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クリスマスプレゼント(2)贄
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その1年生女子は、加奈江神社の長女で、加奈江美沙というらしい。僕達3人を見て、少し考えて、言った。
「誰か、クリスマスまででいいから付き合って下さい」
と。
「誰でもいい、ねえ」
貴音が、面白くなさそうな声を出す。
「もしくは、3人共でもいいですねえ。ゴージャスで、楽しそう」
少しも楽しそうに見えない顔で言った。
「付き合い切れん。行こうぜ」
行きかけた貴音だったが、真剣な顔で動かない僕と直に、怪訝な顔付きで振り返った。
「何。タイプなの、まさか。
いや、そっちか?」
「ああ。いささか気になるな。
何に憑りつかれている?自覚がありそうだが」
加奈江さんはひょいと肩を竦めた。
「流石にお見通しですか。
うちの主神の贄になりまして、クリスマスに死ぬんです。だから死ぬ前に、ボーイフレンドの1人くらい、作っておきたいかな、と思って。
あ、期間限定なので、後腐れないし、どうですか。妊娠しても問題ありませんし」
僕は溜め息をついた。
「いや、震えながら言われてもなあ」
「貴音。そういうわけだから、ボクと怜はこの子の家に行ってくるねえ」
「ん、じゃあ、明日な」
貴音はあっさりと立ち去って行き、僕と直は、加奈江さんに向き直った。
加奈江神社は郊外にある規模の小さな神社らしく、水神を祀っているという。
昔から一帯は毎年、この地にいる竜の化身である水神様が暴れるせいで、地滑りや川の氾濫で苦労していたそうだ。
それに弱り切った村人達は、竜を暴れられないように閉じ込めればいいのではないかと考えた。そして、酒を勧めて酔わせ、旅の神職の助けを借りて、竜を甕に封じ込める事に成功したそうだ。
騙されたと怒った竜だが、食べ物がないと死んでしまう。そして村は、神がいないと守られない。
そこで、12年に1度、贄として村の人間を差し出す代わりに、竜は村を守る。そういう約定を交わしたとか。
ただし土壇場で、腹を立てていた竜によって、贄は、酌をして酒をグイグイと勧めた娘の家から代々出る事とされ、その家は神社で竜神を祀る事になったという。
それが加奈江家であり、その12年に1度が今年に当たり、また、贄に選ばれたのがこの加奈江さんらしい。
「昔から予知夢を時々見たんですが、それで、クリスマスの日に死ぬと。
予知夢は外れませんから」
加奈江さんは言って、乾いた笑いを浮かべた。
ついた神社は、確かに小さくて古い。周りの家はほとんどが農家で、辺りは一面、田畑だ。
「ここがうちで、神様です」
拝殿の奥を覗くと向こうに幣殿、本殿があり、本殿の祭壇から、神威が漏れ出していた。
「美沙?」
声がかかって振り返ると、神職の中年男性と、普段着の中年女性がいた。
「ただいま。
両親です。
こちらは、御崎先輩と町田先輩」
お互い、無言で軽く頭を下げる。
「美沙、祭りまでもう少しなんだから」
「もう少しだからでしょ、お父さん。思い出の一つも、あっていいじゃない。今までずっと真面目にやってきたんだから」
父親の方は言葉に詰まり、母親の方は口元を押さえて俯いた。
「祭りをずっと続けるおつもりですか」
「そんなの……守って来た、歴史だ。我が家、我が神社のアイデンティティだ。辞めるわけにはいかない」
それでとうとう母親は声を上げて泣き出して、家の方へ走って行った。答えた父親はムスッとして、社務所の方へと大股で歩いて行く。
「娘の命より家ねえ。ご立派だこと」
加奈江さんは皮肉っぽく言って、口元を震わせた。
「これまでの贄の人は?」
「夜に白装束を着て、幣殿で待つらしいです。それからは誰も朝まで近付かないようにしていて良く知りませんけど、12年前の祖母が贄の時は、朝になったら本殿で祖母が倒れていて、医学的には虚血性心不全で亡くなっていました」
「これまでの贄の人は、皆?」
「ええ。死に方、死因、同じです」
「贄の選ばれ方って?」
「一方的に、神託が降りるみたいですよ。
年齢はこれまでは大抵、高齢者だったんですけど、久々の若者ですよ。12年前に祖母が贄で亡くなって、血縁者で高齢者は、あいにくいないのかな。一応私が最高齢かな。
あれ?次は妹?従妹?段々と贄が若くなっていきますよ。昔ほど子だくさんじゃないですからねえ」
他人事みたいに言う加奈江さんに、念の為に訊いてみる。
「納得してるわけ?」
加奈江さんはははは、と笑い、口元をグッと引き結んで、叫ぶように
「そんなわけ、ないじゃありませんか。死にたくなんか、ありませんよ!」
と言うや、ダッと家の方へ走って行った。
