115 / 1,046
まつり(2)異界
しおりを挟む
早朝に作っておいたお弁当とお茶の入った水筒を持って、山中を歩く。札を持ったり外したりして写真を撮りながら歩くが、やはり、宗の写真はいい。古い神社は荘厳さ、静謐さが出ているし、風景はそこらしさがより出ている。そして人物は、楽しそうな笑い声が今にも聞こえて来そうだ。
「この辺でお昼にしようか」
「そうね。そこの石段に座りましょうか。
そうだ。これはおすそわけ」
エリカは石段のそばにある朽ちかけた祠にチョコレート菓子を供えると、手を合わせた。
ついでに僕達も、手を合わせた。どうか、平穏無事に合宿が終わりますように。
そして、お弁当を出す。箸などが要らないように、全部ラップで包んでいて、手で持って食べられるようにしている。青じそと甘酢みょうがと白ごま、カリカリ梅と青じそ、鮭の、3種類のおにぎりと、トマトとピーマンとウインナーの入ったスパニッシュオムレツ。
「おにぎりは、足りなかったらまだあるぞ」
「あ、自分、みょうがの欲しいです」
「ボクは梅の」
「ぼくは鮭にしますぅ」
「私……迷うわあ。みょうが!」
騒がしくも楽しく、食事を摂る。
「今年の文化祭は、大丈夫ね」
「また写真か?毎年同じだと、何か言われないか?」
「そうねえ。じゃあ、手作りのお札作り講座」
「いや、それはだめだから。素人が、やばいからねえ」
「喫茶店とかはどうですか?」
「心霊研究部の喫茶店か?じゃあ、店名は『まあ冥途』とか?3寸のチョロチョロした川をまたいで店に入って、店員の格好が白装束とか?」
「メニューは、大日如来セットとかですかあ。面白いですねえ」
「それで、店内に心霊写真を飾って、希望者は別料金で心霊写真を撮れるの」
「そんなの希望する人――ああ、エリカ先輩は希望する人筆頭でしたね」
冗談を言いながら食事をし、祠の前で記念の集合写真を撮って、次の廃ホテルへ向かった。
静かで、勿論誰もいない。なのに、誰かに見られている気がする。廃墟というのは不思議だ。
「本当に不思議だ。どうして廃業って決まった時に、備品類をそのままにしておくんだろうな。ホテルでも病院でも。座布団とか布団とかお茶の葉とか、捨てとけばいいのに。
まあ、病院のメスとかハサミとかピンセットとかよりは、飛んできても危なくないけど」
僕が言うと、楓太郎が、
「いや、飛んでくるのを前提として考えるのがおかしいです、怜先輩」
と即答した。
いや、居残りがいた場合、飛んでくるんだぞ。すごく危ないからな、あれ。
「廃墟マニアっているけど、楽しいのかねえ」
直が首を捻る。
「まあ、人の好みでしょうね。私にも、ちょっと……虫とか蛇とかがいそうで、苦手です」
ユキは、霊云々より別の意味でビクビクしていた。
「退廃的でどうのこうのとかいうのもわからなくはないですけど、この、ゴミの部分とか落書きが、ガッカリですよね」
宗が、絵になりそうな何枚かをファインダーに収めて言う。
「ねえ、その辺とかいないの?」
残念そうなエリカが、とても残念だ。
「全ての廃棄された建物に霊が住み着いていたらおかしいだろ。
そろそろ行くか」
「そうだねえ」
ゾロゾロと、外へ出る。
「次は、この先の滝ね。ここは、オーブが飛ぶらしいのよ」
ワクワクとした声でエリカが言った。
「オーブねえ」
木々に囲まれた細い道を、1列になって歩く。
と、どのくらい歩いた時だろう。何か、薄い膜を突き抜けたような、急に気圧が変化したような、そんな違和感を感じた。
「おい、全員離れるな」
直は札を用意して、辺りを窺っている。
そんな僕達の様子に、他のメンバーも真面目な顔で集まる。
「何かいるんですか」
楓太郎がビクビクする。
「というより、異界に踏み込んだな」
「……異界……ですか?」
「異世界?」
「ここには魔法もステータスもないだろうけどな」
あるのは、化け物と怪異だろう。また、面倒臭い事になりそうだ。
「この辺でお昼にしようか」
「そうね。そこの石段に座りましょうか。
そうだ。これはおすそわけ」
エリカは石段のそばにある朽ちかけた祠にチョコレート菓子を供えると、手を合わせた。
ついでに僕達も、手を合わせた。どうか、平穏無事に合宿が終わりますように。
そして、お弁当を出す。箸などが要らないように、全部ラップで包んでいて、手で持って食べられるようにしている。青じそと甘酢みょうがと白ごま、カリカリ梅と青じそ、鮭の、3種類のおにぎりと、トマトとピーマンとウインナーの入ったスパニッシュオムレツ。
「おにぎりは、足りなかったらまだあるぞ」
「あ、自分、みょうがの欲しいです」
「ボクは梅の」
「ぼくは鮭にしますぅ」
「私……迷うわあ。みょうが!」
騒がしくも楽しく、食事を摂る。
