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未来・直(3)進路希望
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家に帰ってみると、色々とあって、驚いた。
「えええっ、幕末の人斬りって、もの凄く強いよねえ?そんなのが甦って来るの?うわあ。困るよねえ」
迷子のお侍さんが師匠になっているのにも驚いたし、幕末の人斬りがやって来ようとしているのにも驚いた。ここへ来るとは限らないけど、何かこれまでのあれやこれやを考えると、どうもそういうのは、ボク達の周りに来ることになりそうな予感がする。
うわあ。
怜と、嫌な、面倒臭い予感ほど当たるもんだと嘆きながら、仕事先の厚生労働省へ行く。
後援会の人に憑りついて副大臣にまでは辿り着いたこの人を、気の毒だと思う。賄賂で新薬の認可を通した大臣と製薬会社の人は、自分が同じ体験をしてみればいいのに。
でも、心情的にはそうでも、このやり方を良しとするわけにはいかない。
「隠蔽する気だろう。お前も国の味方か」
そう言われて、考える。
自分は、何を守りたいんだろう。どうしてこんな仕事をしているんだろう。
最初は怜の力になりたかったからだけど、それだけじゃない。
「お前達の守るものとは何だ」
ドキッとした。でも、すぐにお爺さんのこと、これまでの色んな人、霊が、頭に浮かぶ。
難しく考えすぎてたみたいだねえ。
「人の幸せ」
シンプルに、怜が即答する。
「人が幸せでない国に、未来なんてないからねえ」
フッと、言葉が口をついて出た。
そういう事だ。
ああ。頭を悩ませていた問題の解き方が、やっとわかったような気がする。
後日、三者面談があった。
うちは母が、余所行きのワンピースを着て面談に臨んだ。
「町田君の希望は?」
担任教師が訊くのに、口を開く。
「ボクは、警察官になりたいと思います。だから文系で。あと、妹もいるので、国公立か、奨学金を貰えそうな私立に行きたいです」
「町田はあれだろ。霊能師」
「仕事としてなら、警官ですねえ」
「ふうん、そうか。まあ、公務員だしな。
よし。国公立文系、と。具体的な志望校選びはまだ先の事としても、まあ、このまま行けば大丈夫だろう」
担任教師が調査票に書き込むのを眺めている横で、母が汗を拭きながら口を開く。
「よろしくお願いいたします、先生」
「はい。大丈夫ですよ、お母さん」
担任教師はにっこりと笑って、ボク達は席を立った。そして、廊下で待つ次の番の怜と司さんに代わる。
歩き始めて、母に言った。
「あ、電話してもいいかな。知り合いの警察の人で、司さんの上司なんだけど、そのうちに相談に乗ってもらう事があるかも知れないから」
「お母さんもあいさつしとこうかしらね」
「いいよ、やめてよ」
それを固辞して、徳川さんに進路希望について報告し、相談に乗ってもらう事があるかも知れないからよろしくとお願いしておく。
さあ、これで逃げられないし、情けない事は言えないねえ。
相棒がどんな進路希望を出したか気にはなるが、ボクの進路希望は決定した。
清々しい気持ちで、母の買い物に付き合って荷物を持ち、家に帰ると、徳川さんから電話がかかってきた。何だろうかねえ?
「はい、もしもし?」
「あ、直君?今御崎君の家にいるんだけど、君も来なさい。ありがたい話をしてあげるから」
徳川さんはそれだけ言って、笑いながら電話を切った。
ボクはこみあげる予感に、浮き立つ心を押さえきれなかった。
「えええっ、幕末の人斬りって、もの凄く強いよねえ?そんなのが甦って来るの?うわあ。困るよねえ」
迷子のお侍さんが師匠になっているのにも驚いたし、幕末の人斬りがやって来ようとしているのにも驚いた。ここへ来るとは限らないけど、何かこれまでのあれやこれやを考えると、どうもそういうのは、ボク達の周りに来ることになりそうな予感がする。
うわあ。
怜と、嫌な、面倒臭い予感ほど当たるもんだと嘆きながら、仕事先の厚生労働省へ行く。
後援会の人に憑りついて副大臣にまでは辿り着いたこの人を、気の毒だと思う。賄賂で新薬の認可を通した大臣と製薬会社の人は、自分が同じ体験をしてみればいいのに。
でも、心情的にはそうでも、このやり方を良しとするわけにはいかない。
「隠蔽する気だろう。お前も国の味方か」
そう言われて、考える。
自分は、何を守りたいんだろう。どうしてこんな仕事をしているんだろう。
最初は怜の力になりたかったからだけど、それだけじゃない。
「お前達の守るものとは何だ」
ドキッとした。でも、すぐにお爺さんのこと、これまでの色んな人、霊が、頭に浮かぶ。
難しく考えすぎてたみたいだねえ。
「人の幸せ」
シンプルに、怜が即答する。
「人が幸せでない国に、未来なんてないからねえ」
フッと、言葉が口をついて出た。
そういう事だ。
ああ。頭を悩ませていた問題の解き方が、やっとわかったような気がする。
後日、三者面談があった。
うちは母が、余所行きのワンピースを着て面談に臨んだ。
「町田君の希望は?」
担任教師が訊くのに、口を開く。
「ボクは、警察官になりたいと思います。だから文系で。あと、妹もいるので、国公立か、奨学金を貰えそうな私立に行きたいです」
「町田はあれだろ。霊能師」
「仕事としてなら、警官ですねえ」
「ふうん、そうか。まあ、公務員だしな。
よし。国公立文系、と。具体的な志望校選びはまだ先の事としても、まあ、このまま行けば大丈夫だろう」
担任教師が調査票に書き込むのを眺めている横で、母が汗を拭きながら口を開く。
「よろしくお願いいたします、先生」
「はい。大丈夫ですよ、お母さん」
担任教師はにっこりと笑って、ボク達は席を立った。そして、廊下で待つ次の番の怜と司さんに代わる。
歩き始めて、母に言った。
「あ、電話してもいいかな。知り合いの警察の人で、司さんの上司なんだけど、そのうちに相談に乗ってもらう事があるかも知れないから」
「お母さんもあいさつしとこうかしらね」
「いいよ、やめてよ」
それを固辞して、徳川さんに進路希望について報告し、相談に乗ってもらう事があるかも知れないからよろしくとお願いしておく。
さあ、これで逃げられないし、情けない事は言えないねえ。
相棒がどんな進路希望を出したか気にはなるが、ボクの進路希望は決定した。
清々しい気持ちで、母の買い物に付き合って荷物を持ち、家に帰ると、徳川さんから電話がかかってきた。何だろうかねえ?
「はい、もしもし?」
「あ、直君?今御崎君の家にいるんだけど、君も来なさい。ありがたい話をしてあげるから」
徳川さんはそれだけ言って、笑いながら電話を切った。
ボクはこみあげる予感に、浮き立つ心を押さえきれなかった。
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