体質が変わったので

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未来・怜(1)身元不明の侍

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 協会から回って来た仕事を終え、家に向かっていた。
「明日からだよな、田舎」
 御崎 怜みさき れん、高校2年生。去年の春に、突然、霊が見え、会話ができる体質になった上、夏には神殺し、秋には神喰い、冬には神生みという新体質までもが加わった、霊能師である。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、春の体質変化以来、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「うん、そうだよ。進路相談の三者面談までには帰るけどねえ」
 町田 直、幼稚園からの友人だ。要領が良くて人懐っこく、驚異の人脈を持っている。夏以降直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた、大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いでもある。
「進路かあ。僕は取り敢えず公務員志望だけど、直は?」
「正直、これと言ってまだねえ。サラリーマンになるだろうなあと、これまで漠然と思ってたからねえ」
「まあ、そうだよなあ」
 そんな事を話しながら歩いていると、それと目が合った。着流し姿で、腰に日本刀を差し、腕組みをしている。
「コスプレの幽霊?」
「いや、本当に侍の幽霊かも」
「いやあ、さっきまで魔法少女のコスプレした幽霊と会ってたもんだから、もう何となく、コスプレはいいかなって」
「うん。何となくその気持ちはわかるねえ」
 隣のコンビニから出て来る客が食べるアイスを珍し気に見、綺麗なお姉さんが出て来た時は、嬉しそうに見送っているその姿は、侍という感じではない気がした。
 と、僕達に気付いた。
「ん?おおい。もしかして見えてる?」
 このまま無視しようかと思ったら、直もそう思ったらしい。チラッとこっちを見ると、
「暑いよねえ」
と言い出した。
「今日も熱帯夜だな」
 僕も返して、歩き出す。
 と、いきなり目の前にその侍がぶつかる距離で現れて、つい反射的に足を止めてしまった。
「ああ。やっぱり見えてるなあ」
「しまったああ!コスプレ幽霊はもうお腹いっぱいなんだってば!」
「コスプレ?なんだ、それは?」
 3人で、キョトンと互いの顔を見つめ合う。
「本物の侍?」
「そうとも」
「うおおお、カッコいいねえ!」
「凄いなあ!」
「えへへ、そうかあ?」
「名前は?どうしてこんな所にいるんですか。成仏のお手伝いしましょうか」
「名前はお――」
「……お?」
「……お兄さん、記憶喪失だわあ。でも、一晩寝て、千代田の城を一目見たら思い出すかも。
 あ、その前に、アイスクリームというやつを食べたらもっと思い出しやすくなる気がする。うん」
 胡散臭い。
 でも、まあ、いいか。悪い人ではなさそうだ。
「仕方ないなあ。千代田の城って皇居だよな。そっちは明日連れて行きますから。まあ暑いし、アイス食べましょうか」
「かたじけない!」
 そこで3人はコンビニに入り、アイスを買った。
「甘いな!冷たくて、美味い!真夏に氷とは、いい時代になったなあ」
 しみじみと侍は言って、目を細めた。
「お侍さんは何時代の人なんですか」
「うん。幕末――かなあ?」
 完全に覚えてるなあ、この人。それほど千代田の城が見たいのか。
「幕末だったら知りませんか。誰が坂本龍馬を殺したか」
「ハッキリとされていないから未だに大論争の一つなんですよねえ。薩摩藩士か、長州藩士か、新選組か」
「新選組じゃない」
「へえ」
「と、思う。まあ、よくは知らない」
「ふうん」
「聞いてみたかったなあ。
 あ、そうか。今気付いた。坂本龍馬の霊を呼んで聞けばいいのか」
「怜。それは、どうかと思うんだけどねえ」
「あ……そうだな。うん。それはだめだな。あの世から呼んじゃだめだよな」
「……ああ、元気出せ、な。
 そ、そうだ。土方歳三は凄い沢庵好きだぞ。それから、永倉新八はなまりが凄い。あと、近藤隊長は顔がでかいぞ。本当に凄くでかい」
「おおっ。
 じゃあ、沖田総司は?」
「え?」
「沖田総司。天才剣士で、結核で倒れてしまった沖田さん。カッコいいでしょ。神経質?」
「う、や、あいつは、気さくでいいやつだぞ。大人しいし、か、カッコいい、かな」
「へえええ」
 僕と直は、この胡散臭い侍を少し見直した。土方さんと沖田さんは、2人ともとても好きなのだ。その2人に面識があっただけで、何か、この侍の株も上がってしまった。
 良く見ると、小柄ながらしっかりと鍛えたような体で、大人しそうでどことなく品があるじゃないか、このお侍さん。
「今夜、僕の家に泊まるといいですよ。兄と2人暮らしなんです。マンションっていう、昔はなかった家ですよ」
「ありがたい。じゃあ、世話になろうかな。よろしく頼む」
「ああ。明日田舎に帰るんじゃなかったらなあ。ボクも今晩泊まって、明日、千代田まで送るのになあ」
 直は泣く泣く家に帰り、僕は拾ったお侍さんと家に帰った。




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