体質が変わったので

JUN

文字の大きさ
上 下
136 / 1,046

首の無い侍(4)沖田、去る

しおりを挟む
 再び、ピリピリとした空気が支配する。
 さっきのはまだ本気ではなかった、準備運動だった、と言わんばかりに、纏う空気が変わっている。
 息を吸うのも吐くのも気を使う。
 首無し侍の剣先が、ほんのわずか上へ上がり、体重がつま先にシフトする。そのタイミングで、地を這う低さで飛び込んで、下から斬り上げた。胸を斬りつけたが、浅い。
 上から刀を振り下ろして来たのを掴頭で弾き、回し蹴りを膝に叩き付ける。
 たたらを踏んで下がる首無し侍を、斬り下ろし、斬り上げ、横に薙いで追撃した。
 それを全て防いで見せて、首無し侍は構え直す。
「沖田よ。お前の弟子は、なかなかにえげつないな」
「はははっ」
 師匠の笑い声を聞く途中で、首無し侍が反撃に出た。振りは最小に、突きは鋭く。
 成程な。動きが大きいと次につなげる時間がかかるから、最小の動きでやるのがいいのか。
 では。突いて来た剣先を払ったそのままの勢いで前に出、横に薙ぎ、首に振り下ろし、脇から斬り上げ、腕に斬りつけ、横に薙いで後ろに回りながら、返す刀で薙ぐ。
 少しずつ、斬りつける度に煙のように黒いものが散っていく。これが生身なら、今頃こちらも、返り血で悲惨な事になっているだろうな。
 少し笑って、横から思いっきり腰を蹴り飛ばす。予定の場所へ。
 首無し侍がそこへ足を踏み込んだ瞬間、埋めておいた札が空中に跳ね上がる。地雷のようなものか。そしてその札は五芒星を描いた真ん中に首無し侍を捕えて、拘束する。
 ここへ誘い込んで、術を発動させる。そういう作戦だったのだ。
「グウウウウ……!」
 唸りを上げ、こちらを見上げる。
「卑怯とか言わないよな」
「言わん。押されていたのは事実だし……。それに、フフフッ」
「何を――あれ?」
 僕に付着した、飛び散っていた元首無し侍を構成していたものが、じわじわと中に浸透してきた。
 血臭がした。肉を、神経を、内臓を断つ感触が手に響く。零れた血の温かさが腕に広がる。向けられる、絶望、畏怖、困惑の目。どこかに、意識が引きずり込まれる。
 その寸前で、無理やり意識を引き剥がし、浄力を内側から纏うように発する。
 長かったような短かったような、その不愉快な感覚は、綺麗に剥がれ落ちていた。
「こういう事もできるのか」
「チッ」
「卑怯とは言えないわな、人の事を」
「備えの手段だったが、不発か」
「残念だったな」
 刀に浄力を乗せ、一気に斬った。
 刀を消して、はああ、と息をつく。
「お疲れ」
 拳を突き出してくる直に、
「直も、ナイス」
と、拳を当てる。直のアシストは、相変わらず天下一品だなあ。
 師匠が、近寄って来て頭を下げた。
「終わったな。助かった。礼を言う」
「師匠、そんな。こちらこそ、ありがとうございました。色々教えてくれて」
「色々世話になったな。楽しかった。司にも礼を言いたいのだが、目的を果たした事で、どうやら、時間切れらしい。よろしく伝えておいてくれ」
「はい」
「現世の男もたいしたもんだ。司も、いい男だ。怜、いい兄を持ったな」
「はい!」
「ん、よくやった」
 師匠は笑って、子供にするように僕の頭を撫でると、消えて行った。
「直。師匠って、沖田総司だったんだって」
「うそおおお!」
「首無し侍も言ってたし、本人も認めた」
「なんか、ああ、惜しい事をしたよねえ」
「そうだよなあ」
 2人で手を取り合って、心底残念がった。
 空が少し、明るさを取り戻し始めていた。
「ああ。今日も暑いんだろうねえ」
「ああ、そこの2人。報告書も書いてもらうし、グラウンドの修復もあるし、銅像も壊れちゃったし、まだまだ用事はあるからな」
 現実に引き戻す古参の霊能師の声に、思わず出てしまう。
「ああ、面倒臭い」






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐

当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。 でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。 その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。 ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。 馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。 途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

夫から国外追放を言い渡されました

杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。 どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。 抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。 そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……

【完結】貴方の子供を産ませてください♡〜妖の王の継承者は正妻志望で学園1の銀髪美少女と共に最強スキル「異能狩り」で成り上がり復讐する〜

ひらたけなめこ
キャラ文芸
【完結しました】【キャラ文芸大賞応援ありがとうございましたm(_ _)m】  妖の王の血を引く坂田琥太郎は、高校入学時に一人の美少女と出会う。彼女もまた、人ならざる者だった。一家惨殺された過去を持つ琥太郎は、妖刀童子切安綱を手に、怨敵の土御門翠流とその式神、七鬼衆に復讐を誓う。数奇な運命を辿る琥太郎のもとに集ったのは、学園で出会う陰陽師や妖達だった。 現代あやかし陰陽譚、開幕! キャラ文芸大賞参加します!皆様、何卒応援宜しくお願いいたしますm(_ _)m投票、お気に入りが励みになります。 著者Twitter https://twitter.com/@hiratakenameko7

後宮の系譜

つくも茄子
キャラ文芸
故内大臣の姫君。 御年十八歳の姫は何故か五節の舞姫に選ばれ、その舞を気に入った帝から内裏への出仕を命じられた。 妃ではなく、尚侍として。 最高位とはいえ、女官。 ただし、帝の寵愛を得る可能性の高い地位。 さまざまな思惑が渦巻く後宮を舞台に女たちの争いが今、始まろうとしていた。

処理中です...