、悪くないからねえ」
 ポロリと、諸星君が涙をこぼした。
「僕、薄情じゃないですか」
「アホ、何ゆうてんねん。お前が殺したわけでも無いんやし、そんな事あるか。お前が彼女の分まで生きな、あの世で彼女におうた時に、土産話でけへんやろ」
「関西人の土産話って興味あります」
 宗がポツンと言うのに、楓太郎が、うんうんと同意する。
「関西人って、普段の話でもオチがありますもんね」
「当然やん。オチのない話なんてどこがおもろいねん」
 これに、皆で軽く笑って空気が軽くなる。
「次は電話だけど――ああ。そろそろ8時半か。先にこっちにするか」
 皆で時計に注目した時、ちょうどドアチャイムが鳴って、諸星君が体をびくりとさせた。



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