「今年の文化祭は、大丈夫ね」
「また写真か?毎年同じだと、何か言われないか?」
「そうねえ。じゃあ、手作りのお札作り講座」
「いや、それはだめだから。素人が、やばいからねえ」
「喫茶店とかはどうですか?」
「心霊研究部の喫茶店か?じゃあ、店名は『まあ冥途』とか?3寸のチョロチョロした川をまたいで店に入って、店員の格好が白装束とか?」
「メニューは、大日如来セットとかですかあ。面白いですねえ」
「それで、店内に心霊写真を飾って、希望者は別料金で心霊写真を撮れるの」
「そんなの希望する人――ああ、エリカ先輩は希望する人筆頭でしたね」
冗談を言いながら食事をし、祠の前で記念の集合写真を撮って、次の廃ホテルへ向かった。
静かで、勿論誰もいない。なのに、誰かに見られている気がする。廃墟というのは不思議だ。
「本当に不思議だ。どうして廃業って決まった時に、備品類をそのままにしておくんだろうな。ホテルでも病院でも。座布団とか布団とかお茶の葉とか、捨てとけばいいのに。
まあ、病院のメスとかハサミとかピンセットとかよりは、飛んできても危なくないけど」
僕が言うと、楓太郎が、
「いや、飛んでくるのを前提として考えるのがおかしいです、怜先輩」
と即答した。
いや、居残りがいた場合、飛んでくるんだぞ。すごく危ないからな、あれ。
「廃墟マニアっているけど、楽しいのかねえ」
直が首を捻る。
「まあ、人の好みでしょうね。私にも、ちょっと……虫とか蛇とかがいそうで、苦手です」
ユキは、霊云々より別の意味でビクビクしていた。
「退廃的でどうのこうのとかいうのもわからなくはないですけど、この、ゴミの部分とか落書きが、ガッカリですよね」
宗が、絵になりそうな何枚かをファインダーに収めて言う。
「ねえ、その辺とかいないの?」
残念そうなエリカが、とても残念だ。
「全ての廃棄された建物に霊が住み着いていたらおかしいだろ。
そろそろ行くか」
「そうだねえ」
ゾロゾロと、外へ出る。
「次は、この先の滝ね。ここは、オーブが飛ぶらしいのよ」
ワクワクとした声でエリカが言った。
「オーブねえ」
木々に囲まれた細い道を、1列になって歩く。
と、どのくらい歩いた時だろう。何か、薄い膜を突き抜けたような、急に気圧が変化したような、そんな違和感を感じた。
「おい、全員離れるな」
直は札を用意して、辺りを窺っている。
そんな僕達の様子に、他のメンバーも真面目な顔で集まる。
「何かいるんですか」
楓太郎がビクビクする。
「というより、異界に踏み込んだな」
「……異界……ですか?」
「異世界?」
「ここには魔法もステータスもないだろうけどな」
あるのは、化け物と怪異だろう。また、面倒臭い事になりそうだ。
10
お気に入りに追加
199
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました
四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。
だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。
あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。
そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。
翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。
しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。
**********
●早瀬 果歩(はやせ かほ)
25歳、OL
元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。
●逢見 翔(おうみ しょう)
28歳、パイロット
世界を飛び回るエリートパイロット。
ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。
翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……?
●航(わたる)
1歳半
果歩と翔の息子。飛行機が好き。
※表記年齢は初登場です
**********
webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です!
完結しました!
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる