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探す・ユキ(4)幽霊に食べられる
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どうしよう、どうしよう、どうしよう。ユキは激しく後悔していた。何故、もっと準備してこなかったんだろうか。こんな、思いついてすぐ、だなんて。
「ああ、エリカならこうするわね」
いつの間にか、影響を受けていたらしい。
不快ではなかった。だが、困った。
「健康状態は調べるにしても、まず、マッチングテストだけはしておきましょうか。使い物にならないなら、始末しませんと」
「うむ、そうじゃな」
教祖はユキに近付くと、手を重ねて、目を閉じた。
途端に、得体の知れない何かが、体に入って来た。
「――!?」
幽霊に食べられる、まさしくそんな感覚だった。
ああ、マミちゃんはこれをされたのか。そう、理解した時、教祖がフッと離れ、それは終わった。
「問題ないじゃろう。検査は明日でいい。まずは、幹部に報告して来い」
女が命令に従って出て行くと、教祖は不思議そうな顔をし、次に、頭を抱えた。
「何!?お前、しぶとく残って――やめろ、痛い痛い痛い!」
「マミちゃん!?」
「早く、逃げ――そうはいくか!――ユキちゃん、急いで!」
「マミちゃん!マミちゃんね!?」
教祖は脂汗を垂らしてユキの手錠を外した。
「逃がすか――!!」
「マミちゃん!!」
教祖が、ガッと手を掴み、幽霊が侵食してきた。
瞼の裏がハレーションを起こしたようだった。
自分の中を、良く知るものと恐ろしいモノとが駆け巡る。それがどのくらい続いたのか、まるでわからない。ほんの数分のような気もするし、何時間も経ったような気もする。
やがて、それは良く知る懐かしい気配に変わった。
<ユキちゃん、ありがとう。また会えてうれしい>
<マミちゃん!>
<ユキちゃんはすぐに逃げて。いつまでもは押さえていられないし、あいつが戻って来たら、逃げられない>
<マミちゃんも行こう。何とかしてもらえるかも知れないもん>
<そんな余裕は、本当にないの。だから、こいつを消してやる。
ユキちゃん、元気でね>
<マミちゃん……>
<ユキちゃん、怖がりなのに、こんな目を持ってるのね>
<マミちゃんを探す為に、お願いして、貰ったの>
<もういらないね。持って行こうか>
<マミちゃん>
<行って>
その瞬間、世界の色が変わるような感覚があり、マミちゃんもユキの体から抜けた。
「マミ――」
「行って。バイバイ、ユキちゃん」
そう言って笑うと、教祖、いやマミは、部屋を飛び出して走って行った。
ユキは、
「ばいばい、マミちゃん」
と言って、同じように部屋を飛び出した。
とにかく、走った。外を目指して、階段を駆け下り、何度も転びそうになりながら、走り抜けた。
気付いて追って来た教団員もいたが、なぜ体育ではこれが発揮できないかと笑いがこみ上げて来るほど、上手くすり抜けて走る。
建物の外へ出、門の外へ飛び出したところで、誰かに掴まれた。
「きみは、天野さんだったよね」
司だった。
「マミちゃんが」
「マミちゃん?落ち着いて、深呼吸して」
後ろで悲鳴が上がり、弾かれたように振り返る。
建物の屋上に人影があり、それが、ゆっくりとプールに飛び込むみたいに、地面に飛び込んだ。
「マミちゃん――!!」
そこでユキは、意識を手放した。
晩秋の風は乾燥して、肌を刺す。
その中を、ユキはゆっくりと歩いていた。
交差点の手前で足を止め、確認する。
もう、何も見えなかった。
夢ではなかったのだと、初めて実感した。
カルト教団の暴走とテレビや新聞は繰り返し報道した。水槽で培養されていた子も見つけられたが、出された途端、死んだらしい。そしてあの体の乗り換えはどこも報じなかったが、少しして、記憶のコピーという実験が成功したとネットニュースに流れた。あのモノについては、全くだ。
あの日、強制捜査の為に警察があそこを囲んでいて、司もその応援に駆り出されていたと後で聞かされたが、そのおかげでユキがマスコミに声をかけられる事もなく済んだらしい。
