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妄執(4)血脈
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前総帥英行氏の、妄執と言うべき、念だった。
「そ、総帥」
英人氏は英行氏に、震えるような声をかけた。ずっと父親に押さえつけられてきたというのが、察せられる。
「早くせんか」
英行氏は手をあり得ないほど伸ばして行って冴子姉を掴もうとする。が、兄がその前に立ってその腕を払い、その腕にお茶をかけた。伊勢神宮の祈祷と天照大御神の神威付きだ。キリスト教の聖水みたいなもんだろう。
英行氏はキッと兄を睨みつけた。
オノレェ ワシニサカラウカ
「祓うよ、冴子姉」
「やって。跡形もなく」
「兄ちゃん、冴子姉、下がって。冴子姉を守るのが兄ちゃんの役目なら、僕の役目はこれを祓う事だ。前原さんと英人さんも、向こうに行ってて下さい。
直、そっちは任せた」
「りょうかーい」
右手に刀を握る。
ソウスイノチイハ ワガチスジニ
ダレニモワタサン
ソノオトコヲ コロス
何だと。
「おい。僕の兄に手を出すとか言って、楽に成仏できると思うなよ」
後ろで、誰かがヒイイッと声を上げた。
ん?今、悲鳴を上げるタイミングだったか?まあいい。
神威を上げて、軽く英行氏の肩に斬りつける。
ギャッ!
それでも憎々し気にこちらを睨みつけ、掴みかかろうとしてくる。その腕を斬り飛ばす。
「そうやって、総帥というものに今もしがみついて、地位、金銭を求め続けて。もういいでしょう」
ワタサン ワシノモノダ
ブンケニナド ワシノチデハナイ
「あなたの妄執が、あなたの息子さんもお孫さんも、不幸にする。それにあなた自身も」
ナニヲイウ
「もうあなたにはいらないものです。捨て去って、楽になりましょう」
英行氏は戸惑うようにしていたが、それでも、妄執は捨てられないのか。攻撃を続けて来る。
コロス コロス コロス
それをいなし、斬り飛ばし、真ん中に刀を突き立てる。
「生きてる人間に、後は任せて、ゆっくりすればいいんですよ。お疲れ様です」
ああ、ああ……
うむ
英行氏は落ち着いて、知性と威厳を感じさせる顔つきになると、逝った。
振り返って、皆の方を見る。
「終わりましたよ」
英人氏、前原さんは座り込んでおり、冴子姉は兄に抱えられていた。
「わっ!大丈夫!?何が!?」
「怜、怜、神威だよう。ボクと司さんは慣れてるけどねえ」
あ、忘れてた。
「じゃあ、冴子姉にも少しずつ慣れてもらわないと」
「う、望むところよ」
「頼む、冴子。少しずつなら大丈夫だから」
「どんと来なさいだわ」
英人氏と前原さんを部屋で楽に座らせて、落ち着いたところを見計らってから、説明する。
「前総帥ががっちりと憑いていました。総帥の座に固執し、地位や金銭に随分と執着していたようですね。重苦しくて、慢性的な疲労などが感じられたと思います。もう祓いましたので、その影響による不調は心配ありません」
「……ありがとう、ございました」
英人氏と前原さんは、頭を下げた。
「それで、冴――」
「行きません。私はこの人と一緒になりますから」
「冴子は渡せません」
英人氏は嘆息し、前原さんは、
「しかしグループの」
と言いかけたが、それを英人氏が止めた。
「血統にこだわる方が、今時おかしい。どうしてもというなら、例の子を養子に取って継がせる。御崎君が今の仕事を辞める事はないんだろう?
このまま、元の関係に戻ろう。
だが最後に一度だけ。司君、娘をよろしく頼む。怜君も、頼む。冴子。幸せになりなさい。
さ、帰ろうか、前原君」
言って、英人氏は立ち上がり、玄関へ向かう。前原さんもその後を追い、
「失礼します」
と一礼して帰って行った。
「直、ありがとうな。仏間も無事だ」
「へへへ」
「こんな室内で振り回すもんじゃないな。今度は短くしてみよう」
「じゃあ、別の師匠がいるんじゃないかねえ」
「誰だろうな……忍者?」
「忍者は手裏剣じゃないのかねえ」
「じゃあ、やくざの鉄砲玉?」
「怜、それだけはやめなさい」
「とにかくお腹空いたわあ」
「ご飯にしよう。直、食べていくだろ。家に電話しとけよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
いそいそと、夕食の支度に取り掛かる。楽しく、賑やかに。
冴子姉が、やっと本当に姉さんになる。家族が増えるのは、楽しみで、嬉しい。
「今日は何、怜」
「早くできるように、焼肉丼かな。後は、やっことひじきサラダとじゃが芋とニラの味噌汁にしよう」
「焼肉丼?やったーっ!」
冴子姉は、意外と肉食だ。
兄がそんな様子を見て笑っている。
「それにしても、大したもんね。前も思ったけど、鉄壁のバリアに容赦ない攻撃。名コンビよね。
あ、忘れてた。編集部の多田さんが、取材させて欲しいって作家がたくさんいるからどうしましょうって」
「面倒臭い。却下で」
「ええー。勿体ない」
「いいの。小さい幸せと安全な毎日が一番」
「そ、総帥」
英人氏は英行氏に、震えるような声をかけた。ずっと父親に押さえつけられてきたというのが、察せられる。
「早くせんか」
英行氏は手をあり得ないほど伸ばして行って冴子姉を掴もうとする。が、兄がその前に立ってその腕を払い、その腕にお茶をかけた。伊勢神宮の祈祷と天照大御神の神威付きだ。キリスト教の聖水みたいなもんだろう。
英行氏はキッと兄を睨みつけた。
オノレェ ワシニサカラウカ
「祓うよ、冴子姉」
「やって。跡形もなく」
「兄ちゃん、冴子姉、下がって。冴子姉を守るのが兄ちゃんの役目なら、僕の役目はこれを祓う事だ。前原さんと英人さんも、向こうに行ってて下さい。
直、そっちは任せた」
「りょうかーい」
右手に刀を握る。
ソウスイノチイハ ワガチスジニ
ダレニモワタサン
ソノオトコヲ コロス
何だと。
「おい。僕の兄に手を出すとか言って、楽に成仏できると思うなよ」
後ろで、誰かがヒイイッと声を上げた。
ん?今、悲鳴を上げるタイミングだったか?まあいい。
神威を上げて、軽く英行氏の肩に斬りつける。
ギャッ!
