278 / 1,046
心霊特番(3)守る者
しおりを挟む
事故の相次ぐ山道というところでロケをしたらそろそろ夜明けで、ホテルへ向かう。ロケは夜に行われるので、ロケの間、昼夜逆転の生活になる。まあ、僕には大して違いはないが。
小さな町のホテルにチェックインし、喫茶ルームで食事をとってから、割り当てられた部屋の鍵を受け取って解散となった。何せ午前6時。開いている店がコンビニくらいしかまだない。
美里様は真っすぐ部屋へ向かったので、僕達もそれに続く。
廊下からチェックして部屋に異常な気配は無さそうなので、
「隣にいますから」
と言った時、シャッター音がしたのでそちらを見る。
「おはようございます」
カメラと大きなバッグを下げた男が、笑いながら近付いて来る。
「取材はお断りよ。アポとって頂戴」
「芸能記者がアポとってちゃあ、仕事になりませんよ」
男はニヤニヤとしながら、どんどん近付く。
「女王様の周囲が、きな臭いって聞きましたよ。恨まれてるんじゃないですか、相当」
「知らないわ」
「ももかちゃん、泣いてましたよ。セリフが覚えられないってだけで怒られたって」
「ウソ泣きでしょ。プロなら撮影前に覚えておきなさいよ。長ゼリフってわけでもないのに」
「川島君、へこんでましたよ」
「顔だけでやっていけるのは若い内だけって親切に教えてあげただけよ」
「安西監督、怒ってましたよ」
「脚本が陳腐なんだもの。あんなの誰が見ても、面白くないわ」
僕と直は、敵の多さに戦慄した。この様子じゃあ、まだまだ霊とか出てきそうだ。
でも、美里様の言う事は、間違っていないとも思う。
美里様はカードキーを使ってドアを開け、中へ入ろうとする。そこへ、記者がグイッと身を割り込ませた。
「ちょっと」
「それ以上は犯罪行為になりますよ」
「やめないと、警察呼ぶからねえ」
記者は肩を竦めると、言葉を継いだ。
「ひとつだけ」
「はあ。何」
「父親と継母と弟。家族と不仲だとか。生母に売られたのと関係あります?」
何を言われても平然としていた美里様は、キッと口元を引き締め、それをすかさず記者は写真に撮った。
「あなたに関係ないわ」
「お母さんの事は?」
「帰って。話す事はないわ」
グイッと、記者を廊下へ押し出そうとする。
「暴力ですか?」
「正当防衛を証言します」
「プライバシーの侵害だねえ」
「知る権利だよ」
「ハッ。便利に使ってるが、著名人なら丸裸にしてもいいって事にはならない」
その時、気配が急速に膨れ上がり、廊下の電灯がピシッと音を立てた。そして、派手に割れる。
毒気を抜かれたように、記者が電灯の残骸を見た。その隙に、ドアを直が閉めてしまう。
「あ」
「ヒビが入っていたんでしょうかねえ」
「危ない、危ない」
言っていると、五月さんが足早に近付いて来た。
「何か霜月に取材ですか」
記者は僕達を睨みながら舌打ちをし、離れて行った。
「今の、美里様を守るように憑いてる、アレだよねえ」
「取り敢えずは味方なんだろうな」
五月さんは辿り着くと、記者の背中を見送り、
「ゴシップ専門のフリーの記者ですね。とにかく、入りましょうか」
と、ドアをノックした。
様子を見に来た五月さんに、
「大丈夫よ。シャワー浴びて来るから、待ってて」
と言って美里様はシャワールームに消え、僕達は五月さんに部屋でこれまでの経緯を説明した。
「当たりがキツイですから。良くとれば歯に衣着せぬ、悪くとれば恨まれる、なんですよね。
ああ。あの自殺した子も覚えていますよ。それに、安西監督に川島君にももかですか。はあ。面倒な。
教えて頂いて、助かります」
「いえ。それとさっきの記者の件です。記者を追い払うように、霊が動きました。追い払う事はできましたが、記事にされませんか。それと、家族について、色々と言っていましたが」
「あれは諦めてないし、珍しく美里様が顔色を変えていたからねえ」
五月さんは考え込むように腕を組んだ。
「嘘ではないし、記事になっても仕方ないわね」
