体質が変わったので

JUN

文字の大きさ
上 下
393 / 1,046

さかさびな(2)連続する怪事

しおりを挟む
 内風呂は、熱いの、ぬるいの、ジェット、サウナ。露天風呂は、檜風呂、岩風呂、壺風呂、薬草風呂。人も少なく、ゆったりとできた。
「いやあ、いいお風呂だったね」
 真先輩が言うのに、
「やっぱり温泉はいいなあ」
「大きいだけでも気持ちいいよねえ」
と、僕も直も同意する。
「それにしても、宗。浴衣が似合うなあ」
 楓太郎が、羨ましそうに言う。
「そうか?」
 肩幅などが適当にあり、半乾きの髪を後ろに撫でつけたような髪形が、どうにもカッコいい。兄ちゃんの次に。
楓太郎は何か、かわいい。直も、そういう感じだ。真先輩は若旦那という感じで、智史は普段着のロッカーとでも言おうか。
「何か宗、和服が似合うのかな。着流しとか、袴とかも似合いそう」
 言うと、皆で宗を眺めて、「ああ、ああ、ああ」と頷く。
「真先輩も、羽織とか着たら似合いそうですよねえ」
「ええとこの、若旦那風!」
 などと皆で言いながら部屋に戻ろうとロビーへ差し掛かった時だった。
 雛飾りの方で何か一瞬気配が揺らめき、それと同時に、階段で悲鳴が上がった。
「女将さん!!」
 居合わせた仲居やフロントにいた従業員が、階段の下にうずくまる女将さんに駆け寄って行く。
「どうしたんです?」
「急に空中に飛び出すみたいに女将さんが階段を飛び降りて」
「何かに背中を押された様になったのよ。誰もいない筈だったんだけど」
 そんな事を言っているのが聞こえ、皆、僕と直に目を向けて来た。
「……一瞬、お雛様の方から、何かを感じたんだけど、なあ、直」
「うん。今はもう、何もないよねえ、怜」
 僕達は、揃ってお雛様を見た。
 と、今度は中年の男性が腕をかばいながらやって来る。
「社長!?」
「急に板場で火が吹き出して、ちょっと火傷をな。不自然な火の感じだったが……。
 ん、どうした?」
「女将さんが、変な感じに階段から落ちて……」
 皆、黙ってお互いの顔を見やる。
「まあとにかく、お2人共病院へ行きましょう」
 支配人が言い、テキパキと指示を出す。
「そろそろ夕食です。皆、取り掛かって下さい。女将さんの挨拶は、今日は宴会もないし、抜きましょう。皆は浮足立たずにしっかりとお願いします。何かあれば、仲居頭の珠代さんか私に連絡をお願いします。
 社長、女将さん、湯守りのシゲさんに車を出してもらいます。病院へ行って下さい」
「すまんが、後を頼む」
 バタバタしながらも、目立たずに素早く指示を出す支配人を、やるな、と思って眺め、雛飾りに目をやった。
 お雛様は、我関せずと言わんばかりに、澄ましかえっていた。

 夕食は何事もなく各部屋に運ばれ、そんな事故があったなんて、居合わせた僕達以外気付いてもいないだろう。
「真先輩、卒業おめでとうございます」
「かんぱーい!」
 ビールで乾杯をして、料理に箸を付ける。
 品数も多くて豪華な夕食を食べると、すっかり満腹だ。
「お風呂だけでなく料理も良かったよね。ここは、当たりだね」
 真先輩も喜んでくれているらしい。
「で、さっきのアレだけど」
と、目をキラキラとさせて来る。
「いやいや、真先輩。卒業記念旅行でわざわざ首を突っ込まなくても」
「そうですよう」
 言う僕と直に、
「心霊研究部にふさわしい旅行だよ」
と笑いかける。
 すっかり、興味を持ったらしい。
「……わかりました。真先輩が嫌でなければ」
 それで全員、嬉しそうな顔をした。
「まあ、これまでにも何回か心霊絡みの事件にもおうたな」
「懐かしいね」
「そう言えば怜先輩と直先輩。旅行っていつも何か起こりますか?」
「いくら何でも、毎回何か起こるなんてないよ、宗……あれ?」
「……起こってるか、ねえ?」
「おかしいなあ」
「そんな筈は無いんだけどねえ。あれ?」
 僕と直は、高校以来の旅行について考え始めた。
 旅行の度に、何かあったな……。
「何か、すみません」
「いやいや。願ったりかなったりだよ。
 そもそも部の発足は、ぼくの依頼だったんだよね」
 僕達は、部の発足からの色々を、語り合った。
 
 
 
 


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました

四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。 だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

七年間の婚約は今日で終わりを迎えます

hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。

処理中です...