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兄弟(4)新たなる都市伝説の発生
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定時で帰って来た兄と、2人と2匹で向かい合う。
「トビが襲って来て、崖から落ちて頭を打って、記憶がなくなったらしいよ」
「そうか。それは怖かっただろうな、コン太」
「うん。目が覚めたら今度はカラスに突かれるし」
「そりゃあ、鳥嫌いになるな」
「それで、コン吉は弟のコン太を探し回って、『凄い速さで走って来て主人を探す犬』なんて都市伝説になってたらしいよ」
「見つかって良かったな。心配しただろう」
「それはもう」
兄と兄、頷き合っている。
あれ?幽霊で実体化できるほどだから弱くはないのに、それでトビやカラスに突かれるのか?
釈然としない感もあるが、コン太だしな。
兄弟でお礼を言いたいと兄の帰りを待つことにし、2匹揃って、兄を待っていたのだ。
まあその間、テレビとドーナッツを堪能し、こっちはもふもふをダブルで堪能したが。
「これからどうするんだ」
「元々、あの世へ行く前に故郷へ戻ろうとしていたところだったのだ。戻って感慨に浸っていたら、この騒ぎだったがなあ」
「ごめん、兄ちゃん」
コン太はコン吉に頭を擦りつける。
「構わん。
それより、弟が随分と世話になった。ありがとう」
「いやいや。楽しかったよ」
「ああ。寂しくなるな」
コン太は既に、別れの時間だと察して泣いていた。
「しかたないよ。それに、兄ちゃんに会えたし。な」
「そうだ。弁当代わりにドーナッツを持って行け、な」
ドーナッツを包んで、首に結びつける。
「うわあ、凄いメルヘン。写真撮っていいかな」
ドーナッツを首に結び付けた2匹が並んで座る様は、何ともかわいい。そして、何となく見覚えがある。ついでに、2匹と一緒にも撮った。
「直にも見せてやろうっと」
「アオ姐さんにもさよならって言っておいてね」
「わかったよ」
姐さんなのか。やっぱりな。
2匹は礼を言いつつ、並んで走って行った。
「行ったな」
「今度は虐められないといいけど……」
心配だ。何しろ、コン太だ。
「でもやっぱり、動物でも兄弟だな。顔を見たらすぐに記憶が戻ってた」
「ヒトも動物も一緒だよ。コン吉もコン太を必死に探してたんだろう。都市伝説になるほど。俺だってそうする」
「兄弟っていいな。
そう言えば、あの都市伝説ももう消えるな」
「ああ。凄い速さで探し回る犬か」
この後、首にドーナッツを結んだ2匹の旅の狐の都市伝説が広まって行くのだが、この時はまだ知らなかった。
「小さい頃、怜は狐が好きだったからな。ぬいぐるみのリュックを離さなかったんだよ。ちょうど、首にドーナッツを結んでた、あんな感じだったな。そこが小さいポーチになってて、飴玉を入れてたんだ。それで、『にいたん、はい!』ってくれたんだよ」
「ああ……あったな。あれ、狐だったのかあ」
それで、何となく見覚えがあったのか。
「写真があったはずだな。何か、見たくなった。
ついでに、アルバムをもう出してもいいな。あの頃は怜が寂しがって泣くかと思って、アルバム類は押し入れの奥に全部しまい込んだけど」
「うん、そうだね。
明日、出しておくよ?」
「いや、ついでだ」
ごそごそと、兄は押し入れの奥に頭を突っ込んでいく。
「あった」
と箱を引っ張り出し、頭を上げ、ぶつけた。物凄い音がした。
「兄ちゃん!」
「痛て……」
そのままよろめいて、仏壇に軽くぶつかる。と、位牌が揺れて、倒れた。
こ、これは、僕の高校入学式前日の、体質変化のきっかけかと思われる出来事と同じ――!?
「に、に、兄ちゃん!?大丈夫か!?」
「大丈夫だ。ああ、父さん、母さん、すまん」
「いや、それよりも、あれは見える?」
窓の外を指さす。
「月か?」
「誰かいる?」
「……通行人がちらほらといるが……?」
そうか、見えないのか。ベランダの真ん前、電線を鉄棒代わりに体操してる体操選手の霊は。
「いや、何でもないよ。凄い音がしたから。
じゃあ、ご飯にしようか。今日は、稲荷寿司、鰆の西京味噌焼き、高野、きのこソテー、玉ねぎとわかめの味噌汁だよ」
「お、美味そうだな」
僕達は、ダイニングに移った。
体質変化は、良いかも知れないと思う事も無くはないけど、別に見えないなら見えないでいい。面倒臭い事も多いからな。兄ちゃんは、今のままがいい。
アルバムか。兄ちゃんが、この兄ちゃんで良かったなあ。
「じゃあ、いただきます」
「トビが襲って来て、崖から落ちて頭を打って、記憶がなくなったらしいよ」
「そうか。それは怖かっただろうな、コン太」
「うん。目が覚めたら今度はカラスに突かれるし」
「そりゃあ、鳥嫌いになるな」
「それで、コン吉は弟のコン太を探し回って、『凄い速さで走って来て主人を探す犬』なんて都市伝説になってたらしいよ」
「見つかって良かったな。心配しただろう」
「それはもう」
兄と兄、頷き合っている。
あれ?幽霊で実体化できるほどだから弱くはないのに、それでトビやカラスに突かれるのか?
