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心霊特番(5)防空壕跡
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防空壕に使っていたという洞窟に着いて、僕と直は、目を合わせた。
「部長の言ってた通りだな」
「ああ。ヤバイねえ」
ここは、晴れない怨念を抱えた霊の巣窟だ。壕に入って行く人達の影がカメラに映ったり、呻き声や泣き声、万歳という声が入っていたりするらしい。
簡単に見て出てくればまだ大丈夫かも知れないが、さっきの美里様みたいに挑発でもすれば、ここは火薬庫のようなものだ。簡単に火がついて大変な事になるだろう。
プロデューサーに言うと、ここが本当にまずいというのはわかったらしい。悩んだ後、
「絶対に軽々しく挑発しない、敬意を持って撮影する、という事で行こう」
と言った。
「え、肝試し的に来るだけで怒る事もありますよ」
「信頼してるよ。はっはっはっ」
呆然とした。
「説明が悪かったか?」
「いっそ、いないと言った方がテレビの人にはいいのかねえ」
「仕方ない。何とかしよう」
出演者とスタッフに、ここは色々と写真も動画もあるスポットだし、戦時中に亡くなった人がたくさんいる所なので、くれぐれも、敬意を払い、真摯な態度で臨んで欲しいと言うプロデューサーを見ながら、面倒臭い仕事を引き受けたものだと思った。
洞窟に入る。
プロデューサーのわざわざの注意と僕達の様子から、本当にいるのだと、皆、察しているらしい。固まって、こちらをチラチラと見ながら奥へ進んで行く。
ゴツゴツとした岩肌に影が映る。小石を落としても、パニックになりそうだ。美里様ですらも、へっぴり腰とは言わないが、怯えながら歩いている。
たくさんの目が、この侵入者グループをジッと注視していた。それは皆には見えなくとも、感じるものはあるらしい。
余計なふざけた言葉は無く、奥へ行って、手を合わせて、引き返す。
ようやく外、と思った時、黒い何者かの気配が待ち受けるかの如く洞窟の前に現れた。異質なものだ。
僕と直は先頭に出て、足を止めさせた。
ムカエニキタヨ ミサトサマ
それは、嬉々として言った。
「誰ですか」
フィアンセサ
スキッテイッタラ ミサトサマガ イッタンダ
キエナサイッテ
イウトオリ シンダカラ
ボクノモノダヨネ
ああ、言いそうだ。目に浮かぶようだ。
「いや、そういう意味ではなかったんじゃないですか」
ヤクソクシタンダカラ マモッテモラウヨ
ジャマヲスルナ
霊は、気配を益々凝らせて、靄のようになり、すぐ、実体化した。息を呑む気配が背中でする。
ヤクソクハ マモレ
ミサトサマノタメニ シンダノニ
それに呼応するかのように、周りの霊が一斉に気配を強めて行く。
ニッポンハ カツトイッタ
イキテリョシュウノハズカシメヲウケズ
オクニノタメ ニホンハマケナイ
アツイ クルシイ シニタクナイ デモ コドモノタメ
ザワザワと辺りの霊が可視化できるほど気配を強めて行き、出演者もスタッフも、悲鳴を上げて固まる。それを直が結界で包み込む。
「結界で保護しましたから、そのまま動かないでいて下さいねえ」
動ける余裕もなさそうだ。今や、周囲をグルリと霊に囲まれているのが、全員に見えている。
「何なのよ」
「美里様のフィアンセだそうですよ」
「はあ?知らないわよ。ばかじゃないの」
ソンナハズハナイ モラウ オレノモノ
ショウインモ ノコシタ
自称フィアンセはそう言うと、辺りの霊を片っ端から吸収し始めた。それでどんどん、大きくなる。されなかったものは、やはり喰い合って、大きくなって実体化していく。
「説得は無理だな」
「そうだねえ。祓うしかないねえ」
「穏便に行きたいのに、残念だ」
右手に刀を握り、周囲の霊を窺う。
と、まず1体が飛び出して来たので、それを斬って囲みを抜け、隣の1体に突っ込んで斬る。それで均衡が崩れて、バラバラと動き出す。
斬って仕留め、減らしていく傍で、直は札で、縛り、攻撃を防御する。
自称フィアンセ以外を滅するのに、大して時間はかからなかった。
「さて」
ハンコ オシタ
コンイントドケ
「血の手形って、あんた!?」
美里様が指さした。
「シミになって取れないのよ!どうしてくれるの!」
「いや、美里様。シミは置いといて」
高田さんが律儀に、役割を果たそうとしている。
「あんたはただのストーカーだ。ここにいた人達まで巻き込んで、迷惑だと思わないのか」
言う僕を睨みつけ、地団駄を踏んだ。
チガウ オレハ ミサトサマノ オットダ
イコウ ミサトサマ
「お断りよ、ばーか」
アアアアア……!!
