233 / 1,046
幸せのありか(3)家族のために
しおりを挟む
協会で係員に書類と5000円を渡し、ソファに座り込む。
「お、何だ怜怜。お疲れか?」
蜂谷恭介。霊能師で、呪術、解呪に強く、電波を介した術のエキスパートで、パソコン関係にも明るい。シニカルなところがあるが、根はお人好しで、面倒見がいい。
「ああ、蜂谷。いや、別に、うん」
「どうした?帰らないのか?お兄ちゃんが心配するぞ?」
蜂谷が笑いながら言うのに、笑ってごまかしておく。
「病院で飛び降り自殺者の霊、ですか」
その時、新たな仕事の話が聞こえた。
見ると、仕事を受注した係員が、それを書類に記入しているところだった。
「あ、それ、僕が行きます。今から」
「は?今、ですか?」
「はい。今は何もないから暇だし、いいですよね」
「えっと、はい。じゃあ、サインをお願いします。依頼は、自殺者の霊を祓う事です。現場はここ」
僕は説明を受けて、協会を出た。
最寄り駅で電車を降りる。と、苦手な人が、よりによって真ん前に立っていた。
高梨茉莉。兄の学生時代の友人で、勝気でズケズケと物を言う人で、向こうははっきりと、僕が嫌いらしい。自分が3回振られたのも兄が結婚しないのも、僕のせいだと責められた。
茉莉さんは口元を引き結び、眉を吊り上げ、僕と入れ違いに電車に乗った。
「こんばんは」
苦手だが、挨拶しないのもどうかと思って挨拶したが、茉莉さんはフンと鼻を鳴らした。
「この頃家に居付かないって心配してるそうね。チッ。いてもいなくても、あんたって邪魔ね。もう、存在自体が迷惑なのね」
そう言った時、ドアが閉まった。そばにいた学生グループが、会話が聞こえていたのか、ギョッとしたようにこっちを見ていた。
そのまま出る電車に背を向けて、歩き出す。
本当に、言いたい事をそのまま言う人だ。でも、そういう人が言う事なので、本当なのかも知れない。
「とにかく、仕事、仕事」
僕は、依頼先の病院を目指した。
屋上から自殺した患者の霊が今も飛び降り続け、仲間になろうと誘うらしい。
夜間出入口で守衛さんに言って、屋上に行く。
重いドアを開けると、風が吹き付けて来た。手すりの前に、パジャマの女の子が立っている。あの子が自殺した霊らしい。
「こんばんは」
長い髪をなびかせて、その子が振り返る。
「こんばんは。あなた、患者じゃないのね」
「まあね。君は何を?」
「死のうと思って。
でも、変なの。飛び降りた筈なのに、またここに立っているのよ。ねえ、どう思う?」
淡々と言う彼女は、資料によると、高校3年生らしい。高額な治療をしたが良くならず、飛び降りたとあった。
「治療費がね、高いの。借金はかさんでいくのに、病気は良くならなくて。このままだと、両親にも弟にも申し訳なくって。重荷になるくらいなら、死んで役に立とうかと思ったのよ。私が生きている限り、皆私を生かそうとするでしょ。だから、私はいちゃ、だめなのね」
「ああ。なるほど」
存在自体が邪魔、か。
溜め息が漏れる。
「ねえ、一緒に行きましょうよ。誰の迷惑にもならないように」
迷惑かあ。そうだよな。
「大切な人の重荷になりたくないでしょ」
それは、嫌だな。
「その人もあなたも、苦しみや悩みから解放されるのよ」
そうか。
「ね、行きましょ」
「そうだな」
手すりに両手をかける。
ああ、そうだな。兄ちゃんには幸せになってもらわないと。
風が下から吹き上げてきて、ふらついた。
「お、何だ怜怜。お疲れか?」
蜂谷恭介。霊能師で、呪術、解呪に強く、電波を介した術のエキスパートで、パソコン関係にも明るい。シニカルなところがあるが、根はお人好しで、面倒見がいい。
「ああ、蜂谷。いや、別に、うん」
「どうした?帰らないのか?お兄ちゃんが心配するぞ?」
蜂谷が笑いながら言うのに、笑ってごまかしておく。
「病院で飛び降り自殺者の霊、ですか」
その時、新たな仕事の話が聞こえた。
見ると、仕事を受注した係員が、それを書類に記入しているところだった。
「あ、それ、僕が行きます。今から」
「は?今、ですか?」
「はい。今は何もないから暇だし、いいですよね」
「えっと、はい。じゃあ、サインをお願いします。依頼は、自殺者の霊を祓う事です。現場はここ」
僕は説明を受けて、協会を出た。
最寄り駅で電車を降りる。と、苦手な人が、よりによって真ん前に立っていた。
