体質が変わったので

JUN

文字の大きさ
上 下
252 / 1,046

紅鬼(1)封じともぐりの霊能者

しおりを挟む
 地元の、いつも遊びに行く山であろうとも、遠足となったら特別だ。皆でお弁当を食べ、おやつを食べながら、木によじ登ったり、綺麗に紅葉した葉っぱを集めたり、はしゃぎまわっていた。地元小学校1年生の、秋の遠足である。
「大きい石の下に、幼虫はいるんだろ?」
「じゃあ、あれとか?」
 加藤 充と川口ヒロは、幼虫探しに夢中になっていた。
 ふと目に付いたのは、何かを祀っているとかいう石だった。いわれは何も覚えていないが、その下に、幼虫がいそうな気はしていた。
「動くかな」
「だめなんじゃないの、それに触ったら」
「ちょっと傾けて、下を見るだけだもん。大丈夫だよ、ヒロ」
 結局2人がかりでその大きい石を傾け、ゴロンと横に転がした。
「いないなあ」
「いると思ったのにね。残念」
 また2人で戻そうとしたのだが、重くて、思うように動かせない。結局、ズルズルと押して、どうにか元の場所に倒れたままではあったが戻す事に成功し、先生の集合の声に、その場を離れたのだった。

 紅葉が進む秋の山の一部に、突然、枯れた部分ができたのは翌日だった。一夜にして何があったのかと、不審に思いながら地元のお年寄りが見に行って、それを見つけて、青くなった。
「た、大変だ。封印石が、封印が破れとる!」
 そして大慌てで、知らせるために山を急いで降りて行ったのだった。

 新幹線に並んで乗りながら、資料に目を通す。
「封印されてたのは、紅鬼こうきという鬼女か」
 御崎 怜みさき れん、大学1年生。高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった、霊能師である。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「平安時代の話らしいねえ」
 町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いでもある。
 僕と直は、東北のとある地区に緊急依頼で向かっていた。山で木枯れが突然発生したので見に行ったら、鬼女を封印していた石が倒れていたのが見つかったそうだ。この時点ではまだ年寄りを中心に騒ぐだけだったのだが、木枯れが徐々に進み、動物の食い散らかされた死体が多数見つかるにつれて、皆がまずいと慌て始めたという。それで一旦は、地元で拝み屋をして来た家に持ち込んだのだが、解決できず、霊能師協会に電話する事となったのが昨日。僕と直に依頼の連絡が来、今日の朝、出発して来たのだ。
 平安時代。貧乏貴族の娘が、さる貴公子の妻となる。ところが、この貴公子は次々に妻を娶り、次第に若くて新しい妻の所にばかり通うようになり、この女は忘れ去られ、打ち捨てられることになった。
 悔しさ、憎さに身を焦がしたこの女は、若い女や子供を襲い、その内、その身を食べるようになってしまったという。そのせいで角の生えた鬼の姿と化し、衣は真っ赤に染まり、いつしか紅鬼と呼ばれる恐ろしい鬼女になってしまったそうだ。
 その鬼女を陰陽師がこの地まで追い、封印したのが封印石で、石の下ではまだ鬼女が生きていると言われていたらしい。
「その石を、誰かが動かしたと」
「大した囲いとかも無いもんねえ」
「もっと分かり易く、囲いとかしとけばよかったのに」
「全くだねえ」
「それにしても、女の嫉妬か」
「いつの時代も、恐ろしいよねえ」
「でも、この時代の婚姻って、あやふやだよな。最初の三日は連続して通うものの、あとは通い婚で、いつの間にか、遠のいてたり、別の男が通い出してたり。と思えばひょっこりとまた通って来たり。
 大らかというか……」
「浮気とか離婚とかいう線引きが分かり難いよねえ」
「まあ、自分の所に来なくなってよそにばかり、と聞いたら、腹は立つだろうけどな」
「鬼にもなるかあ」
 はあ、と溜め息をつく。
 溜め息の原因はもう一つある。最初に話を持ち込まれた、拝み屋の家だ。霊能師資格を取っていないまま、それに準ずる行為を行うのは犯罪だ。それで先代は、自身が高齢であることもあってやめたらしい。しかしその孫が納得しておらず、自分は霊能者だと言い張っているらしい。
 これについては陰陽課が別個に動くそうだが、今はまだ現地におり、反感バリバリで待ち構えているだろうと言われた。
「ああ。面倒臭いな」
「嫌な予感しかしないねえ」
 2人でもう一度、大きな溜め息をついた。









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

ずっと女の子になりたかった 男の娘の私

ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。 ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。 そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

天界アイドル~ギリシャ神話の美少年達が天界でアイドルになったら~

B-pro@神話創作してます
キャラ文芸
全話挿絵付き!ギリシャ神話モチーフのSFファンタジー・青春ブロマンス(BL要素あり)小説です。 現代から約1万3千年前、古代アトランティス大陸は水没した。 古代アトランティス時代に人類を助けていた宇宙の地球外生命体「神」であるヒュアキントスとアドニスは、1万3千年の時を経て宇宙(天界)の惑星シリウスで目を覚ますが、彼らは神格を失っていた。 そんな彼らが神格を取り戻す条件とは、他の美少年達ガニュメデスとナルキッソスとの4人グループで、天界に地球由来のアイドル文化を誕生させることだったーー⁉ 美少年同士の絆や友情、ブロマンス、また男神との同性愛など交えながら、少年達が神として成長してく姿を描いてます。

女の子にされちゃう!?「……男の子やめる?」彼女は優しく撫でた。

広田こお
恋愛
少子解消のため日本は一夫多妻制に。が、若い女性が足りない……。独身男は女性化だ! 待て?僕、結婚相手いないけど、女の子にさせられてしまうの? 「安心して、いい夫なら離婚しないで、あ・げ・る。女の子になるのはイヤでしょ?」 国の決めた結婚相手となんとか結婚して女性化はなんとか免れた。どうなる僕の結婚生活。

女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男

湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。 何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。

ホテルのシングルルームに現れる男に抱かれた私

マッキーの世界
大衆娯楽
ホテルに泊まることが趣味な私。 平日の安い日を狙い、ちょっといい部屋を予約する。 ダブルベッドの広い部屋を狙うの。 この手の部屋って、お風呂も広かったりするんだよね。 今週も1人で泊まるため、部屋を予約した。

処理中です...