体質が変わったので

JUN

文字の大きさ
上 下
306 / 1,046

心霊特番・スペイン(3)ラテンの男

しおりを挟む
 祭りやパーティーで、見習いの子が子牛を使ってミニ闘牛をするというのはよくあることらしい。小さいし、重量もそんなには無いし、本番ほどに興奮させてはいない。
「今回はそれで行きます。ただし、場所は本当の、闘牛場を使用します」
 ディレクターが上手く交渉して、そうなったらしい。
「それでも万が一の為に、銛打ち、槍打ちとして講師が控えますが、高田さん、逃げ方は大丈夫ですね」
「はい。バッチリ練習しました」
「では、始めましょう」
 カメラはもう回っている。
 子牛が出て来る。本番に比べたらとてもかわいい。闘牛というより、ハイジだ。
 高田さんにはホセさんが憑いており、難なく仕留めた。
「お見事です」
「おおお!」
 拍手が起こる。
 だが、ホセさん的には物足りなかったらしい。不満そうな顔で、考えている。
 次の瞬間、登場口の向こうから何か声がして、講師陣がサッと振り返った。皆もそちらを注目する。
「ん?うわあ!何で!?」
 立派な体格で大きな角を持つ牛が、走り込んで来た。たいして興奮はしていないようだが、それも、現時点ではという程度だ。
「そう来たか」
 頭が痛い。
 講師陣は高田さんと牛の間に入り、「逃げろ」と言っている。
 だが、高田さんは表情を失くした後、笑い声をあげた。
「やってやるぞ!」
「ホセさんだ!」
 皆が高田さんを指さして叫ぶと、高田さん、いやホセさんは笑いながら手を振り始めた。
「うわあ……」
「ホセさんを今浄化したら!?」
「逃げ出すにしても、危険はどっこいどっこいでしょうね」
「どうしよう!」
「直、いや、町田の出番ですね」
「鎮静化して鈍らせると、仕留めやすいですねえ。講師もいるし」
「足止めしたらホセさんが不満を残すから、一応仕留めさせるのがいいでしょう」
 言いながらも、目は闘牛場から離さない。
 普段、ピッタリのタイミングと位置に適当な札を送ってくれる直だから、そう心配はしていない。むしろ、それが見られるのが楽しみだ。
 牛が急に、頭を振り、足をかき、涎を垂らし始める。興奮しだしたようだ。
 決まった本数の、銛を打ち、槍を打つ。そしてホセさんが、旗を構える。
 動くものに反応する牛は、そこを目掛け、頭を低くして突っ込む。その手前で鎮静化の札を受け、動きは鈍っているが、それでも、危険がないわけではない。
「怜、行かなくていいの」
「直を信じろ。直の札使いは一級品だぞ」
「えへへ、照れるねえ」
 言った美里様は、そういうものかと納得したように、落ち着いた。
 ホセさんは旗で何度か牛をいなして弱らせる。その度に牛は、足が重くなり、遅くなる。
 そしてとうとう、ホセさんは牛に剣を刺した。
 どうと牛が倒れると歓声が上がり、講師達とホセさんがにこやかに握手をし、皆は闘牛場になだれ込む。
 僕はホセさんに近付くと、胸倉を掴んで揺さぶった。
「ホーセーさーんー」
「いや、あまりにもアレだったもんで」
「約束と違うよねえ」
「でも――あ――ごめんなさい。もうしません」
「当たり前だ。切り刻んで祓うぞ」
「ヒッ」
 浄力を当てて高田さんから剥がし、それを直が拘束する。いきなり正気に戻った高田さんは、キョロキョロしながら、
「え、どうしたんだっけ。そう、牛が――牛!?それ!?何で、何があったの!?」
とパニックだ。
 僕は短く嘆息して、訊いた。
「それで、納得しましたか」
 ホセさんは笑顔で、
「スッキリした!ありがとう。タカダ、感謝する。ありがとう」
と言った。
「後は女の子とデートだな。そっちの美人の彼女もいいが、可愛い彼女も捨てがたい」
「お疲れ様でしたぁ」
 浄力を当てると、笑顔のままホセさんが消えて行く。
「流石はラテンの男だねえ」
「ああ。どこまで面倒臭いんだ」
 僕と直は、嘆息した。

 スペインロケが終わり、空港で飛行機を待つ間、各々お土産を買ったりしていた。
「色々あったなあ。でも、いい経験したな」
 高田さんは前向きだ。
「そろそろ移動しまあす」
 言われて、立ち上がる。
「あれ?えりなちゃん?」
 ミトングローブ左手右手が立ち尽くすえりなさんに声をかける。えりなさんはフラメンコで使う羽付きの扇子を前にボンヤリしていたが、扇子からは、何やら気配がしている。
 まずい。面倒臭い予感がする。
「行きますよ。フラメンコダンサーの無念とか、知りませんから」
「はいはい、次だねえ」
「はっ。は?あ、あれ?」
 僕達は足早に、搭乗口に向かったのだった。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐

当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。 でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。 その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。 ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。 馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。 途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

【完結】後妻に入ったら、夫のむすめが……でした

仲村 嘉高
恋愛
「むすめの世話をして欲しい」  夫からの求婚の言葉は、愛の言葉では無かったけれど、幼い娘を大切にする誠実な人だと思い、受け入れる事にした。  結婚前の顔合わせを「疲れて出かけたくないと言われた」や「今日はベッドから起きられないようだ」と、何度も反故にされた。  それでも、本当に申し訳なさそうに謝るので、「体が弱いならしょうがないわよ」と許してしまった。  結婚式は、お互いの親戚のみ。  なぜならお互い再婚だから。  そして、結婚式が終わり、新居へ……?  一緒に馬車に乗ったその方は誰ですか?

処理中です...