高梨茉莉。兄の学生時代の友人で、勝気でズケズケと物を言う人で、向こうははっきりと、僕が嫌いらしい。自分が3回振られたのも兄が結婚しないのも、僕のせいだと責められた。
茉莉さんは口元を引き結び、眉を吊り上げ、僕と入れ違いに電車に乗った。
「こんばんは」
苦手だが、挨拶しないのもどうかと思って挨拶したが、茉莉さんはフンと鼻を鳴らした。
「この頃家に居付かないって心配してるそうね。チッ。いてもいなくても、あんたって邪魔ね。もう、存在自体が迷惑なのね」
そう言った時、ドアが閉まった。そばにいた学生グループが、会話が聞こえていたのか、ギョッとしたようにこっちを見ていた。
そのまま出る電車に背を向けて、歩き出す。
本当に、言いたい事をそのまま言う人だ。でも、そういう人が言う事なので、本当なのかも知れない。
「とにかく、仕事、仕事」
僕は、依頼先の病院を目指した。
屋上から自殺した患者の霊が今も飛び降り続け、仲間になろうと誘うらしい。
夜間出入口で守衛さんに言って、屋上に行く。
重いドアを開けると、風が吹き付けて来た。手すりの前に、パジャマの女の子が立っている。あの子が自殺した霊らしい。
「こんばんは」
長い髪をなびかせて、その子が振り返る。
「こんばんは。あなた、患者じゃないのね」
「まあね。君は何を?」
「死のうと思って。
でも、変なの。飛び降りた筈なのに、またここに立っているのよ。ねえ、どう思う?」
淡々と言う彼女は、資料によると、高校3年生らしい。高額な治療をしたが良くならず、飛び降りたとあった。
「治療費がね、高いの。借金はかさんでいくのに、病気は良くならなくて。このままだと、両親にも弟にも申し訳なくって。重荷になるくらいなら、死んで役に立とうかと思ったのよ。私が生きている限り、皆私を生かそうとするでしょ。だから、私はいちゃ、だめなのね」
「ああ。なるほど」
存在自体が邪魔、か。
溜め息が漏れる。
「ねえ、一緒に行きましょうよ。誰の迷惑にもならないように」
迷惑かあ。そうだよな。
「大切な人の重荷になりたくないでしょ」
それは、嫌だな。
「その人もあなたも、苦しみや悩みから解放されるのよ」
そうか。
「ね、行きましょ」
「そうだな」
手すりに両手をかける。
ああ、そうだな。兄ちゃんには幸せになってもらわないと。
風が下から吹き上げてきて、ふらついた。
10
お気に入りに追加
199
あなたにおすすめの小説
父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました
四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。
だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。
あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。
そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。
翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。
しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。
**********
●早瀬 果歩(はやせ かほ)
25歳、OL
元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。
●逢見 翔(おうみ しょう)
28歳、パイロット
世界を飛び回るエリートパイロット。
ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。
翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……?
●航(わたる)
1歳半
果歩と翔の息子。飛行機が好き。
※表記年齢は初登場です
**********
webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です!
完結しました!
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる