体質が変わったので

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探す・ユキ(3)ユキ、決心す

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 ユキは思い出した。マミとマミと食べた幽霊を探し出す為に、自分は幽霊の見える目が欲しいと願ったのだという事を。
「どうして今まで忘れていたのかしら」
 あの後ユキの父も転勤となって今の家へ戻り、いつの間にか、時々見える幽霊に怯えるだけになってしまっていたのだ。愕然とした。
 なぜ急に思い出したのか。それは、あれだろう。
 左を見ると、「真宙会」という看板を掲げた大きな建物があり、そのエンブレムが、あのマミのいた建物についていたエンブレムと同じだったからである。
 ユキは、意を決して、その宗教団体の門を潜った。

 見学を希望して中に入り、講堂で話を聞く途中でトイレのふりをして抜け出す。そして平静を装って、中を見て回る。
 まさか幽霊に食べられたと思っているわけではないが、ここに、マミが監禁でもされているのではないかと思っていた。
 セミナールームがいくつか、図書室、売店。表にあるのはそういうものだ。2階、3階は寮らしい。そして4階は、特別な鍵がないと入れないようだった。
 が、偶々、ここへ来た人が鍵を開けた後で何かを取り落とし、階段を落ちて行ったそれを拾いに扉の前を離れたので、ユキはその隙に4階へ滑り込む事に成功した。
 人影はない。
 ドアがいくつか並び、その中の1つに「真身」というプレートのかかっているドアがあったので、もしやという思いで、そっとドアを開けて、中を覗いた。
 そこは、研究室、もしくは病院のような部屋だった。ガランとした部屋の片方に隣へ続くドアがあり、ステンレスの棚が、壁に沿って並んでいる。そして、隣とつながるドアの反対側のには水槽が2つあった。
 覗いてみる。
 片方は空、もう片方には液体が湛えられ、そこに、子供が1人漂っていた。
「え!?」
 ユキは、水槽にかじりついた。
「あらあら。どこから入り込んだのかしら」
 いつの間にか、白衣の女と、マミを成長させたような子がそこにいた。
「え?マミちゃん?」
 ユキの記憶のマミの面影がある。
「どこのどなた?」
 女が、近付いて来ながら訊いた。
「マミちゃんなの?」
「マミちゃん?」
 女は怪訝な顔をしたが、すぐに、ああ、と言った。
「報告書にあった、あの女の子ね。へえ。あなたもこの辺で暮らしてたの」
 女は言って、ツカツカとユキに近付くと、ユキをデスクに誘うようにして近付け、デスクに付いた手錠をユキの手にかけた。その動きが余りにも自然で、手錠を数秒見つめてから、ユキは何をされたか理解した。
「あ、あの、勝手に入った事は謝ります」
 女は無視して、マミ似の女の子に言った。
「教祖様、そこへお座り下さい。真身まみの状態を調べます」
 そして、マミ似の教祖を椅子に座らせて、爪を見たり、目を見たり、心音を聴いたりし始めた。その間教祖はユキをジッと無表情で見ていた。
「マミちゃん、幽霊に食べられるって」
「幽霊?」
 教祖は訊き返し、少し考えて、笑いだした。
「ああ、成程。幽霊。そう感じていたようだな、この真身の元の持ち主は」
「……この真身の元の持ち主?」
「ああ、そうだ。それも、お前も、マミが名前だと思っていたようだがな」
 ユキは混乱してきた。
「教祖様、そんなにお話になってよろしいのですか」
「構わん。だって、もう帰さないんだろう?」
「確かに」
 女は肩を竦め、採取した血液を遠心分離機にかけに立った。
「あの……マミちゃん、よね」
「私は太古に地球に降りたモノ。体を失ったので、帰る時まで地球の生命体の体を使っておる。つまりじゃ。本体はこの精神体のみで、入る体が、真身じゃな。これが今代の真身であり、あれが次代の真身じゃな」
 水槽を差され、ユキはそちらを見た。
「以前はお前が知っているように普通に成長させていたが、また逃げられても事だしの。技術も発達したので、水槽で培養する事に代えたのじゃ」
「体を、乗り換える?」
「そうじゃ、そうじゃ。本当ならこの真身でもう少しいくつもりじゃったがのう、どうも、ノイズがあっての」
「ノイズ?」
「そうじゃ。それで、今回は早めに移す事にしたんじゃよ。突然教祖が子供になって混乱せんかと思っておったのじゃが、お前を使うのはどうじゃろう」
 教祖はユキに視線を向けたまま、言う。
「そうですねえ。あまり子供だと、昔に比べて色々と面倒はありますね、確かに」
 女も乗り気そうに、ユキに寄って来た。
「え、でも……」
「心配はいらん。私が移った時点で、お前の意識は消えるからの。痛くも怖くもないぞ」
「取り合えず、検査しましょう」
 女が、あっさりと言った。
「マミちゃん!」
 教祖はそう呼びかけられて、一瞬顔をしかめて舌打ちをしたが、
「あまり小さいと、不便じゃ」
と口を尖らせた。
 



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