207 / 1,046
兄弟(3)ドーナッツ
しおりを挟む
朝、コン太と一緒に兄を玄関先で見送る。
「兄ちゃん、行ってらっしゃい」
「兄ちゃん、気を付けて」
「行って来ます」
その後は掃除だ。新聞などをまとめる。昨日の新聞に今日の広告を挟んで古新聞の束にまとめておく。
と、広告の端で手を切った。
「痛い?怜、大丈夫?」
バンドエイドを巻いていると、コン太が心配そうに寄って来る。
「大丈夫。ちょっとだけだから」
「そう?
痛いの、痛いの、
お山の向こう
こんこん歌えば
飛んでった
治った?」
何だ、今のは。狐のおまじないか。珍しいのを聞いたみたいだぞ。
「おお、直った。ありがとうな、コン太」
「えへへへへ」
「じゃあ、掃除機かけるぞ」
言うと、掃除機が苦手なコン太はベランダに避難して丸くなった。
すっかりコン太は我が家の飼い狐みたいになっている。寂しがり屋で、怖がりで、すぐに泣く。そして、優しくて、のんびり屋で、テレビとドーナッツが大好きだ。記憶は戻らない。
戻らなければ、このまま飼ってもいいのかな。まずいのかな。どうなんだろ。
考えながら掃除を終え、まとわりついて来るコン太におやつのドーナッツをあげて、テレビの前に座らせる。
「美味しいね」
「そうか」
チョコレートがかかっているやつよりも、プレーンがいいらしい。
「買い物に行ってくるから、留守番しててくれるか」
「うん、わかった!」
尻尾をゆらゆらさせるコン太に見送られて、家を出た。
尻尾のもふもふ感を反芻しながら、スーパーへ向かうべく自転車置き場へ行く。
と、犬がいた。霊だったが。
「ん?犬じゃない」
「見つけたぞ、この匂い。貴様か!」
狐が飛び掛かって来た。
ドアを開けると、鍵を回す音でわかったのか、コン太が玄関先に座っていた。
「怜、早かったねえ。忘れ物?」
しかし、足元から滑り込んだ狐が、声を上げる。
「探したぞ!」
「え?誰……あ、兄ちゃん!」
兄弟狐だったらしい。
2匹でグルグルと回ったりしてじゃれ合う。
「捕まえられていたわけではないと聞いたが」
「うん、そう。怜と兄ちゃんに助けてもらったんだ。どっちも優しいよ。あと、ドーナッツが美味しくて、テレビがおもしろいんだあ」
「ドーナッツ?」
兄狐の目がキラーンと光った。
「今から買い物行ってくるから、一緒に留守番してて。お土産買って来るから」
「はあーい!行ってらっしゃい!」
「行ってらっしゃい!」
2匹の狐に見送られて、僕は再び家を出た。
「兄ちゃん、行ってらっしゃい」
「兄ちゃん、気を付けて」
「行って来ます」
その後は掃除だ。新聞などをまとめる。昨日の新聞に今日の広告を挟んで古新聞の束にまとめておく。
と、広告の端で手を切った。
「痛い?怜、大丈夫?」
バンドエイドを巻いていると、コン太が心配そうに寄って来る。
「大丈夫。ちょっとだけだから」
「そう?
痛いの、痛いの、
お山の向こう
こんこん歌えば
飛んでった
治った?」
何だ、今のは。狐のおまじないか。珍しいのを聞いたみたいだぞ。
「おお、直った。ありがとうな、コン太」
「えへへへへ」
「じゃあ、掃除機かけるぞ」
言うと、掃除機が苦手なコン太はベランダに避難して丸くなった。
すっかりコン太は我が家の飼い狐みたいになっている。寂しがり屋で、怖がりで、すぐに泣く。そして、優しくて、のんびり屋で、テレビとドーナッツが大好きだ。記憶は戻らない。
戻らなければ、このまま飼ってもいいのかな。まずいのかな。どうなんだろ。
考えながら掃除を終え、まとわりついて来るコン太におやつのドーナッツをあげて、テレビの前に座らせる。
「美味しいね」
「そうか」
チョコレートがかかっているやつよりも、プレーンがいいらしい。
「買い物に行ってくるから、留守番しててくれるか」
「うん、わかった!」
尻尾をゆらゆらさせるコン太に見送られて、家を出た。
尻尾のもふもふ感を反芻しながら、スーパーへ向かうべく自転車置き場へ行く。
と、犬がいた。霊だったが。
「ん?犬じゃない」
「見つけたぞ、この匂い。貴様か!」
狐が飛び掛かって来た。
ドアを開けると、鍵を回す音でわかったのか、コン太が玄関先に座っていた。
「怜、早かったねえ。忘れ物?」
しかし、足元から滑り込んだ狐が、声を上げる。
「探したぞ!」
「え?誰……あ、兄ちゃん!」
兄弟狐だったらしい。
2匹でグルグルと回ったりしてじゃれ合う。
「捕まえられていたわけではないと聞いたが」
「うん、そう。怜と兄ちゃんに助けてもらったんだ。どっちも優しいよ。あと、ドーナッツが美味しくて、テレビがおもしろいんだあ」
「ドーナッツ?」
兄狐の目がキラーンと光った。
「今から買い物行ってくるから、一緒に留守番してて。お土産買って来るから」
「はあーい!行ってらっしゃい!」
「行ってらっしゃい!」
2匹の狐に見送られて、僕は再び家を出た。
10
お気に入りに追加
199
あなたにおすすめの小説
父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました
四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。
だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
七年間の婚約は今日で終わりを迎えます
hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。
あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。
そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。
翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。
しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。
**********
●早瀬 果歩(はやせ かほ)
25歳、OL
元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。
●逢見 翔(おうみ しょう)
28歳、パイロット
世界を飛び回るエリートパイロット。
ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。
翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……?
●航(わたる)
1歳半
果歩と翔の息子。飛行機が好き。
※表記年齢は初登場です
**********
webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です!
完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる