体質が変わったので

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虚ろの国(2)黒い靄

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 先輩から電話がかかって来たのは、翌日の事だった。礼を言って、ゲームの感想や内容を訊かれるままに答えていると、
『その黒い靄の事で相談に乗ってもらいたいんだけど』
と言い出した。
 プログラムにも無く、バグでも無く、原因も不明なそれは突然現れ、人に取り付くらしい。そして取り付かれた人は、ゲーム内でも現実社会でも、突然凶暴化するらしい。
『マズイよ。会社もマズイけど、その人もマズイよ。調べてくれないかなあ』
「でも、ゲームとかプログラムとかはよくわからないから……」
『そこを何とか!お願いします!』
 土下座している姿まで目に浮かぶようだ。
「ええっと、取り敢えず、僕達で何とかできる類の事か視てみます。霊的なものでなければ、他を当たって下さいよ」
『ありがとう!!』
 それで僕と直は、黒い靄にゲーム内で食われたと掲示板に書き込んでいたプレイヤーの所に行ってみる事になった。
 ゲーム内では大学生のクールな魔法師をやっている、大人しい高校生だ。その日は1人でぶらぶらと初心者用のフィールドで低級霊を狩っていたらしいのだが、突然黒い靄が出て来るとそれに囲まれ、食われたらしい。装備やステータスに変化はなく、ただスタート地点に戻っただけで、
「変な敵だった。名前とかも出て来ないし、攻撃も通じないし、単なる嫌がらせ?バグ?」
と交流サイトに書かれていた。
 見たところ、目立たず大人しいタイプで、口げんかすらしないようだ。コンビニでも店員の方が横柄な態度だったし、最後の一個の商品をおじさんに譲っていた。
「いいやつだな」
「今のところ、凶暴化する様子はないねえ」
 言いながら観察を続けていると、フッと冷たい気配がして、彼の周りに黒い靄が湧き出た。ゲームの中で見た黒い靄と同じだった。
「成程。完全に五感を再現すると言っても、霊感は無理だったのか」
「ゲームとつながってるのかねえ。だとしたら、結女の神なら得意分野じゃないかねえ」
「そうだな。ゲーム内のは、頼んでもいいな」
 言いながら、彼に近付いて行く。
 高校生は靄をまとわりつかせて立ち尽くしていたが、ふとこちらへ目を向けた。
「何見てんだよ。殺すぞ」
 目つきが完全に別人のようで、殴り掛かって来るが、現実ではヒョロヒョロパンチでしかない。
 浄力を当てると、簡単に靄は消えた。
「あれ?」
 高校生は夢から覚めたような顔でキョロキョロしていたが、僕達に気付くと、わからないままに
「あ、すみません」
と頭を下げながら去って行った。
「謝るのが反射だねえ」
「後は、ゲームでも靄が消えているかどうかだな」
「毎日ゲームはしているらしいし、今日もするかねえ」
 僕達は、彼のログインを待ち構える事にした。

 ゲームにログインして、待つ。
 このまま何時間も待つ事になったらどうしようかと思っていたが、幸いにも彼は、帰宅後すぐにゲームを始めたらしい。
「勉強はどうした」
「まあまあ」
 ゲーム内でも監視をする。
 現実とは違う堂々とした態度のクールなモテ男的アバターで、なかなかに面白いものだと思う。アバターは現実とかけ離れたものにする場合が多いのだろう。
 監視を続け、かなりイライラする筈の場面になっても凶暴化の様子はないのを確認して、僕達はそこを離れた。
「大丈夫だろう」
「怜、あれ」
 黒い靄をまとった、大柄な戦闘服の男がいた。さっきまで普通に歩いていたが、立ち止まって、唸る。
「ああ。凶暴化だな」
「だねえ」
「祓えるのかな」
 いつものように刀を出そうとしたが、当然の事ながら、出ない。
 武器とやらを検索してみると、刀がある。魔法は、極大魔法となっていた。
「ボクは、札での攻撃と結界と回復魔法らしいねえ」
「わからないが、試してみるか」
 刀で斬ってみた。
「効いてないみたいだねえ」
 彼は幅の広い刃物を振り回して、僕達を狙ったり、通行人を襲ったりしている。危ないので、結界で直が閉じ込めた。
「魔法ならどうだ」
 やってみたが、効かない。直の札でもだめだった。
「ダメもとで」
 いつものように、浄力をぶつけてみる。
「あ、できたねえ」
「おお。浄化魔法ってのが出てきたぞ」
 靄も消え、彼は、突っ立ってキョロキョロとしていた。
「ええっと?」
「いきなり暴れ出したんですよ。覚えてませんか」
「全く!え!?靄にこの前食われたから!?」
 混乱しているらしき彼に、直は世間話をするように事情を訊き出し、現実の居場所まで聞き出した。流石は直。
 別れて、直は言った。
「京都の学生だって。先生に連絡して、代わりに誰かに様子を見て貰おうかねえ」
「あれが誰かわかるのか?」
「写真を撮っておいたから、先輩に見せて、ユーザー情報を調べてもらおうよ」
「写真?そんなものが撮れるのか」
 ゲームを使いこなすのは、難しい。


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