216 / 1,046
ヨルムンガンド(4)消えた友
しおりを挟む
何となく、もういなくなったというのはわかるものだ。
「いなくなった」
ホッとした空気が流れ、また皆はひとかたまりになる。が、流石にもう無茶を言う気はないらしく、皆大人しいものだ。
僕と直が非常口の方へ異動すると、シエルがついて来た。
「なあ、怜、直。
愚かな人間は、やり直さないとだめだよ。導き手を選別して、やり直さないと」
シエルの顔を、僕も直もマジマジと見た。
「それから、神を1つにして人類をひとつにまとめる。そうすれば、宗教戦争は起きないしね」
「シエル?」
「神を喰い合わせてもいいんだけど、なかなか思い通りにいかないんだ。たかが霊でも、思い通りにいかないっていうのに」
「なあ、シエル」
「怜ならできるよな。ただ1つの神に」
「シエル!」
「ぼく達と行こうよ、怜、直」
いつの間にか辺りはシンとして、この会話に耳を傾けていた。
「救いようのない奴らばかりじゃないか」
数人が下を向く。
「助けられるのが当然。そのくせ、助けてくれたた相手にどんな目を向けた?」
また数人が下を向く。
「世界は生まれ変わるべきじゃないのかな。優しい世界に」
シエルの言葉に皆が押し黙る。
そしてすぐに、非常口のひしゃげたドアがガンっと力を加えられて開き、救助の人員がなだれ込んで来た。
外へ出て、簡単な健康チェックを受け、適当に散らばって座る。
「なあ、ぼく達ヨルムンガンドと、世界を変えよう」
「……ヨルムンガンド?北欧神話に出て来る蛇か」
「ロキとアングルボザの子、またはその心臓を食べて産んだ3匹の魔物、フェンネル、ヨルムンガンド、ヘルの1匹。ラグナロクが到来する時、ヨルムンガンドが海から陸へ上がり、海水が陸を洗い流すとされているよ」
「ラグナロクを、自分達でコントロールして起こす気かねえ」
「人類の未来の為だよ」
「人類の未来ねえ。はあ。胡散臭い。そして、面倒臭い」
シエルは首を傾けた。
直は、笑って肩を竦める。智史は水のペットボトルの蓋に手をかけた姿勢のまま、忙しく皆の顔を見比べる。
白い高級車が、そばまで来た。
「残念だよ。でも、まだあきらめたわけじゃないからね」
シエルは堂々とその車の後部座席に収まり、走り去る。
それを見送ってから、我に返った。
「あれ?今の誰?」
「ヨルムンガンドの人かねえ?」
「そのヨルムンガンドって、結局何なん?」
……あれ?
後から色々な事がわかった。
トンネルを塞いだのは人為的な爆破によるものだった事。非常口付近に霊をサークル内に閉じ込めて喰い合わせて実体化させた痕が残っていたが、その霊をそこまで封じていた壺と、酔った男に絡みついた霊を封じていた壺、発掘研究会で霊が封じられていた壺、それらは全て同じで、同じ術者によってなされていたという事。ヨルムンガンドという秘密結社が、あまり実体がわかっていないが、危険な思想を持っているという事。シエルという留学生などいなかったという事。
僕、直、智史は、呆けたように教室で頬杖を突きながら、溜め息をついていた。
「そんな悪い奴には思えんかったのになあ」
「まあ、純粋なんじゃないかねえ。諍いの無い世界にしたいという思いには」
「ちょーっと拗らせとるんやな。中二病患者か。
せやから、あれやな。会うたら一発ぶん殴って、正気に返したろ。それで、黒歴史を笑ろたろや」
智史は笑って、ズズズーッと紙パックのジュースを啜った。
「そうだな。それがいい」
「レンタカー代置いてあったけど、お釣りがあるもんねえ」
「そや。それでおごらしたろ」
僕達は笑って、誰からともなくジュースで乾杯した。
それが、ヨルムンガンドとの長い戦いの幕開けだった。
「いなくなった」
ホッとした空気が流れ、また皆はひとかたまりになる。が、流石にもう無茶を言う気はないらしく、皆大人しいものだ。
僕と直が非常口の方へ異動すると、シエルがついて来た。
「なあ、怜、直。
