体質が変わったので

JUN

文字の大きさ
上 下
213 / 1,046

ヨルムンガンド(1)ドライブ

しおりを挟む
 暖かな日差しがそそぎ、楽器の音や会話する声が入り乱れている。その一角で、僕達は昼ご飯を食べようとしていた。
「いい天気だなあ」
 御崎 怜みさき れん、大学1年生。高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった、霊能師である。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「気分はピクニックだねえ」
 町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いでもある。
「ああ、腹減ったあ」
 郷田智史ごうださとし。いつも髪をキレイにセットし、モテたい、彼女が欲しいと言っている。実家は滋賀でホテルを経営しており、兄は経営面、彼は法律面からそれをサポートしつつ弁護士をしようと、法学部へ進学したらしい。
「さあ、食べようか」
 シエル・ヨハンセン。穏やかで人当たりのいい、金髪碧眼のハンサムだ。留学生で、日本語は読むのも書くのも堪能だ。
 弁当箱の蓋をとる。ペンネペスカトーレ、チキンサラダ、りんごとさつま芋の包み揚げ、いんげんの胡麻和え、大豆ひじき煮、野菜と小がんもの炊き合わせ、青ジソしょうがごはん。
 包み揚げは、包む時にしっかりと周りを閉じる事が肝心だ。そしてチキンサラダは、裂いた蒸し鶏を生野菜の上に乗せただけだが、チキンの下味でドレッシングがいらないので、弁当向きだ。
「弁当は世界で広がっている日本文化のひとつで、フランスでは辞典にBENTOUが乗ってるし、キャラ弁も流行ってるけど、やっぱり日本の弁当には敵わないね。わざわざ作り込まなくとも、日本の弁当はきれいだ」
「しかも、安い。特に最近のスーパーの弁当。採算取れてんのか、思うわ」
 シエルの言葉に智史は返し、スーパーで買って来た弁当に箸を入れる。
「智史は自炊だろ?」
 訊くと、智史は唐揚げをモグモグとやりながら、
「ん、まあな。主に金銭的なアレでなあ。せやけど、買った方が安いんちゃうか、思うわ」
「宅配の体に安心シリーズも結構安いよね。カロリー制限とか塩分制限とか色々あって、レンジでチンするだけの手軽さ。日本は弁当大国だと、本当に思うよ」
「まあ、弁当の歴史は凄いもんねえ。根付いてるんだよねえ、生活に」
 話しながら食べていると、上級生が寄って来る。
「食事中にごめん。演劇サークルなんだけど、アクションができる人を探してて」
「ああ、すみません。ちょっと」
「料理研究部なんだけど」
「あ……サークル活動には興味がないので」
 すごすごと帰って行く。
「よう来んなあ」
「面倒臭いからサークルに入る気は無いって言ってるのにな」
 サークルの勧誘が多くて、それをずっと断り続けているのだ。
「ん?ニュース速報や。またテロやて。自爆テロ」
 スマホに入って来たニュース速報に、智史が気付く。
「何か頻繁すぎて、初め程驚かなくなってきたな。恐ろしい事に」
「そうだねえ。まあ、まだ日本ではないから、日本で起きたら流石に皆大騒ぎだろうねえ」
「宗教に命かけるいうんが、ピンと来んわ」
「日本人の宗教観は、大らかだからねえ」
 シエルは苦笑して、話題を変えた。
「それより、気候もいいし、ドライブにでも行かないか。テレビで見た、山全体がピンク色になるのを見てみたいよ」
「山桜か。ええなあ。免許も取った事やしな」
「行くか」
「いいねえ」
 ニュースの事はコロッと忘れて、ドライブの予定を立て始めたのだった。

 当日は晴天で、レンタカーを借り、意気揚々と出発した。
 が、山中で見たものは、山桜ではなく、霊の起こしたトンネル崩落だった。










 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐

当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。 でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。 その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。 ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。 馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。 途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。

【R18】やがて犯される病

開き茄子(あきなす)
恋愛
『凌辱モノ』をテーマにした短編連作の男性向け18禁小説です。 女の子が男にレイプされたり凌辱されたりして可哀そうな目にあいます。 女の子側に救いのない話がメインとなるので、とにかく可哀そうでエロい話が好きな人向けです。 ※ノクターンノベルスとpixivにも掲載しております。 内容に違いはありませんので、お好きなサイトでご覧下さい。 また、新シリーズとしてファンタジーものの長編小説(エロ)を企画中です。 更新準備が整いましたらこちらとTwitterでご報告させていただきます。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

【完結】後妻に入ったら、夫のむすめが……でした

仲村 嘉高
恋愛
「むすめの世話をして欲しい」  夫からの求婚の言葉は、愛の言葉では無かったけれど、幼い娘を大切にする誠実な人だと思い、受け入れる事にした。  結婚前の顔合わせを「疲れて出かけたくないと言われた」や「今日はベッドから起きられないようだ」と、何度も反故にされた。  それでも、本当に申し訳なさそうに謝るので、「体が弱いならしょうがないわよ」と許してしまった。  結婚式は、お互いの親戚のみ。  なぜならお互い再婚だから。  そして、結婚式が終わり、新居へ……?  一緒に馬車に乗ったその方は誰ですか?

処理中です...