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心霊特番・スペイン(1)闘牛
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元リナーレス宮殿、現カサ・デ・アメリカ。綺麗な建物だ。ここに出る霊は言い伝えが諸説あるが、ともかく、女性が目撃されるという。ベランダで鈴を振っているとか、建物内をうろついているとか、声がするとか。
そこまで怖い感じはなく、ミトングローブ左手右手とえりなさんが怖がるだけで、撮影は終了した。締めの映像で、後ろのベランダに手を振る影が映っていたくらいだ。
翌日、朝食の席で、ディレクターが言った。
「ここはまあ、数合わせと言いますか。メインはイタリアとイギリスで。
だからスペインは、スポンサーからの要求の、観光ガイドと思ってて下さい」
思い切り、本音だった。
「今日は自由時間でしょ。闘牛見たいわ」
「日本に帰ったら徳之島にでも行くか」
「牛と牛の闘牛じゃないわよ、ばかっ」
美里様はムッとして、
「イタリアでは散々協力したでしょ」
と言う。
「それは美里様に憑いていたからで……ああ、はいはい。わかりました。直、いいか」
「勿論。いいねえ。ロマンだよねえ」
「そうよね」
直と美里様は、意気投合している。まあ、闘牛か。見たくない事もない。いや、見たい。
「じゃあ、食べ終わったし行きましょ」
さっさと立とうとする美里様に、ディレクターが
「チケットとか通訳はどうしましょう」
と言うが、美里様は、こっちを見た。
「スペイン語はできますから」
言うと、高田さん、ミトングローブ左手右手、えりなさんも付いて来る事になって、カメラさんも付いて来る事になった。
大所帯だ。気付くと、いつもの撮影での移動とほとんど変わらない。
ソルという日向の席とソンブラという日陰の席とソル・イ・ソンブラという一日いればどちらにもなる席とでは値段が違う。しかしとにかく日差しがキツイので、熱いし、灼ける。女優がいる以上、日陰にするべきだろう。そう思って、ソンブラ席を取った。
ちょうど中段あたりに、全員で固まって座る。地元の人は日向に多く、日陰は観光客と地元でも裕福そうな人が多い。僕達の近くには闘牛学校のオーナーとレストラン経営者がいて、テレビの撮影だというと、観戦の仕方などを色々と教えてくれた。
一巡見たところで、施設内まで案内してくれるとまで言うので、ディレクターが大喜びしていた。
出場を待つ人間。銛、槍、剣の手入れ。暗い所で待つ牛。出演者達も銛などを持たせてもらっている。ディレクターもカメラさんも、すでに仕事だ。嬉々として、カメラを方々に向けている。
闘牛場への入り口近くに来ると、観客の歓声がわあっと聞こえて来た。
「ここで、緊張するんだろうなあ」
「舞台の袖みたいなものね」
高田さんと美里様は、想像しているらしい。
それをカメラさんが逆行で撮っていると、フラフラとした足取りで出て行こうとする少年が近付いて来た。
「ん?ちょっと、君、君!」
慌てて、周りの人達が止める。
ジーンズにTシャツの中学生くらいのその子は、焦点の定まっていない目と夢遊病者のような様子で、
「行かなくちゃ。上手くやらなくちゃ。できる、できる、大丈夫」
とブツブツ言っている。押さえつける手をはねのけようとする力は、驚くほど強い。
「怜」
「だな」
大の大男を引きずって登場口まで近付く少年に浄力を当てると、ガクッと少年は態勢を崩し、キョロキョロと辺りを見廻した。
「あれ?」
「あなたに今霊が憑りついていたんですが、心当たりはありますか」
少年は握りしめていた銛に気付くと、悲鳴を上げてそれを手放そうとした。
「ねえ、怜君。もしかして」
高田さんが訊いて来る。
「はい。憑いていますね」
「ここで来たかー」
ディレクターが嬉しそうに笑った。
そこまで怖い感じはなく、ミトングローブ左手右手とえりなさんが怖がるだけで、撮影は終了した。締めの映像で、後ろのベランダに手を振る影が映っていたくらいだ。
翌日、朝食の席で、ディレクターが言った。
「ここはまあ、数合わせと言いますか。メインはイタリアとイギリスで。
だからスペインは、スポンサーからの要求の、観光ガイドと思ってて下さい」
思い切り、本音だった。
「今日は自由時間でしょ。闘牛見たいわ」
「日本に帰ったら徳之島にでも行くか」
「牛と牛の闘牛じゃないわよ、ばかっ」
美里様はムッとして、
「イタリアでは散々協力したでしょ」
と言う。
「それは美里様に憑いていたからで……ああ、はいはい。わかりました。直、いいか」
「勿論。いいねえ。ロマンだよねえ」
「そうよね」
直と美里様は、意気投合している。まあ、闘牛か。見たくない事もない。いや、見たい。
「じゃあ、食べ終わったし行きましょ」
さっさと立とうとする美里様に、ディレクターが
「チケットとか通訳はどうしましょう」
と言うが、美里様は、こっちを見た。
「スペイン語はできますから」
言うと、高田さん、ミトングローブ左手右手、えりなさんも付いて来る事になって、カメラさんも付いて来る事になった。
大所帯だ。気付くと、いつもの撮影での移動とほとんど変わらない。
ソルという日向の席とソンブラという日陰の席とソル・イ・ソンブラという一日いればどちらにもなる席とでは値段が違う。しかしとにかく日差しがキツイので、熱いし、灼ける。女優がいる以上、日陰にするべきだろう。そう思って、ソンブラ席を取った。
ちょうど中段あたりに、全員で固まって座る。地元の人は日向に多く、日陰は観光客と地元でも裕福そうな人が多い。僕達の近くには闘牛学校のオーナーとレストラン経営者がいて、テレビの撮影だというと、観戦の仕方などを色々と教えてくれた。
一巡見たところで、施設内まで案内してくれるとまで言うので、ディレクターが大喜びしていた。
出場を待つ人間。銛、槍、剣の手入れ。暗い所で待つ牛。出演者達も銛などを持たせてもらっている。ディレクターもカメラさんも、すでに仕事だ。嬉々として、カメラを方々に向けている。
闘牛場への入り口近くに来ると、観客の歓声がわあっと聞こえて来た。
「ここで、緊張するんだろうなあ」
「舞台の袖みたいなものね」
高田さんと美里様は、想像しているらしい。
それをカメラさんが逆行で撮っていると、フラフラとした足取りで出て行こうとする少年が近付いて来た。
「ん?ちょっと、君、君!」
慌てて、周りの人達が止める。
ジーンズにTシャツの中学生くらいのその子は、焦点の定まっていない目と夢遊病者のような様子で、
「行かなくちゃ。上手くやらなくちゃ。できる、できる、大丈夫」
とブツブツ言っている。押さえつける手をはねのけようとする力は、驚くほど強い。
「怜」
「だな」
大の大男を引きずって登場口まで近付く少年に浄力を当てると、ガクッと少年は態勢を崩し、キョロキョロと辺りを見廻した。
「あれ?」
「あなたに今霊が憑りついていたんですが、心当たりはありますか」
少年は握りしめていた銛に気付くと、悲鳴を上げてそれを手放そうとした。
「ねえ、怜君。もしかして」
高田さんが訊いて来る。
「はい。憑いていますね」
「ここで来たかー」
ディレクターが嬉しそうに笑った。
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