釈然としない感もあるが、コン太だしな。
兄弟でお礼を言いたいと兄の帰りを待つことにし、2匹揃って、兄を待っていたのだ。
まあその間、テレビとドーナッツを堪能し、こっちはもふもふをダブルで堪能したが。
「これからどうするんだ」
「元々、あの世へ行く前に故郷へ戻ろうとしていたところだったのだ。戻って感慨に浸っていたら、この騒ぎだったがなあ」
「ごめん、兄ちゃん」
コン太はコン吉に頭を擦りつける。
「構わん。
それより、弟が随分と世話になった。ありがとう」
「いやいや。楽しかったよ」
「ああ。寂しくなるな」
コン太は既に、別れの時間だと察して泣いていた。
「しかたないよ。それに、兄ちゃんに会えたし。な」
「そうだ。弁当代わりにドーナッツを持って行け、な」
ドーナッツを包んで、首に結びつける。
「うわあ、凄いメルヘン。写真撮っていいかな」
ドーナッツを首に結び付けた2匹が並んで座る様は、何ともかわいい。そして、何となく見覚えがある。ついでに、2匹と一緒にも撮った。
「直にも見せてやろうっと」
「アオ姐さんにもさよならって言っておいてね」
「わかったよ」
姐さんなのか。やっぱりな。
2匹は礼を言いつつ、並んで走って行った。
「行ったな」
「今度は虐められないといいけど……」
心配だ。何しろ、コン太だ。
「でもやっぱり、動物でも兄弟だな。顔を見たらすぐに記憶が戻ってた」
「ヒトも動物も一緒だよ。コン吉もコン太を必死に探してたんだろう。都市伝説になるほど。俺だってそうする」
「兄弟っていいな。
そう言えば、あの都市伝説ももう消えるな」
「ああ。凄い速さで探し回る犬か」
この後、首にドーナッツを結んだ2匹の旅の狐の都市伝説が広まって行くのだが、この時はまだ知らなかった。
「小さい頃、怜は狐が好きだったからな。ぬいぐるみのリュックを離さなかったんだよ。ちょうど、首にドーナッツを結んでた、あんな感じだったな。そこが小さいポーチになってて、飴玉を入れてたんだ。それで、『にいたん、はい!』ってくれたんだよ」
「ああ……あったな。あれ、狐だったのかあ」
それで、何となく見覚えがあったのか。
「写真があったはずだな。何か、見たくなった。
ついでに、アルバムをもう出してもいいな。あの頃は怜が寂しがって泣くかと思って、アルバム類は押し入れの奥に全部しまい込んだけど」
「うん、そうだね。
明日、出しておくよ?」
「いや、ついでだ」
ごそごそと、兄は押し入れの奥に頭を突っ込んでいく。
「あった」
と箱を引っ張り出し、頭を上げ、ぶつけた。物凄い音がした。
「兄ちゃん!」
「痛て……」
そのままよろめいて、仏壇に軽くぶつかる。と、位牌が揺れて、倒れた。
こ、これは、僕の高校入学式前日の、体質変化のきっかけかと思われる出来事と同じ――!?
「に、に、兄ちゃん!?大丈夫か!?」
「大丈夫だ。ああ、父さん、母さん、すまん」
「いや、それよりも、あれは見える?」
窓の外を指さす。
「月か?」
「誰かいる?」
「……通行人がちらほらといるが……?」
そうか、見えないのか。ベランダの真ん前、電線を鉄棒代わりに体操してる体操選手の霊は。
「いや、何でもないよ。凄い音がしたから。
じゃあ、ご飯にしようか。今日は、稲荷寿司、鰆の西京味噌焼き、高野、きのこソテー、玉ねぎとわかめの味噌汁だよ」
「お、美味そうだな」
僕達は、ダイニングに移った。
体質変化は、良いかも知れないと思う事も無くはないけど、別に見えないなら見えないでいい。面倒臭い事も多いからな。兄ちゃんは、今のままがいい。
アルバムか。兄ちゃんが、この兄ちゃんで良かったなあ。
「じゃあ、いただきます」
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