体質が変わったので

JUN

文字の大きさ
上 下
139 / 1,046

啜る(3)変色

しおりを挟む
 仏頂面で、部長と次の借り手がこちらを睨んでいる。
「というわけなので、この、これまでの結果を考えて判断して下さいとしか、今は言えません」
 直の調べ上げた内容を伝え、そう告げた。
「イチャモンは許さない、そう言ったわよね」
 正確には、「侮辱するのは許さない」だったが。
「これをして、記録会でいい成績を出して、無事に推薦をもらって、証明してみせるわ。いいわね」
「ええ」
 2人は燃えていた。そして、僕と直は叩き出されるようにして部室から追い出された。
「はああ。何もなけりゃ、それでいいんだけどねえ」
 直と溜め息をついて、記録会を待つしかなかった。

 今夜は、ナスとトマトの重ね焼き、酢の物、さつま芋の梅煮、ひじきご飯、豆腐とあげとネギの味噌汁。重ね焼きは、耐熱皿に、ナスのスライス、ミンチ、トマトのスライスを何回か重ねて、解けるチーズをかけて焼いたものだ。ジュワッとした旨味とチーズのとろけたのがいい。さつま芋は、輪切りのさつま芋と梅干を炊いて軽く梅干を潰すのだが、さっぱりとした味がする。
 兄は重ね焼きでノンアルコールビールを飲んで、唸った。
「美味いなあ。
 まあ、警告はしたんだし、それ以上はやりようがないからな。仕方がないな。何も起こらなければいいし、何か起こったとしても、それは本人が選んだ結果だ。
 歯痒いだろうが、こういうケースはあるからな」
 御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意、クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。この秋からは警備部企画課に異動になった。
「まあ、そうだよなあ。無理やり取り上げて調査とか、できないもんなあ」
「それより体育祭、怜は何に出るんだ?」
「男子全員参加の棒倒しと、障害物と、二人三脚。後は余興のクラブ対抗リレー。部員が6人以上だと強制参加なんだよ。余興なんだから、やりたいとこだけやればいいのに」
「後でいい思い出になるだろ。まあ、がんばれ」
「面倒臭いなあ」

 選手と同じくらいドキドキしながら、記録会を待つ事になった。
 リストバンドの話は陸上部部長と次の借り手、心霊研究部員だけしか知らない話だが、部長と次の借り手がやけに張り切っているのだけが、少し目立った。しかし、話が広まって変なプレッシャーになっても悪いし、元部長が呪うとかいう噂ができてしまうのも困るので、好都合だ。
 当日は、心霊研究部も総出で、会場に行く。
「あんな色でしたっけ?」
 リストバンドを見て、留夏が言う。
「前はもう少し薄いピンクだったような……」
 ユキが同意した。
 やはり、皆もそう思うらしい。陸上部員はそう感じないのだろうか。それとも、いつも見ているから気付かないのだろうか。
 運命のスタートが、切られた。
 森田は順調にスタートし、ゴール前でスパートをかけるという走り方で800メートルを走り切り、見事、トップを飾った。
 部長がドヤ顔を見せて来るが、わかっているのだろうか。問題はこの先だという事を。
「何か腹が立ちません、あの部長」
「腹立つわよ。何、あのドヤ顔。この後が問題なんでしょうが」
 梨那とエリカが怒っている。
「あいつ、心霊現象によっぽどしたいのね。何でもなかったら、全校生徒のまえで土下座してもらおうかしら、なんて言いやがるのよ」
「なんですってえ!?本当ですか、部長!」
「何かあったら、あっちがやってくれるんでしょうね!」
「お、落ち着いて、3人共」
 ユキが、ヒートアップするエリカ、梨那、留夏をなだめるそばで、
「女って、怖ェ……」
「女を侮るなよ、楓太郎」
と、震えあがる楓太郎と、心なしか顔色の悪い宗がいた。
「聞いてないぞ、それ」
「ケガも困るけど、土下座も嫌だねえ」
 僕と直も、呆然としてしまった。
「何て面倒臭い事になってるんだ……」
 頭を抱えたくなる。
 そして閉会し、外へと流れ始めた人達に交じって陸上部と合流するべく歩いていると、慌てたようなざわめきが起こっていた。
「何だろうねえ?」
 覗きに行くと、中心にいるのは我が校の陸上部員だった。
「どうしよう」
「とにかく病院へ」
「推薦は?私の推薦はどうなるの?ねえ!」
「森田……」
 青い顔で、部長と森田が座り込んでいた。
「どうかしたんですか」
「あ……」
 バツが悪そうな顔で、部長が唇をかむ。
「急に、階段でつんのめって……先生が車を取りに行ってるけど、たぶん、アキレス腱が……」
「あ、怜先輩、直先輩。リストバンドが」
 楓太郎がハッとしたように指さす先には、ピンクとはもう呼べない、赤い色のリストバンドがあった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました

四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。 だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

未亡人クローディアが夫を亡くした理由

臣桜
キャラ文芸
老齢の辺境伯、バフェット伯が亡くなった。 しかしその若き未亡人クローディアは、夫が亡くなったばかりだというのに、喪服とは色ばかりの艶やかな姿をして、毎晩舞踏会でダンスに興じる。 うら若き未亡人はなぜ老齢の辺境伯に嫁いだのか。なぜ彼女は夫が亡くなったばかりだというのに、楽しげに振る舞っているのか。 クローディアには、夫が亡くなった理由を知らなければならない理由があった――。 ※ 表紙はニジジャーニーで生成しました

処理中です...