シンジテタノニ!
ツレテイク カナラズ ワカッテクレル
自称フィアンセは両手を伸ばし、掴みかかろうとする。
足元に札が来る。それを足掛かりに飛び上がり、腕を斬り飛ばす。次の札を使って頭上へ飛び、一気に両断すると、自称フィアンセは、どうと倒れ、消えて行った。
周りの安全を確認し、結界を解除する。
「もう大丈夫ですねえ」
安心して、泣き出す者、へたり込んで呆然とする者、興奮のままに喋り続ける者。反応は様々だ。
美里様は、自称フィアンセのいた辺りを見て、溜め息をついた。
「私のせいなの」
「美里様らしくないですね。曲解して過激な行動に出たあっちが悪いに決まってるでしょうに。
まあ、もう少し言葉を付け足して、誤解されないようにすることをお勧めしますが」
「取り敢えずは、これでこのところの不審な事件は解決ですねえ」
「あと一つだけ、言っておかなければいけない事があります。撮影の後で、時間をいただけますか」
美里様は怪訝な顔をしながらも、
「いいわ」
と、傲然と胸を張った。
「部長の言ってた通りだな」
「ああ。ヤバイねえ」
ここは、晴れない怨念を抱えた霊の巣窟だ。壕に入って行く人達の影がカメラに映ったり、呻き声や泣き声、万歳という声が入っていたりするらしい。
簡単に見て出てくればまだ大丈夫かも知れないが、さっきの美里様みたいに挑発でもすれば、ここは火薬庫のようなものだ。簡単に火がついて大変な事になるだろう。
プロデューサーに言うと、ここが本当にまずいというのはわかったらしい。悩んだ後、
「絶対に軽々しく挑発しない、敬意を持って撮影する、という事で行こう」
と言った。
「え、肝試し的に来るだけで怒る事もありますよ」
「信頼してるよ。はっはっはっ」
呆然とした。
「説明が悪かったか?」
「いっそ、いないと言った方がテレビの人にはいいのかねえ」
「仕方ない。何とかしよう」
出演者とスタッフに、ここは色々と写真も動画もあるスポットだし、戦時中に亡くなった人がたくさんいる所なので、くれぐれも、敬意を払い、真摯な態度で臨んで欲しいと言うプロデューサーを見ながら、面倒臭い仕事を引き受けたものだと思った。
洞窟に入る。
プロデューサーのわざわざの注意と僕達の様子から、本当にいるのだと、皆、察しているらしい。固まって、こちらをチラチラと見ながら奥へ進んで行く。
ゴツゴツとした岩肌に影が映る。小石を落としても、パニックになりそうだ。美里様ですらも、へっぴり腰とは言わないが、怯えながら歩いている。
たくさんの目が、この侵入者グループをジッと注視していた。それは皆には見えなくとも、感じるものはあるらしい。
余計なふざけた言葉は無く、奥へ行って、手を合わせて、引き返す。
ようやく外、と思った時、黒い何者かの気配が待ち受けるかの如く洞窟の前に現れた。異質なものだ。
僕と直は先頭に出て、足を止めさせた。
ムカエニキタヨ ミサトサマ
それは、嬉々として言った。
「誰ですか」
フィアンセサ
スキッテイッタラ ミサトサマガ イッタンダ
キエナサイッテ
イウトオリ シンダカラ
ボクノモノダヨネ
ああ、言いそうだ。目に浮かぶようだ。
「いや、そういう意味ではなかったんじゃないですか」
ヤクソクシタンダカラ マモッテモラウヨ
ジャマヲスルナ
