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ねがう(2)見知らぬ知人
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翌日からも、また寝る羽目になった。
ただし、夢で会った相手は直ではない。大学生くらいの知らない男だ。そしてどういうわけか、そいつのいう事を聞かなければならない、そいつと一緒にいなければならない、と思うのだ。
毎朝起きると、より頭が重く、ボンヤリとするようだ。
無理やりのように毎日睡眠に引きずり込まれているせいなのか、他に原因があるのか、わからない。
それでも学校に行き、頬杖をついてボンヤリしていると、直が来た。
「調子悪いのか、怜」
「ああ、大丈夫。ちょっと、毎日寝てるから」
「おかしかったら、京香さんにでも言った方がいいよ。
あの社の続報だよ。特別祈祷を受けたら、ライバルをノイローゼにさせたり、自殺させたり、別れさせたり、告白を受け入れさせたりできるそうだよ」
「どういうカラクリだ、それ」
「寝たら夢にあの結女の神が出て来るから、どこの誰にどうしたいか言って、その相手の事を強く思うんだって」
「それだけか?」
「らしいよ」
どういう事だろうな。
「他にどんな願い事が叶うんだろう」
「恋愛が主らしいからねえ。付き合いたい、別れさせたい、これがほとんどじゃないかな」
「ううん。まだ何か足りないのかな。
何か、考えがまとまらないというか……」
「本当に調子悪そうだねえ。病院行く?」
「説明し難いんだよなあ。この頃毎晩寝てしまうんです、なんて」
「ああ……」
厄介なものである。
取り敢えずは大人しくしていることにして、放課後、まっすぐ家に帰る。
マンションのエントランスから郵便受けの並ぶポストルームに入ると、そこに知らない人がいた――いや、知っている。こいつは夢で会うやつだ。こいつのいう事を、聞かなければならない。こいつと一緒にいなければならない。
頭がボンヤリとして、考えようとしても、端から思考が零れ落ちる。
「行こうか」
どこへ?
「行くよ」
「……ああ」
雲の上を歩くような頼りなさで、腕を掴まれたまま、歩き出す。
おかしい。
おかしいって何が。
ついて行けばいい。
いう事を聞いて、いれば、いい……。
と、いきなり思考がクリアになる。
「知らない人について行っちゃだめだろ」
声の方に顔を巡らせると、
「あ!」
蜂谷がいた。
口元だけで笑って、口の前で指を1本立てている。
「あんた誰だ」
「お宅こそ誰だよ。未成年者略取?」
夢の男は愛想笑いを浮かべると、
「何のことだ」
と言って、慌てて逃げた。
「危ない、危ない」
「蜂谷、さん」
「いいよ、蜂谷で」
「蜂谷、ありがとう」
「どういたしまして」
「何でここに?」
「今の奴、祟り神ん時の残党なんだよ。奴らまだリベンジマッチを諦めてなくて、坊やを自分達の戦力にして日本を手に入れるつもりらしいよ。ハッキングしたら、それがわかってね。
俺はあいつら嫌いだから、流石に坊やを戦力にされちゃどうしようもなさそうだし、来てみたんだよ」
「それは、ありがとう。でも、坊やはやめろ」
「怜怜」
「パンダみたいだけど、まあ、いいか」
蜂谷は笑って、
「怜怜、無防備すぎだよ。なまじ力が強いからかねえ。札あげるから、肌身離さず持っておけよ」
1枚もらった。
「何がしたいんだろうな。単に、権力?」
「負けない、強い日本にしたいらしいよ。どこの国にも屈しない」
「危ない奴らだな」
「全くだよ」
「蜂谷はこれからどうするんだ」
「俺?今更国試受けて表に戻れるとも思えないし、適当にやるよ。じゃあな――あれ?」
僕は、もう1枚の札で、蜂谷を足止めしていた。
「蜂谷、いい戦力だし、一緒にやれると思うんだよな」
「こら、離せ」
「一緒に謝ってやるから」
「怜怜、おい」
「いつまでもこんな事してないで、ちゃんとしろよ」
「……」
「社会保障だって受けられないぞ」