交差点の幽霊も見えない。それが、寂しいのか、ホッとするのか、まだよくわからない。
でも、マミに会えて良かった。それだけは断言できると、ユキは思った。
「ああ、エリカならこうするわね」
いつの間にか、影響を受けていたらしい。
不快ではなかった。だが、困った。
「健康状態は調べるにしても、まず、マッチングテストだけはしておきましょうか。使い物にならないなら、始末しませんと」
「うむ、そうじゃな」
教祖はユキに近付くと、手を重ねて、目を閉じた。
途端に、得体の知れない何かが、体に入って来た。
「――!?」
幽霊に食べられる、まさしくそんな感覚だった。
ああ、マミちゃんはこれをされたのか。そう、理解した時、教祖がフッと離れ、それは終わった。
「問題ないじゃろう。検査は明日でいい。まずは、幹部に報告して来い」
女が命令に従って出て行くと、教祖は不思議そうな顔をし、次に、頭を抱えた。
「何!?お前、しぶとく残って――やめろ、痛い痛い痛い!」
「マミちゃん!?」
「早く、逃げ――そうはいくか!――ユキちゃん、急いで!」
「マミちゃん!マミちゃんね!?」
教祖は脂汗を垂らしてユキの手錠を外した。
「逃がすか――!!」
「マミちゃん!!」
教祖が、ガッと手を掴み、幽霊が侵食してきた。
瞼の裏がハレーションを起こしたようだった。
自分の中を、良く知るものと恐ろしいモノとが駆け巡る。それがどのくらい続いたのか、まるでわからない。ほんの数分のような気もするし、何時間も経ったような気もする。
やがて、それは良く知る懐かしい気配に変わった。
<ユキちゃん、ありがとう。また会えてうれしい>
<マミちゃん!>
<ユキちゃんはすぐに逃げて。いつまでもは押さえていられないし、あいつが戻って来たら、逃げられない>
<マミちゃんも行こう。何とかしてもらえるかも知れないもん>
<そんな余裕は、本当にないの。だから、こいつを消してやる。
ユキちゃん、元気でね>
<マミちゃん……>
<ユキちゃん、怖がりなのに、こんな目を持ってるのね>
<マミちゃんを探す為に、お願いして、貰ったの>
<もういらないね。持って行こうか>
<マミちゃん>
<行って>
その瞬間、世界の色が変わるような感覚があり、マミちゃんもユキの体から抜けた。
「マミ――」
「行って。バイバイ、ユキちゃん」
そう言って笑うと、教祖、いやマミは、部屋を飛び出して走って行った。
ユキは、
「ばいばい、マミちゃん」
と言って、同じように部屋を飛び出した。
とにかく、走った。外を目指して、階段を駆け下り、何度も転びそうになりながら、走り抜けた。
気付いて追って来た教団員もいたが、なぜ体育ではこれが発揮できないかと笑いがこみ上げて来るほど、上手くすり抜けて走る。
建物の外へ出、門の外へ飛び出したところで、誰かに掴まれた。
「きみは、天野さんだったよね」
司だった。
「マミちゃんが」
「マミちゃん?落ち着いて、深呼吸して」
後ろで悲鳴が上がり、弾かれたように振り返る。
建物の屋上に人影があり、それが、ゆっくりとプールに飛び込むみたいに、地面に飛び込んだ。
「マミちゃん――!!」
そこでユキは、意識を手放した。
晩秋の風は乾燥して、肌を刺す。
その中を、ユキはゆっくりと歩いていた。
交差点の手前で足を止め、確認する。
もう、何も見えなかった。
夢ではなかったのだと、初めて実感した。
カルト教団の暴走とテレビや新聞は繰り返し報道した。水槽で培養されていた子も見つけられたが、出された途端、死んだらしい。そしてあの体の乗り換えはどこも報じなかったが、少しして、記憶のコピーという実験が成功したとネットニュースに流れた。あのモノについては、全くだ。
あの日、強制捜査の為に警察があそこを囲んでいて、司もその応援に駆り出されていたと後で聞かされたが、そのおかげでユキがマスコミに声をかけられる事もなく済んだらしい。
交差点の幽霊も見えない。それが、寂しいのか、ホッとするのか、まだよくわからない。
でも、マミに会えて良かった。それだけは断言できると、ユキは思った。
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