霊は、気配を益々凝らせて、靄のようになり、すぐ、実体化した。息を呑む気配が背中でする。
ヤクソクハ マモレ
ミサトサマノタメニ シンダノニ
それに呼応するかのように、周りの霊が一斉に気配を強めて行く。
ニッポンハ カツトイッタ
イキテリョシュウノハズカシメヲウケズ
オクニノタメ ニホンハマケナイ
アツイ クルシイ シニタクナイ デモ コドモノタメ
ザワザワと辺りの霊が可視化できるほど気配を強めて行き、出演者もスタッフも、悲鳴を上げて固まる。それを直が結界で包み込む。
「結界で保護しましたから、そのまま動かないでいて下さいねえ」
動ける余裕もなさそうだ。今や、周囲をグルリと霊に囲まれているのが、全員に見えている。
「何なのよ」
「美里様のフィアンセだそうですよ」
「はあ?知らないわよ。ばかじゃないの」
ソンナハズハナイ モラウ オレノモノ
ショウインモ ノコシタ
自称フィアンセはそう言うと、辺りの霊を片っ端から吸収し始めた。それでどんどん、大きくなる。されなかったものは、やはり喰い合って、大きくなって実体化していく。
「説得は無理だな」
「そうだねえ。祓うしかないねえ」
「穏便に行きたいのに、残念だ」
右手に刀を握り、周囲の霊を窺う。
と、まず1体が飛び出して来たので、それを斬って囲みを抜け、隣の1体に突っ込んで斬る。それで均衡が崩れて、バラバラと動き出す。
斬って仕留め、減らしていく傍で、直は札で、縛り、攻撃を防御する。
自称フィアンセ以外を滅するのに、大して時間はかからなかった。
「さて」
ハンコ オシタ
コンイントドケ
「血の手形って、あんた!?」
美里様が指さした。
「シミになって取れないのよ!どうしてくれるの!」
「いや、美里様。シミは置いといて」
高田さんが律儀に、役割を果たそうとしている。
「あんたはただのストーカーだ。ここにいた人達まで巻き込んで、迷惑だと思わないのか」
言う僕を睨みつけ、地団駄を踏んだ。
チガウ オレハ ミサトサマノ オットダ
イコウ ミサトサマ
「お断りよ、ばーか」
アアアアア……!!
シンジテタノニ!
ツレテイク カナラズ ワカッテクレル
自称フィアンセは両手を伸ばし、掴みかかろうとする。
足元に札が来る。それを足掛かりに飛び上がり、腕を斬り飛ばす。次の札を使って頭上へ飛び、一気に両断すると、自称フィアンセは、どうと倒れ、消えて行った。
周りの安全を確認し、結界を解除する。
「もう大丈夫ですねえ」
安心して、泣き出す者、へたり込んで呆然とする者、興奮のままに喋り続ける者。反応は様々だ。
美里様は、自称フィアンセのいた辺りを見て、溜め息をついた。
「私のせいなの」
「美里様らしくないですね。曲解して過激な行動に出たあっちが悪いに決まってるでしょうに。
まあ、もう少し言葉を付け足して、誤解されないようにすることをお勧めしますが」
「取り敢えずは、これでこのところの不審な事件は解決ですねえ」
「あと一つだけ、言っておかなければいけない事があります。撮影の後で、時間をいただけますか」
美里様は怪訝な顔をしながらも、
「いいわ」
と、傲然と胸を張った。
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