「……怜怜……やっぱりお前、おもしろいわ」
蜂谷は脱力したように笑った。
ただし、夢で会った相手は直ではない。大学生くらいの知らない男だ。そしてどういうわけか、そいつのいう事を聞かなければならない、そいつと一緒にいなければならない、と思うのだ。
毎朝起きると、より頭が重く、ボンヤリとするようだ。
無理やりのように毎日睡眠に引きずり込まれているせいなのか、他に原因があるのか、わからない。
それでも学校に行き、頬杖をついてボンヤリしていると、直が来た。
「調子悪いのか、怜」
「ああ、大丈夫。ちょっと、毎日寝てるから」
「おかしかったら、京香さんにでも言った方がいいよ。
あの社の続報だよ。特別祈祷を受けたら、ライバルをノイローゼにさせたり、自殺させたり、別れさせたり、告白を受け入れさせたりできるそうだよ」
「どういうカラクリだ、それ」
「寝たら夢にあの結女の神が出て来るから、どこの誰にどうしたいか言って、その相手の事を強く思うんだって」
「それだけか?」
「らしいよ」
どういう事だろうな。
「他にどんな願い事が叶うんだろう」
「恋愛が主らしいからねえ。付き合いたい、別れさせたい、これがほとんどじゃないかな」
「ううん。まだ何か足りないのかな。
何か、考えがまとまらないというか……」
「本当に調子悪そうだねえ。病院行く?」
「説明し難いんだよなあ。この頃毎晩寝てしまうんです、なんて」
「ああ……」
厄介なものである。
取り敢えずは大人しくしていることにして、放課後、まっすぐ家に帰る。
マンションのエントランスから郵便受けの並ぶポストルームに入ると、そこに知らない人がいた――いや、知っている。こいつは夢で会うやつだ。こいつのいう事を、聞かなければならない。こいつと一緒にいなければならない。
頭がボンヤリとして、考えようとしても、端から思考が零れ落ちる。
「行こうか」
どこへ?
「行くよ」
「……ああ」
雲の上を歩くような頼りなさで、腕を掴まれたまま、歩き出す。
おかしい。
おかしいって何が。
ついて行けばいい。
いう事を聞いて、いれば、いい……。
と、いきなり思考がクリアになる。
「知らない人について行っちゃだめだろ」
声の方に顔を巡らせると、
「あ!」
蜂谷がいた。
口元だけで笑って、口の前で指を1本立てている。
「あんた誰だ」
「お宅こそ誰だよ。未成年者略取?」
夢の男は愛想笑いを浮かべると、
「何のことだ」
と言って、慌てて逃げた。
「危ない、危ない」
「蜂谷、さん」
「いいよ、蜂谷で」
「蜂谷、ありがとう」
「どういたしまして」
「何でここに?」
「今の奴、祟り神ん時の残党なんだよ。奴らまだリベンジマッチを諦めてなくて、坊やを自分達の戦力にして日本を手に入れるつもりらしいよ。ハッキングしたら、それがわかってね。
俺はあいつら嫌いだから、流石に坊やを戦力にされちゃどうしようもなさそうだし、来てみたんだよ」
「それは、ありがとう。でも、坊やはやめろ」
「怜怜」
「パンダみたいだけど、まあ、いいか」
蜂谷は笑って、
「怜怜、無防備すぎだよ。なまじ力が強いからかねえ。札あげるから、肌身離さず持っておけよ」
1枚もらった。
「何がしたいんだろうな。単に、権力?」
「負けない、強い日本にしたいらしいよ。どこの国にも屈しない」
「危ない奴らだな」
「全くだよ」
「蜂谷はこれからどうするんだ」
「俺?今更国試受けて表に戻れるとも思えないし、適当にやるよ。じゃあな――あれ?」
僕は、もう1枚の札で、蜂谷を足止めしていた。
「蜂谷、いい戦力だし、一緒にやれると思うんだよな」
「こら、離せ」
「一緒に謝ってやるから」
「怜怜、おい」
「いつまでもこんな事してないで、ちゃんとしろよ」
「……」
「社会保障だって受けられないぞ」
「……怜怜……やっぱりお前、おもしろいわ」
蜂谷は脱力したように笑った。
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