体質が変わったので

JUN

文字の大きさ
上 下
356 / 1,046

心霊特番・ゾンビプリンセス(1)フラグを立てる人

しおりを挟む
 夏休みに入って早々、また、この仕事がやって来た。『心霊特番』。芸能人と一緒に心霊現象が起こる場所を巡り、本当にまずい事が起こりそうになったら、出演者、スタッフを守るという仕事だ。
 今回のロケ地は、小さな島である。
「戦国時代に家の再興を願いながら、姫と家臣が毒を飲んで眠りについたという伝説が残る島か。毒を飲んだという時点で、死んでるよな」
 御崎 怜みさき れん、大学3年生。高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった、霊能師である。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「まあねえ。家の再興かあ。新たな人生を始めた方がいいのにねえ」
 町田 直まちだ なお、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いでもある。
「それが戦国時代、ロマンとか言うんでしょうね。でも、ばかね。それでどうやって家を再興する気かしらね。本気で再興する気なら、行動しなさいよ」
 霜月美里しもつき みさと、若手ナンバーワンのトップ女優だ。演技力のある美人で気が強く、遠慮をしない発言から、美里様と呼ばれている。
 小さな船で島へ向かっているのだが、甲板で風に当たっているところだった。
「容赦ないなあ。でも、その通りだけど」
「それに絶対美化されてるよねえ。本当はどうだったんだろうねえ」
「仲間割れとか、悲観して死んだとか、ふぐに当たって死んだとかだったりしてな」
「怜。それはあんまりじゃない?化けて出て来ても知らないわよ」
 話していると、キャビンから、他の出演者たちも暇を持て余したのか、ゾロゾロと出て来た。
「何が化けて出るって?ちょ、ちょ、ちょ。勘弁してよ」
「毎回怖いからなあ」
 ミトングローブ左手右手。若手の人気お笑いタレントで、賑やかし要員である。
「この前も、本当に怖かった」
 グラビアアイドルのえりなだ。きゃあきゃあと怖がる役目である。
「いやあ、この前はマジでダメかと思ったね。うん」
 高田コージ。タレントで、皆のまとめ役である。
「家の再興を願いながら家臣と死ぬかあ。2人が恋人とかそんなだったらロマンチックだわあ」
 ウットリ言うえりなさんに、美里がフンと笑う。
「だったら余計に悪いわ。2人で生き延びるべきでしょ」
 流石、霊否定係だな。
「あ、見えて来た」
 島が遠くに見えて来る。
 僕と直は、ひっそりと心の中で祈った。わかめの妖精もきのこの妖精も出ませんように、と。

 旅館は島に一軒しかなく、民宿という感じだ。部屋数も少なく、例え天下の大女優でも、相部屋である。
「男部屋がここで、スタッフの男部屋がここ、スタッフの女部屋がここ、女部屋がここ。これでいいですね。皆さん相部屋となりますけど、よろしくお願いします」
 ディレクターの甲田さんがテキパキと言って、全員、部屋に入る。
 真ん前に山があり、頂上に寺、そして、それに続く長い階段があった。
「まさか、あれ……?」
「まずいよぅ、怜」
 いつの間にかカメラが回っており、高田さんとミトングローブ左手右手も後ろに立って、ゴクリと唾を飲んだ。
「え、ま、まずい?」
「はい」
 僕と直は大まじめで振り返り、
「あんな長い階段、筋肉痛になりそうです」
と言ったら、高田さんたちは崩れ落ちた。
「あああ、思い出して来た!」
「これ、これだった!」
「筋肉痛か!」
「え?だって、長いですよ?急ですよ?」
 甲田さんが、いい笑顔で親指を立てた。
「それはともかく、今回は伝説巡りで、ここで姫と家臣のミイラを見て、後は山形で座敷童の旅館に泊まって、八甲田山に上って終了でしょ。だから、大丈夫そうだよね」
「高田さん。それ、フラグだから」
 ミトングローブ左手右手が言って、和やかに笑いが起こる。
 そう。それは見事に、フラグとなったのであった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐

当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。 でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。 その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。 ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。 馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。 途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

【完結】後妻に入ったら、夫のむすめが……でした

仲村 嘉高
恋愛
「むすめの世話をして欲しい」  夫からの求婚の言葉は、愛の言葉では無かったけれど、幼い娘を大切にする誠実な人だと思い、受け入れる事にした。  結婚前の顔合わせを「疲れて出かけたくないと言われた」や「今日はベッドから起きられないようだ」と、何度も反故にされた。  それでも、本当に申し訳なさそうに謝るので、「体が弱いならしょうがないわよ」と許してしまった。  結婚式は、お互いの親戚のみ。  なぜならお互い再婚だから。  そして、結婚式が終わり、新居へ……?  一緒に馬車に乗ったその方は誰ですか?

処理中です...