297 / 1,046
てるてる坊主(1)赤い雨
しおりを挟む
フライパンにハムを乗せ、卵を割り入れて、半熟にする。サンドウィッチ用の薄さにスライスした食パンの上にベシャメルソースを塗ってからそれを乗せ、スライスチーズを乗せ、もう1枚の食パンを乗せてバターで焼く。クロックマダム風ホットサンドだ。それと、キウイを入れたヨーグルト、レタスとりんごとじゃがいものサラダに、コーヒー。
朝食を並べた僕は、曇りとも晴ともつかない空を見上げて呟いた。
「今日は晴れるのかな。洗濯の都合があるんだがな」
御崎 怜、大学2年生。高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった、霊能師である。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「取り敢えず傘は毎日いるな、折り畳みでも。濡れて、風邪をひくなよ」
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視だ。
「うん」
兄が来たので、テーブルに着いて朝食を食べ始める。
「そう言えば、『雨の日はてるてる坊主が来て血の雨を降らせる』って噂があるんだって」
「何だ、それは。
ああ、あれか。天気予報士の印南洋子が首を切られて死んでいるのが見付かった事件のせいか。雨の中だったからな」
兄がすぐにその事件を思い出した。
「雨の日に人が死ぬなら、梅雨時は死体だらけだぞ」
「夏も冬も降り出すし、秋も秋雨だし。日本は年中死体の山だな。
第一歌だと、雨が降って首を切られるのはてるてる坊主の方だし」
「晴への期待と雨への恨みが募ったとかかも知れないぞ」
僕と兄はその噂を笑って済ませたのだが、その噂によって日本中が恐怖に突き落とされようとは、この時は想像もしなかったのである。
段々と厚みを増してきた雲は、夕方になって、ポツリ、ポツリと雨粒を落とし始めた。
「とうとう降って来たかぁ」
傘を持つ者は傘を広げ、無い者は足を早める。
天気予報士の堅田昌弘は、軽く溜め息をついて折り畳み傘をカバンから取り出した。天気を予測するのは難しいものだ。昔よりも気象レーダーが良くて予報しやすいとは言っても、時期によってはころころと気象データが変わるし、長期予報ともなれば尚更だ。
この前長期予報として週末は曇り空が続く見込みとテレビで言ってしまったが、月曜日の放送で、司会者にふざけ半分で『また外れましたね』と言われるのは必至だ。
想像して苦笑すると、駅の屋根の下から雨の降り出した町中へと、足を進める。
静かな住宅街で、雨まで降り出すと本当に人通りがなくなり、ひっそりと静まり返る。そこを、家に向かって急ぐ。
ふと顔を上げたのは、傘から覗いたその姿の一部のせいなのか。それとも、それから発せられる暗くて冷たい何かのせいなのか。
白いレインコートを来たその人物は、深く被ったフードのせいで顔が全く見えない。それにコートの丈も長く、足も靴も全く見えない。
そう。まるでてるてる坊主だった。
知らず止めていた足を動かし、ジッと凝視するのは失礼だったと目を軽く外して、横をすり抜けようとする。
と、急に体がクタリとなる。冷たい雨の降り注ぐ路上に倒れ込み、やけに寒いと思った。それに視界の隅で、赤い噴水が吹きあがっているのが見える。
こんな所になぜ噴水が?それも、赤い水?