それでも憎々し気にこちらを睨みつけ、掴みかかろうとしてくる。その腕を斬り飛ばす。
「そうやって、総帥というものに今もしがみついて、地位、金銭を求め続けて。もういいでしょう」
ワタサン ワシノモノダ
ブンケニナド ワシノチデハナイ
「あなたの妄執が、あなたの息子さんもお孫さんも、不幸にする。それにあなた自身も」
ナニヲイウ
「もうあなたにはいらないものです。捨て去って、楽になりましょう」
英行氏は戸惑うようにしていたが、それでも、妄執は捨てられないのか。攻撃を続けて来る。
コロス コロス コロス
それをいなし、斬り飛ばし、真ん中に刀を突き立てる。
「生きてる人間に、後は任せて、ゆっくりすればいいんですよ。お疲れ様です」
ああ、ああ……
うむ
英行氏は落ち着いて、知性と威厳を感じさせる顔つきになると、逝った。
振り返って、皆の方を見る。
「終わりましたよ」
英人氏、前原さんは座り込んでおり、冴子姉は兄に抱えられていた。
「わっ!大丈夫!?何が!?」
「怜、怜、神威だよう。ボクと司さんは慣れてるけどねえ」
あ、忘れてた。
「じゃあ、冴子姉にも少しずつ慣れてもらわないと」
「う、望むところよ」
「頼む、冴子。少しずつなら大丈夫だから」
「どんと来なさいだわ」
英人氏と前原さんを部屋で楽に座らせて、落ち着いたところを見計らってから、説明する。
「前総帥ががっちりと憑いていました。総帥の座に固執し、地位や金銭に随分と執着していたようですね。重苦しくて、慢性的な疲労などが感じられたと思います。もう祓いましたので、その影響による不調は心配ありません」
「……ありがとう、ございました」
英人氏と前原さんは、頭を下げた。
「それで、冴――」
「行きません。私はこの人と一緒になりますから」
「冴子は渡せません」
英人氏は嘆息し、前原さんは、
「しかしグループの」
と言いかけたが、それを英人氏が止めた。
「血統にこだわる方が、今時おかしい。どうしてもというなら、例の子を養子に取って継がせる。御崎君が今の仕事を辞める事はないんだろう?
このまま、元の関係に戻ろう。
だが最後に一度だけ。司君、娘をよろしく頼む。怜君も、頼む。冴子。幸せになりなさい。
さ、帰ろうか、前原君」
言って、英人氏は立ち上がり、玄関へ向かう。前原さんもその後を追い、
「失礼します」
と一礼して帰って行った。
「直、ありがとうな。仏間も無事だ」
「へへへ」
「こんな室内で振り回すもんじゃないな。今度は短くしてみよう」
「じゃあ、別の師匠がいるんじゃないかねえ」
「誰だろうな……忍者?」
「忍者は手裏剣じゃないのかねえ」
「じゃあ、やくざの鉄砲玉?」
「怜、それだけはやめなさい」
「とにかくお腹空いたわあ」
「ご飯にしよう。直、食べていくだろ。家に電話しとけよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
いそいそと、夕食の支度に取り掛かる。楽しく、賑やかに。
冴子姉が、やっと本当に姉さんになる。家族が増えるのは、楽しみで、嬉しい。
「今日は何、怜」
「早くできるように、焼肉丼かな。後は、やっことひじきサラダとじゃが芋とニラの味噌汁にしよう」
「焼肉丼?やったーっ!」
冴子姉は、意外と肉食だ。
兄がそんな様子を見て笑っている。
「それにしても、大したもんね。前も思ったけど、鉄壁のバリアに容赦ない攻撃。名コンビよね。
あ、忘れてた。編集部の多田さんが、取材させて欲しいって作家がたくさんいるからどうしましょうって」
「面倒臭い。却下で」
「ええー。勿体ない」
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