愚かな人間は、やり直さないとだめだよ。導き手を選別して、やり直さないと」
シエルの顔を、僕も直もマジマジと見た。
「それから、神を1つにして人類をひとつにまとめる。そうすれば、宗教戦争は起きないしね」
「シエル?」
「神を喰い合わせてもいいんだけど、なかなか思い通りにいかないんだ。たかが霊でも、思い通りにいかないっていうのに」
「なあ、シエル」
「怜ならできるよな。ただ1つの神に」
「シエル!」
「ぼく達と行こうよ、怜、直」
いつの間にか辺りはシンとして、この会話に耳を傾けていた。
「救いようのない奴らばかりじゃないか」
数人が下を向く。
「助けられるのが当然。そのくせ、助けてくれたた相手にどんな目を向けた?」
また数人が下を向く。
「世界は生まれ変わるべきじゃないのかな。優しい世界に」
シエルの言葉に皆が押し黙る。
そしてすぐに、非常口のひしゃげたドアがガンっと力を加えられて開き、救助の人員がなだれ込んで来た。
外へ出て、簡単な健康チェックを受け、適当に散らばって座る。
「なあ、ぼく達ヨルムンガンドと、世界を変えよう」
「……ヨルムンガンド?北欧神話に出て来る蛇か」
「ロキとアングルボザの子、またはその心臓を食べて産んだ3匹の魔物、フェンネル、ヨルムンガンド、ヘルの1匹。ラグナロクが到来する時、ヨルムンガンドが海から陸へ上がり、海水が陸を洗い流すとされているよ」
「ラグナロクを、自分達でコントロールして起こす気かねえ」
「人類の未来の為だよ」
「人類の未来ねえ。はあ。胡散臭い。そして、面倒臭い」
シエルは首を傾けた。
直は、笑って肩を竦める。智史は水のペットボトルの蓋に手をかけた姿勢のまま、忙しく皆の顔を見比べる。
白い高級車が、そばまで来た。
「残念だよ。でも、まだあきらめたわけじゃないからね」
シエルは堂々とその車の後部座席に収まり、走り去る。
それを見送ってから、我に返った。
「あれ?今の誰?」
「ヨルムンガンドの人かねえ?」
「そのヨルムンガンドって、結局何なん?」
……あれ?
後から色々な事がわかった。
トンネルを塞いだのは人為的な爆破によるものだった事。非常口付近に霊をサークル内に閉じ込めて喰い合わせて実体化させた痕が残っていたが、その霊をそこまで封じていた壺と、酔った男に絡みついた霊を封じていた壺、発掘研究会で霊が封じられていた壺、それらは全て同じで、同じ術者によってなされていたという事。ヨルムンガンドという秘密結社が、あまり実体がわかっていないが、危険な思想を持っているという事。シエルという留学生などいなかったという事。
僕、直、智史は、呆けたように教室で頬杖を突きながら、溜め息をついていた。
「そんな悪い奴には思えんかったのになあ」
「まあ、純粋なんじゃないかねえ。諍いの無い世界にしたいという思いには」
「ちょーっと拗らせとるんやな。中二病患者か。
せやから、あれやな。会うたら一発ぶん殴って、正気に返したろ。それで、黒歴史を笑ろたろや」
智史は笑って、ズズズーッと紙パックのジュースを啜った。
「そうだな。それがいい」
「レンタカー代置いてあったけど、お釣りがあるもんねえ」
「そや。それでおごらしたろ」
僕達は笑って、誰からともなくジュースで乾杯した。
それが、ヨルムンガンドとの長い戦いの幕開けだった。
10
お気に入りに追加
199
あなたにおすすめの小説
父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました
四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。
だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
七年間の婚約は今日で終わりを迎えます
hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる