体質が変わったので

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復讐予告(3)黒い炭の人形

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 中内の家は、小さな建売住宅だった。そこに両親と兄と4人で暮らしている。
 家族中が委縮して、ビクビクと怯え、また、殺気立っていた。
 午前1時というのが、事の起こった時間らしい。
「もうすぐだ」
 ゴクリと、中内が唾を飲む。
 杉沢にも事情を話し、共同で事に当たろうと中内家側が提案して、杉沢の方には直が詰めている。おそらくはこちらが先だろうとは思うが、そこは益田次第かも知れない。
 午前1時になった。突然、冷気が襲って来た。

     一つの人形がありました
     最後のひとつは火にくべて
     黒い炭になりました

 中内が頭を抱えてパニックになる。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
 益田の尻尾を捕えようとするも、母親と中内がしがみついてきて、
「助けて、助けて、助けて、助けて」
と言って揺さぶるので、何もできない。
「離して、ちょっと、離し――!」
 見かねた父親と兄が2人を引き剥がし、僕は頸椎捻挫を免れた。
「歌が、益田の歌が」
「何て言ってたの」
「えっと、最後のひとつは火にくべて、黒い炭にするって。
 歌の通りだろ。だったら、俺、火あぶりにされて炭になるのか」
 中内が頭を抱えて
「嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ」
と震え出し、母親は泣きだした。兄は呆然とし、父親が、頭を下げる。
「こいつのした事を考えると、虫のいい話だと思う。でも、どうか命だけは守ってやって下さい。お願いします」
「できるだけの事はやります」
 まずは直に、こちらが次だったと知らせる事からだ。

 歌は、中内本人しか聞いていない。中内が言うには、直接頭の中に聞こえて来るようだったらしい。
 これまでのカード2枚を並べて見る。
「3体の人形の、この状態の通りになるとしたら、火で、炭化だな」
「火事かなあ」
「炭化するほど焼こうと思ったら、かなりのものだぞ。生きたままでは、なかなか」
「殺すのかな、先に」
「今まで、命までは取ってないからな。動けない状態にして、とか?でも、炭化するほど焼いたら、たぶん死ぬよな」
「一瞬でそんな高温にできるものってあるかなあ」
「ジェット燃料とかどうかな。でも、人体を一瞬で高温にさらしたら、まず爆発するからな。人体を炭化させるのは難しい。
 今回は命を取るという意味か、炭になるというのは言葉のあやで、大火傷という事かもな。
 浦川も、別に一本足にはなってないだろ」
 直はそこで残念そうな顔になり、
「まあ、見かけはね。でも、神経までやられてて、この先は、片足を引きずることになるらしいよ」
と言った。
「2人共、一生治らない怪我か。
 これはやっぱり、火事か何かを警戒だな。いじめに加わった程度に差があって、命まで取る場合と取らない場合があるのかも知れない」
 隣の部屋で聴き耳を立てていたらしい一家が、ガタッと音を立てる。
 聞かれたか。まあいい。
 隣へ顔を出す。
「火事か何かを起こしてくる可能性があります。可燃物には十分注意して下さい。
 可燃物の無い所へ移動した方がいいかな。火を使わなくても、漏電とかを狙ってくるかも知れないし」
 中内家の面々はヒクッと喉を鳴らし、
「お任せします」
と頭を下げた。
 それで中内は、河原に移動した。
 札を用意し、火に備える。
「いつ、来るんだよ」
「浦川君は登校途中、友野君は家を出る時だったけど、わからないな」
「まあ、今日中だとは思うけどねえ」
 中内は落ち着きなくソワソワとし、近付いて来る益田を探そうというかのようにキョロキョロしている。
 河原がだんだん薄明るくなり、離れた所で見守る中内家の様子もハッキリと見えて来る。だんだん、特に母親が消耗してきていた。
 と、冷気がドッと押し寄せる。
「来た」
 飛んできたそれを、まずは弾く。防ぐ。何度か繰り返している内に、動くなと厳命しておいたにもかかわらず、怯えていた中内がジリジリと後ずさり、結界を出てしまう。
「あ、バカ、何で結界から出るんだよ!」
「え!?あ!!」
 中内の腕にポッと火が点り、バッと一気に片腕に広がる。
 それを見届けるように、益田の気配は遠ざかった。
「よし、行った」
 中内のトレーナーを引っ剥がして、その辺に放り投げる。そこへ、準備しておいた消火器の消火剤を吹き付けて完全に火を消す。
 難燃繊維の服を着せてはいたが、やはり慌てて動いたせいで、手首から先に火傷を負っていた。
 泣くのを無視して取り合えず準備していた冷水に手を突っ込み、中内のポケットを探る。と、カーゴパンツのポケットに、目当てのものが見付かった。
 ハガキサイズの硬い紙だ。

     一つの人形がありました
     最後のひとつは火にくべて
     黒い炭になりました

 間違いない。
「これで完了したと見てもいいかな。油断はできないけど」
 中内は子供のように大声を上げて泣きじゃくり、母親はそんな中内に取りすがる。そして父親は、深々と頭を下げて、
「ありがとうございました。後日、益田君の所に謝罪に伺おうと思いますし、息子のした事がこれで許されたわけではないと、親共々、反省したいと思います」
と言った。
「はい。
 とにかく、病院へ行った方がいいです」
 これで後は、杉沢1人だな。
 どこかから、ラジオ体操の歌が聞こえた。

     新しい朝が来た
     希望の朝だ

 中内家もそうなればいいがな。







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