体質が変わったので

JUN

文字の大きさ
上 下
178 / 1,046

黒いもの(4)逞しき心霊研究部員

しおりを挟む
 ボリボリ、ゴリゴリと、骨を噛み砕く音が響く。狸は悠々と鯉を飲み込みながらこちらをジロリと見下ろしており、次は僕達を食べる気だというのは、嫌でもよく分かった。
「小さいのを食って、融合してるな」
 たくさんの有象無象が、融合しきれないように、蠢いている。
 1年生達が後ろで、ガタガタと歯を鳴らして震えていた。
「宗、楓太郎。女子と1年生を頼む。エリカが出たがっても、部室から出すな」
「はい」
「はい!」
「直、やるぞ」
「わかった」
 部室へと皆を急がせ、その後を目で追う狸に浄力をぶつけて気を引き付ける。
「お前の相手は、こっちだ」
 狸が怒って二本足で立ち上がり、空気を震わせて声を上げた。ビリビリと、窓ガラスが震える。
 狸の攻撃は爪と噛みつきと思っていた。動物の本当の狸ならそうかも知れないが、こいつは、姿は狸でも、純然たる狸ではない。尻尾をぶうんと風を起こすほどの勢いで振り回して来た。
「尻尾がシマシマなのはアライグマで、狸はシマじゃないんだよな、確か」
「怜、そんな呑気な」
「いや、急に思い出して」
 会話は呑気でも、行動は激しい。隙を見つけては刀を構えて突っ込み、斬り飛ばしていく。その度に、狸は威嚇し、叫び、足や尻尾を振り回す。
「直」
「はいよ」
 走り出すその先に、札が滑り込んで見えない階段を作る。それを踏み台にして跳べば、腕が唸りをあげて飛んで来るので、札が作った横の壁を蹴って地面と平行に跳ぶ。そこから狸の頭上にもう一段跳んで、こちらを完全に見失っている狸を、頭頂部から一直線に斬り下ろす。
 完全に両断すると、狸は棒立ちになってから黒い粒子のようなものになって崩れ、消えて行った。
「お疲れ」
「お疲れ」
 直とハイタッチで、終了だ。
「いやあ、狸って手ごわいねえ、意外と」
「肉食で獰猛って聞いたぞ」
 言いながらもう一度辺りを点検し、残したものが無いのを確認して、部室を振り返る。
「もういいぞ」
「すすす凄かったです」
「狸?狸よね?狸の怨念?狸汁にされた怒りとか」
 一斉に飛び出してきて、興奮のまま喋るのは予想通りだ。
 しかし、何を言っているのか皆目わからない。
「落ち着け」
 宗とユキ以外、興奮している。エリカと楓太郎は今更だろうに。
「お疲れ様でした。流石のコンビネーションですね。動画、撮らせてもらいました。今年の文化祭は、これを使います」
 いや、宗も興奮していた。
「まあ、もう少しよく考えてから」
「現部長と次期部長の決定です」
「映画研究会も真っ青ですよ、先輩!」
 楓太郎が、目をキラキラさせている。
「もう少し尺が足りないかしら」
「エリカ……何を目指しているの」
 ユキが若干引いているが、斎藤姉妹が、
「部員の助けてもらったエピソードを、再現VTRで」
とか言い出す。
 今は何を言っても無駄だな。明日にしよう。
 それよりも、と、1年生達へ向き直る。
「もうしないと思うけど、中途半端な知識で危ない事をしないように」
「はい。すみませんでした」
 揃って頭を下げた。

 翌日、学校へ行くと、新しいうわさが生まれていた。
「心霊研究部に入るには、霊的な事件で助けてもらったらいいんだって」
「なんじゃそりゃあ!」
「でも確かに、外れてはいないよねえ」
「ああ、もう、否定に走るのも面倒臭い」
 僕と直は、机に突っ伏した。









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました

四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。 だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

七年間の婚約は今日で終わりを迎えます

hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...