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泣く声(1)お祝いとお呪い
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赤飯、鯛の酒蒸し、ほうれん草の胡麻和え、グレープフルーツとホタテと生野菜のサラダ、はまぐりのすまし。
お祝いと言えば赤飯と鯛は欠かせないだろうし、これからの事を考えると、カルシウムと葉酸の摂取は大切になるだろう。
僕はテーブルの上を眺めて、冴子姉は肉も欲しかったかなあ、と考えた。
御崎 怜、大学3年生。高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった、霊能師である。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「よし。明日は肉で、たんぱく質を摂ろう。
でも冴子姉、気持ち悪いとかない?匂いとか。味の好みが変わったりもするとか聞いたけど」
「全っ然。食欲ありまくりよ!これは間違いなく焼酎が美味しいご飯ね」
御崎冴子。姉御肌のさっぱりとした気性の兄嫁だ。母子家庭で育つが母親は既に亡く、兄と結婚した。
「それはだめだからな、流石に」
兄が慌てて釘を刺す。
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視だ。
「残念だけどわかってるわよぉ」
冴子姉が苦笑した。
本日、年に一度の健康診断で、冴子姉の妊娠がわかったのだ。それで、急遽お祝いになった。
「では、おめでとう!乾杯!」
「ありがとう!」
グレープフルーツの果汁を入れたソーダで乾杯をする。
「予定通りなら秋かあ」
「いやあ、全く気付かなかったわ」
「ドラマなんかでは、気持ち悪くなったりするみたいだけど」
「別に無かったわね」
「まあ、それならそれで、楽で良かったな」
「ええ!」
悪阻などもなく、全くわからなかったらしい。冴子姉の肝が座っているので、子供も、肝の座った子なのかも知れない。
「わからない事とかは京香さんに相談したらいいな。大雑把で、心配な気もするけど……」
一抹の不安を感じるが、兄は鷹揚に頷いた。
「いや、頼りにさせてもらおう。何と言っても経験者だし」
「そうね。京香さんに、用意しておいた方がいい物とか、色々聞くわ」
京香さんは隣に住む現在休職中の霊能師で、僕と直の師匠だ。
「兄ちゃんもお父さん、冴子姉もお母さんかあ」
「怜は叔父さんだな」
「もう子守もできるから。任せて」
僕達は楽しく、今後のあれやこれやと話していた。
「あ、そうだ。それで、産婦人科に行ったんだけど、そこで知り合った妊婦さんに、1人、気になる人がいたのよね」
ふと、冴子姉が真顔になった。
「どうかしたのか?」
「首にスカーフを巻いてたんだけど、その下にあざみたいなのがあってね。目の下には濃いクマもあるし」
僕も兄も、真顔になった。
「DV?」
「それが違うの。何か、変な事が起こるらしいのよ。夜中に旦那さんがうなされたり、彼女の首に手形みたいなあざができたり、泣き声みたいな声がしたり、急に写真立てが倒れたりするらしくて。
これって、霊?」
「その可能性はあるね。明日にでも行こうか。電話番号とかわかる?」
「聞いて来たわ。ありがとう、怜君」
「只でさえ不安定になってるだろうに、それは大変だろうからなあ。早い方がいいよ」
「そうだな。手がいるようなら連絡しなさい、怜」
夫のDVをかばっているという懸念を兄も持っているらしい。
「うん。わかった」
そうでない事を僕は祈った。
お祝いと言えば赤飯と鯛は欠かせないだろうし、これからの事を考えると、カルシウムと葉酸の摂取は大切になるだろう。
僕はテーブルの上を眺めて、冴子姉は肉も欲しかったかなあ、と考えた。
御崎 怜、大学3年生。高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった、霊能師である。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「よし。明日は肉で、たんぱく質を摂ろう。
でも冴子姉、気持ち悪いとかない?匂いとか。味の好みが変わったりもするとか聞いたけど」
「全っ然。食欲ありまくりよ!これは間違いなく焼酎が美味しいご飯ね」
御崎冴子。姉御肌のさっぱりとした気性の兄嫁だ。母子家庭で育つが母親は既に亡く、兄と結婚した。
「それはだめだからな、流石に」
兄が慌てて釘を刺す。
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視だ。
「残念だけどわかってるわよぉ」
冴子姉が苦笑した。
本日、年に一度の健康診断で、冴子姉の妊娠がわかったのだ。それで、急遽お祝いになった。
「では、おめでとう!乾杯!」
「ありがとう!」
グレープフルーツの果汁を入れたソーダで乾杯をする。
「予定通りなら秋かあ」
「いやあ、全く気付かなかったわ」
「ドラマなんかでは、気持ち悪くなったりするみたいだけど」
「別に無かったわね」
「まあ、それならそれで、楽で良かったな」
「ええ!」
悪阻などもなく、全くわからなかったらしい。冴子姉の肝が座っているので、子供も、肝の座った子なのかも知れない。
「わからない事とかは京香さんに相談したらいいな。大雑把で、心配な気もするけど……」
一抹の不安を感じるが、兄は鷹揚に頷いた。
「いや、頼りにさせてもらおう。何と言っても経験者だし」
「そうね。京香さんに、用意しておいた方がいい物とか、色々聞くわ」
京香さんは隣に住む現在休職中の霊能師で、僕と直の師匠だ。
「兄ちゃんもお父さん、冴子姉もお母さんかあ」
「怜は叔父さんだな」
「もう子守もできるから。任せて」
僕達は楽しく、今後のあれやこれやと話していた。
「あ、そうだ。それで、産婦人科に行ったんだけど、そこで知り合った妊婦さんに、1人、気になる人がいたのよね」
ふと、冴子姉が真顔になった。
「どうかしたのか?」
「首にスカーフを巻いてたんだけど、その下にあざみたいなのがあってね。目の下には濃いクマもあるし」
僕も兄も、真顔になった。
「DV?」
「それが違うの。何か、変な事が起こるらしいのよ。夜中に旦那さんがうなされたり、彼女の首に手形みたいなあざができたり、泣き声みたいな声がしたり、急に写真立てが倒れたりするらしくて。
これって、霊?」
「その可能性はあるね。明日にでも行こうか。電話番号とかわかる?」
「聞いて来たわ。ありがとう、怜君」
「只でさえ不安定になってるだろうに、それは大変だろうからなあ。早い方がいいよ」
「そうだな。手がいるようなら連絡しなさい、怜」
夫のDVをかばっているという懸念を兄も持っているらしい。
「うん。わかった」
そうでない事を僕は祈った。
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