体質が変わったので

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心霊特番・人魚(3)平成の人魚

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 今の網元の子孫のその人は、這うように甲田プロデューサー達の方へ行き、いきさつを聞いた。
 そして、大きく息を吐いた。
「いつかはばれると思ってた……」
「じゃあ、本当に?」
 訊き返す直に頷く。
「この家の秘密として、代々跡継ぎが聞かされ、世話をして来たんです」
「よく今までばれませんでしたねえ」
「これまでは、当主しか知らない座敷牢にいたから。でも、昼間、ロケに来た女優さんを見て、『どうなってもいいから出たい』と……」
 佐那さんの前に、人魚の霊は、ポイッとナイフを放る。
 佐那さんはそれを見つめ、やおら取り上げると、自分の首をかき切った。
 が、バタリと倒れはしたものの、すぐにビクンッと体を痙攣させると、傷が見る見る塞がり、佐那さんは起き上がる。
 えりなさんが白目を剥いて失神し、それを高田さんが支えた。
「お願いです。子孫として、一緒に謝りますから。どうかもう、楽にして下さい――!」
 この子孫も、代々苦労してきたのだろう。呪いにかけられたのは、佐那さんだけではない。楽になりたいのも。
「嫌だ、嫌だ」
 ギチギチギチ。
 そこで、人魚達と霊が、僕を見つめて来た。
「そこのお前。お前もわれらの同胞か?いや、少し違うか……。我らの肉を食った臭いはしないしな……」
 あの一族の事に、勘付いたのか?
「僕は人間だ。
 なあ、この佐那さんも悪かったが、意趣返しももういいだろ。こうして恨んでいたら、お前自身も呪いに囚われたままだぞ」
 人魚の霊はギッとこちらを睨んだ。
「しばったのは、この女だ」
「そうか。だったら、解いてやるよ」
 浄力を人魚の霊に当てる。と、泡になり、それも消えて行く。
「あっ!?」
 直が言い、佐那さんを見る。佐那さんは固く茶色い、ミイラのような物になっていた。
「呪いが解けて、死んだんだな」
 人魚達はそれらを見届けるようにしてから、ギチギチと歯を鳴らし、あっと言う間に波間に消えて行った。
 それを呆然と見送った僕達だが、子孫の人は佐那さんに近付いて、ひっそりと笑った。
「これで、終わった。この人も、俺達も、ようやく楽になれた」
「佐那さんは、どうしますか」
 甲田プロデューサーが訊く。
「そうですねえ。お寺に預けましょうか。人魚を食って呪われた人のミイラだ」
「一応は警察に届けるべきでしょうね。どういう判断が下るかはわからないが、まあ、手続きの一環として」
 そう助言して、僕達は旅館に引き上げる事にした。
 ゾンビに引き続き今回も、やはりカメラさんは冷静に全てを記録していた――。
 直と部屋にいると、美里が来た。
「死ななければいいってものじゃないものね。地獄だったでしょうね」
 溜め息と共に吐き出す。
「老いて、腐って、臭いが強くなって、肉がはげ落ちて。怖いよな、そんな自分を見るのは」
「年を取るのも、いつか死ぬのも、当たり前なんだけどねえ」
「怖い、怖い」
 僕達は揃って、溜め息をついた。

 翌日改めて、洞窟、寺を取材した。
 警察でも、これが何かの罪に当たるのかといえば難しく、陰陽課案件として、幕を閉じる事になりそうだ。
「深すぎる欲は身を滅ぼす、か」
 高田さんがしんみりと言った。
「そうですねえ。俺達も、気を付けないと」
「お笑い連覇の為なら何でも、と思いがちですもんね」
「ああ。だから無理にネタ覚えるの、やめるわ」
「いや、それは覚えろよ」
 ミトングローブ左手右手がそう言って、皆は笑いに包まれる。
「まあ、これで人魚も成仏できたし、佐那さんも佐那さんの子孫も救われたし、良かったわね。佐那さんは自業自得でも、子孫にとってはとばっちりでしかないもの」
「ま、まあ、そうですね」
 えりなさんが、控えめに同意した。
「さあ、次に行きますよ。次は八甲田山で楽しいキャンプですよ」
 甲田プロデューサーが元気よく言うが……。
 僕は沸き起こる不安を呑み込んで、そっと内心で呟いた。
 ああ、面倒臭い予感がする、と。



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