「親子揃って、話を最後まで聞かないタイプだねえ」
「全くだな。はあ、面倒臭い」
僕と直は、神社を後にした。
「誰か、クリスマスまででいいから付き合って下さい」
と。
「誰でもいい、ねえ」
貴音が、面白くなさそうな声を出す。
「もしくは、3人共でもいいですねえ。ゴージャスで、楽しそう」
少しも楽しそうに見えない顔で言った。
「付き合い切れん。行こうぜ」
行きかけた貴音だったが、真剣な顔で動かない僕と直に、怪訝な顔付きで振り返った。
「何。タイプなの、まさか。
いや、そっちか?」
「ああ。いささか気になるな。
何に憑りつかれている?自覚がありそうだが」
加奈江さんはひょいと肩を竦めた。
「流石にお見通しですか。
うちの主神の贄になりまして、クリスマスに死ぬんです。だから死ぬ前に、ボーイフレンドの1人くらい、作っておきたいかな、と思って。
あ、期間限定なので、後腐れないし、どうですか。妊娠しても問題ありませんし」
僕は溜め息をついた。
「いや、震えながら言われてもなあ」
「貴音。そういうわけだから、ボクと怜はこの子の家に行ってくるねえ」
「ん、じゃあ、明日な」
貴音はあっさりと立ち去って行き、僕と直は、加奈江さんに向き直った。
加奈江神社は郊外にある規模の小さな神社らしく、水神を祀っているという。
昔から一帯は毎年、この地にいる竜の化身である水神様が暴れるせいで、地滑りや川の氾濫で苦労していたそうだ。
それに弱り切った村人達は、竜を暴れられないように閉じ込めればいいのではないかと考えた。そして、酒を勧めて酔わせ、旅の神職の助けを借りて、竜を甕に封じ込める事に成功したそうだ。
騙されたと怒った竜だが、食べ物がないと死んでしまう。そして村は、神がいないと守られない。
そこで、12年に1度、贄として村の人間を差し出す代わりに、竜は村を守る。そういう約定を交わしたとか。
ただし土壇場で、腹を立てていた竜によって、贄は、酌をして酒をグイグイと勧めた娘の家から代々出る事とされ、その家は神社で竜神を祀る事になったという。
それが加奈江家であり、その12年に1度が今年に当たり、また、贄に選ばれたのがこの加奈江さんらしい。
「昔から予知夢を時々見たんですが、それで、クリスマスの日に死ぬと。
予知夢は外れませんから」
加奈江さんは言って、乾いた笑いを浮かべた。
ついた神社は、確かに小さくて古い。周りの家はほとんどが農家で、辺りは一面、田畑だ。
「ここがうちで、神様です」
拝殿の奥を覗くと向こうに幣殿、本殿があり、本殿の祭壇から、神威が漏れ出していた。
「美沙?」
声がかかって振り返ると、神職の中年男性と、普段着の中年女性がいた。
「ただいま。
両親です。
こちらは、御崎先輩と町田先輩」
お互い、無言で軽く頭を下げる。
「美沙、祭りまでもう少しなんだから」
「もう少しだからでしょ、お父さん。思い出の一つも、あっていいじゃない。今までずっと真面目にやってきたんだから」
父親の方は言葉に詰まり、母親の方は口元を押さえて俯いた。
「祭りをずっと続けるおつもりですか」
「そんなの……守って来た、歴史だ。我が家、我が神社のアイデンティティだ。辞めるわけにはいかない」
それでとうとう母親は声を上げて泣き出して、家の方へ走って行った。答えた父親はムスッとして、社務所の方へと大股で歩いて行く。
「娘の命より家ねえ。ご立派だこと」
加奈江さんは皮肉っぽく言って、口元を震わせた。
「これまでの贄の人は?」
「夜に白装束を着て、幣殿で待つらしいです。それからは誰も朝まで近付かないようにしていて良く知りませんけど、12年前の祖母が贄の時は、朝になったら本殿で祖母が倒れていて、医学的には虚血性心不全で亡くなっていました」
「これまでの贄の人は、皆?」
「ええ。死に方、死因、同じです」
「贄の選ばれ方って?」
「一方的に、神託が降りるみたいですよ。
年齢はこれまでは大抵、高齢者だったんですけど、久々の若者ですよ。12年前に祖母が贄で亡くなって、血縁者で高齢者は、あいにくいないのかな。一応私が最高齢かな。
あれ?次は妹?従妹?段々と贄が若くなっていきますよ。昔ほど子だくさんじゃないですからねえ」
他人事みたいに言う加奈江さんに、念の為に訊いてみる。
「納得してるわけ?」
加奈江さんはははは、と笑い、口元をグッと引き結んで、叫ぶように
「そんなわけ、ないじゃありませんか。死にたくなんか、ありませんよ!」
と言うや、ダッと家の方へ走って行った。
「親子揃って、話を最後まで聞かないタイプだねえ」
「全くだな。はあ、面倒臭い」
僕と直は、神社を後にした。
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