ゴロリと頭が転がって、赤い水溜まりが急速に広がって行くのが目に入った。
それよりも、寒い。雨だけじゃなく、季節外れの異様な寒さも予報できなかった。これはいじられるな。
それが堅田の、最後の考えだった。開いた瞳は雨を映していたが、もう何も、見る事は叶わなかった。
朝食を並べた僕は、曇りとも晴ともつかない空を見上げて呟いた。
「今日は晴れるのかな。洗濯の都合があるんだがな」
御崎 怜、大学2年生。高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった、霊能師である。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「取り敢えず傘は毎日いるな、折り畳みでも。濡れて、風邪をひくなよ」
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視だ。
「うん」
兄が来たので、テーブルに着いて朝食を食べ始める。
「そう言えば、『雨の日はてるてる坊主が来て血の雨を降らせる』って噂があるんだって」
「何だ、それは。
ああ、あれか。天気予報士の印南洋子が首を切られて死んでいるのが見付かった事件のせいか。雨の中だったからな」
兄がすぐにその事件を思い出した。
「雨の日に人が死ぬなら、梅雨時は死体だらけだぞ」
「夏も冬も降り出すし、秋も秋雨だし。日本は年中死体の山だな。
第一歌だと、雨が降って首を切られるのはてるてる坊主の方だし」
「晴への期待と雨への恨みが募ったとかかも知れないぞ」
僕と兄はその噂を笑って済ませたのだが、その噂によって日本中が恐怖に突き落とされようとは、この時は想像もしなかったのである。
段々と厚みを増してきた雲は、夕方になって、ポツリ、ポツリと雨粒を落とし始めた。
「とうとう降って来たかぁ」
傘を持つ者は傘を広げ、無い者は足を早める。
天気予報士の堅田昌弘は、軽く溜め息をついて折り畳み傘をカバンから取り出した。天気を予測するのは難しいものだ。昔よりも気象レーダーが良くて予報しやすいとは言っても、時期によってはころころと気象データが変わるし、長期予報ともなれば尚更だ。
この前長期予報として週末は曇り空が続く見込みとテレビで言ってしまったが、月曜日の放送で、司会者にふざけ半分で『また外れましたね』と言われるのは必至だ。
想像して苦笑すると、駅の屋根の下から雨の降り出した町中へと、足を進める。
静かな住宅街で、雨まで降り出すと本当に人通りがなくなり、ひっそりと静まり返る。そこを、家に向かって急ぐ。
ふと顔を上げたのは、傘から覗いたその姿の一部のせいなのか。それとも、それから発せられる暗くて冷たい何かのせいなのか。
白いレインコートを来たその人物は、深く被ったフードのせいで顔が全く見えない。それにコートの丈も長く、足も靴も全く見えない。
そう。まるでてるてる坊主だった。
知らず止めていた足を動かし、ジッと凝視するのは失礼だったと目を軽く外して、横をすり抜けようとする。
と、急に体がクタリとなる。冷たい雨の降り注ぐ路上に倒れ込み、やけに寒いと思った。それに視界の隅で、赤い噴水が吹きあがっているのが見える。
こんな所になぜ噴水が?それも、赤い水?
ゴロリと頭が転がって、赤い水溜まりが急速に広がって行くのが目に入った。
それよりも、寒い。雨だけじゃなく、季節外れの異様な寒さも予報できなかった。これはいじられるな。
それが堅田の、最後の考えだった。開いた瞳は雨を映していたが、もう何も、見る事は叶わなかった。
10
お気に入りに追加
199
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐
当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。
でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。
その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。
ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。
馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。
途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。
【R18】やがて犯される病
開き茄子(あきなす)
恋愛
『凌辱モノ』をテーマにした短編連作の男性向け18禁小説です。
女の子が男にレイプされたり凌辱されたりして可哀そうな目にあいます。
女の子側に救いのない話がメインとなるので、とにかく可哀そうでエロい話が好きな人向けです。
※ノクターンノベルスとpixivにも掲載しております。
内容に違いはありませんので、お好きなサイトでご覧下さい。
また、新シリーズとしてファンタジーものの長編小説(エロ)を企画中です。
更新準備が整いましたらこちらとTwitterでご報告させていただきます。
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
【完結】後妻に入ったら、夫のむすめが……でした
仲村 嘉高
恋愛
「むすめの世話をして欲しい」
夫からの求婚の言葉は、愛の言葉では無かったけれど、幼い娘を大切にする誠実な人だと思い、受け入れる事にした。
結婚前の顔合わせを「疲れて出かけたくないと言われた」や「今日はベッドから起きられないようだ」と、何度も反故にされた。
それでも、本当に申し訳なさそうに謝るので、「体が弱いならしょうがないわよ」と許してしまった。
結婚式は、お互いの親戚のみ。
なぜならお互い再婚だから。
そして、結婚式が終わり、新居へ……?
一緒に馬車に乗ったその方は誰ですか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる