体質が変わったので

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受験(3)発表

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 本試験から約1か月。豆まき、例年通りのインフルエンザの流行、バレンタイン、大寒波による大雪。それらを経て、あっという間に前期試験だ。
 神様や津山先生達からの差し入れの内、冷凍できるものは残して冷凍し、昨日の夕食に食べた。今朝は、松阪牛のサンドウィッチだ。天照大御神の神威付きという、二重の豪華さだ。
 そして、いつもより長く仏壇に向かっていた兄に見送られて家を出、直と、前期試験に臨んだ。
 やはり、事故死した受験生は来ていた。
「いたねえ」
「次は、合格発表か」
「何とかしてやりたいなあ」
 寺の次男坊という人も、腕を組んでしみじみと言う。
「成仏、させてやりましょうか。ちょっと、手を貸していただきたいんですが……」
 彼はわずかに考え、すぐに、ニヤリと笑った。
「おもしろそうだな。何をすればいい?」

 三月に入り、いよいよ、発表の日がやって来た。
 気にならない事は勿論ない。だが、無常とでもいうのだろうか。結果を観に行くだけで、今から何かできる事は何も無い。
 むしろ、今気になっているのは、例の事故死した彼の事だ。
「忘れ物はないな」
 御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意、クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の、頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。今は警視庁警備部企画課に勤務している。
 そわそわするのをいつも通りにふるまって、何でもない顔をしていた。
「うん、大丈夫」
「後は、ああ、気を付けて」
「うん、わかった。じゃあ、行って来ます」
 エントランスに出ると、直がもうついていた。
「あ、ごめん」
「いや、着いたとこだよう」
 並んで駅に向かい始めた。

 結果だけならネットでも確認できる。だが、アナログなこの発表を見に来る人は、やはり多い。マスコミも、その時の受験生の様子を撮りに来る。
 人だかりの中に、いた。
「いたな」
「予定通りだねえ」
 正午ピッタリに、合格者の受験番号を書いた紙が貼り出される。その途端、天国と地獄が繰り広げられる。悲鳴を上げて万歳する人、泣いて抱き合う人、独り静かに泣く人、淡々としている人。
 事故死した彼は、ジッと紙を見、受験票に目を落とし、もう1度紙を見ると、俯いて溜め息を漏らした。
 そしてそのまま消えて行こうとするのに、声を掛ける。
「あ、事務員さんが呼んでますよ」
「え?」
 彼が顔を上げた。
「こっちですよう」
 直と3人で事務室に行くと、端で、手筈通りにあの寺の次男坊が待っていた。
「万里小路綾人君ですね」
「はい」
 わけのわからないという顔で、彼は言われるがまま、受験票を差し出す。
「合格おめでとうございます。入学手続きの書類諸々です」
 大学名の入った封筒を差し出され、目を丸くする。
「え、ぼく……」
「おめでとう。良かったな」
「いやあ、ほんと。おめでとう」
 僕と直にも言われ、そうなのかと思ったらしい。目に涙がうっすらと浮かび、封筒に手をのばし、
「ありがとう」
と言う。
 そして、封筒を掴んだ手の先から、消えて行った。
 封筒を差し出したままの形の寺の次男坊と僕と直が残る。
「ようやく逝ったか」
 ホッとしたような色が滲む。
「解放されて良かったよねえ」
「全く。それこそ、おめでとう、だな」
「フッ。
 ところで、君達はどうだったんだ」
「見てないですよ。彼から目を離すわけにもいかなかったんで」
「今から行こうかねえ」
「そうだな。じゃあ、失礼します」
「ああ、ドキドキするねえ」
 僕と直は寺の次男坊に見送られて、事務室を後にした。
 熱狂の人だかりの中、番号を探す。
 淡々としていた僕だが、内心は、ドキドキしていない事はない。が、何と言うか、
「ええっと……あ、あったな」
「ああ、あるね」
「じゃあ、手続きして帰るか」
「そうだねえ」
で、終わった。
 ネットで合格発表を見れるのは12時半からだから、やっぱり先に言っておくかと、家に電話をかける。そして兄の声を聞いた時、ようやく、ほっとした。
「後、津山先生にも電話した方がいいかな。京香さんと徳川さんも」
「神様は、どうするかねえ?」
「ううん。結女の神から伝わるだろ。お礼と、宴会の日取りを知らせないとなあ」
「忙しいけど、楽しみだねえ」
「あ、宴会、直の小父さんと小母さんと晴ちゃんも呼べよ」
「いやあ、大丈夫かねえ……。ひっくり返るんじゃないかと……」
「そうかな?」
「うちはいいよう」
「それより、これからも一緒だな」
「うん。いやあ、よろしくだねえ」
 やっと、嬉しくなってきた。







 
 
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