美里様が、ラフな服装に着替えて出て来た。
「美里――!」
「愛人だった母親は、本妻に子供ができないから私を引き取りたいって父親に言われて、お金と引き換えに私を売り渡した。その後になって本妻が弟を産んで、私は異物になった。母からも父からも要らない子。事実でしょ」
言いながら、冷蔵庫を開けて覗き込む。
五月さんは僕達にそれを聞かれた事で焦っているようだし、僕は、ヘビーな事を聞いてしまったなあ、と思っていた。美里様の言動は、こういう事が大きく関わっているのだろう。
「あの、この事は」
「知り得た事を漏らす事はありません」
「はい、安心して下さいねえ」
五月さんは、取り敢えずは安心したらしかった。
しかし、本当にそうだろうか。
「まあ、この先も何かあるかもしれませんので、宜しくお願い致します」
五月さんに改めて頼まれて、僕達は、隣の部屋へ行った。
「あのキツイ当たりは、拗ねてるって事か?」
「どうせ私は――かねえ」
「でも、人気あるんだろ?要らない女優じゃないな、少なくとも。
面倒臭いなあ」
「何にせよ、少なくともあと1人はまだ襲撃して来るかも知れないんだねえ」
「また、仕事関係の誰かかな」
「可能性大だねえ」
「今晩のロケは廃校と元防空壕か。部長が言うには本物の可能性があるらしいからな」
「もう寝るよ。睡眠不足はまずいしねえ。
こんな明るいのに、寝られるかなあ」
直は言いながら、シャワールームへ入って行った。
僕は予習をしておこうと、次のロケ地について調べ始めた。
小さな町のホテルにチェックインし、喫茶ルームで食事をとってから、割り当てられた部屋の鍵を受け取って解散となった。何せ午前6時。開いている店がコンビニくらいしかまだない。
美里様は真っすぐ部屋へ向かったので、僕達もそれに続く。
廊下からチェックして部屋に異常な気配は無さそうなので、
「隣にいますから」
と言った時、シャッター音がしたのでそちらを見る。
「おはようございます」
カメラと大きなバッグを下げた男が、笑いながら近付いて来る。
「取材はお断りよ。アポとって頂戴」
「芸能記者がアポとってちゃあ、仕事になりませんよ」
男はニヤニヤとしながら、どんどん近付く。
「女王様の周囲が、きな臭いって聞きましたよ。恨まれてるんじゃないですか、相当」
「知らないわ」
「ももかちゃん、泣いてましたよ。セリフが覚えられないってだけで怒られたって」
「ウソ泣きでしょ。プロなら撮影前に覚えておきなさいよ。長ゼリフってわけでもないのに」
「川島君、へこんでましたよ」
「顔だけでやっていけるのは若い内だけって親切に教えてあげただけよ」
「安西監督、怒ってましたよ」
「脚本が陳腐なんだもの。あんなの誰が見ても、面白くないわ」
僕と直は、敵の多さに戦慄した。この様子じゃあ、まだまだ霊とか出てきそうだ。
でも、美里様の言う事は、間違っていないとも思う。
美里様はカードキーを使ってドアを開け、中へ入ろうとする。そこへ、記者がグイッと身を割り込ませた。
「ちょっと」
「それ以上は犯罪行為になりますよ」
「やめないと、警察呼ぶからねえ」
記者は肩を竦めると、言葉を継いだ。
「ひとつだけ」
「はあ。何」
「父親と継母と弟。家族と不仲だとか。生母に売られたのと関係あります?」
何を言われても平然としていた美里様は、キッと口元を引き締め、それをすかさず記者は写真に撮った。
「あなたに関係ないわ」
「お母さんの事は?」
「帰って。話す事はないわ」
グイッと、記者を廊下へ押し出そうとする。
「暴力ですか?」
「正当防衛を証言します」
「プライバシーの侵害だねえ」
「知る権利だよ」
「ハッ。便利に使ってるが、著名人なら丸裸にしてもいいって事にはならない」
その時、気配が急速に膨れ上がり、廊下の電灯がピシッと音を立てた。そして、派手に割れる。
毒気を抜かれたように、記者が電灯の残骸を見た。その隙に、ドアを直が閉めてしまう。
「あ」
「ヒビが入っていたんでしょうかねえ」
「危ない、危ない」
言っていると、五月さんが足早に近付いて来た。
「何か霜月に取材ですか」
記者は僕達を睨みながら舌打ちをし、離れて行った。
「今の、美里様を守るように憑いてる、アレだよねえ」
「取り敢えずは味方なんだろうな」
五月さんは辿り着くと、記者の背中を見送り、
「ゴシップ専門のフリーの記者ですね。とにかく、入りましょうか」
と、ドアをノックした。
様子を見に来た五月さんに、
「大丈夫よ。シャワー浴びて来るから、待ってて」
と言って美里様はシャワールームに消え、僕達は五月さんに部屋でこれまでの経緯を説明した。
「当たりがキツイですから。良くとれば歯に衣着せぬ、悪くとれば恨まれる、なんですよね。
ああ。あの自殺した子も覚えていますよ。それに、安西監督に川島君にももかですか。はあ。面倒な。
教えて頂いて、助かります」
「いえ。それとさっきの記者の件です。記者を追い払うように、霊が動きました。追い払う事はできましたが、記事にされませんか。それと、家族について、色々と言っていましたが」
「あれは諦めてないし、珍しく美里様が顔色を変えていたからねえ」
五月さんは考え込むように腕を組んだ。
「嘘ではないし、記事になっても仕方ないわね」
美里様が、ラフな服装に着替えて出て来た。
「美里――!」
「愛人だった母親は、本妻に子供ができないから私を引き取りたいって父親に言われて、お金と引き換えに私を売り渡した。その後になって本妻が弟を産んで、私は異物になった。母からも父からも要らない子。事実でしょ」
言いながら、冷蔵庫を開けて覗き込む。
五月さんは僕達にそれを聞かれた事で焦っているようだし、僕は、ヘビーな事を聞いてしまったなあ、と思っていた。美里様の言動は、こういう事が大きく関わっているのだろう。
「あの、この事は」
「知り得た事を漏らす事はありません」
「はい、安心して下さいねえ」
五月さんは、取り敢えずは安心したらしかった。
しかし、本当にそうだろうか。
「まあ、この先も何かあるかもしれませんので、宜しくお願い致します」
五月さんに改めて頼まれて、僕達は、隣の部屋へ行った。
「あのキツイ当たりは、拗ねてるって事か?」
「どうせ私は――かねえ」
「でも、人気あるんだろ?要らない女優じゃないな、少なくとも。
面倒臭いなあ」
「何にせよ、少なくともあと1人はまだ襲撃して来るかも知れないんだねえ」
「また、仕事関係の誰かかな」
「可能性大だねえ」
「今晩のロケは廃校と元防空壕か。部長が言うには本物の可能性があるらしいからな」
「もう寝るよ。睡眠不足はまずいしねえ。
こんな明るいのに、寝られるかなあ」
直は言いながら、シャワールームへ入って行った。
僕は予習をしておこうと、次のロケ地について調べ始めた。
10
お気に入りに追加
199
あなたにおすすめの小説
父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました
四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。
だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
未亡人クローディアが夫を亡くした理由
臣桜
キャラ文芸
老齢の辺境伯、バフェット伯が亡くなった。
しかしその若き未亡人クローディアは、夫が亡くなったばかりだというのに、喪服とは色ばかりの艶やかな姿をして、毎晩舞踏会でダンスに興じる。
うら若き未亡人はなぜ老齢の辺境伯に嫁いだのか。なぜ彼女は夫が亡くなったばかりだというのに、楽しげに振る舞っているのか。
クローディアには、夫が亡くなった理由を知らなければならない理由があった――。
※ 表紙はニジジャーニーで生成しました
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる