体質が変わったので

JUN

文字の大きさ
上 下
51 / 1,046

探す・ユキ(2)友人

しおりを挟む
 山間部の小さい集落に、当時、ユキ達一家は住んでいた。父親の転勤によるもので、近くにスーパーもなければ銀行もない、自動車がなければ生活に困るような所だった。
 だが、幼稚園前の子供にとっては、すぐに環境に慣れ、新しい遊び方を発見すれば、何の問題もない。
 集落にユキと同じくらいの年頃の子供はいなかったが、外れにある大きな研修施設のような所には、マミという同い年の女の子がいた。
 集落の人はあまりはっきりと言いたがらなかったが、この施設は宗教色のあるものらしく、集落との関りをお互いに持たずにいるようだ。
 ユキは1人で探検に行ったときにここを見つけ、何度か外から覗いているうちに、マミに会ったのだ。
「何してるの」
「お散歩」
「一緒に遊ぼう」
 マミの方も周りに子供はおらず、2人が一緒に遊びだすのは、当然のようなものだった。
 最初は集落の人も警戒するようだったが、やがて、相手は素直で幼い子供、その必要もないと、集落の中を歩いていても、誰も気にしなくなっていった。
「マミちゃんの家は大きいね。それに、いっぱい、人がいるね」
 それがユキには不思議だった。
「ユキちゃんの家の人は、笑ったり、怒ったりするのね。それに、お辞儀をしないわ」
 それがマミには不思議で、それが不思議だというのが、ユキには不思議でしかなかった。
 それでも毎日のように、走り回ったり、本を読んだり、昼寝をしたりして、まるで仲のいい姉妹のようになるのに、そう大して時間はかからなかったのである。

 そんな、いつもの平凡な1日になるはずだったある日。セミの抜け殻を集めて並べていると、青い顔のひょろっとした女の人が来た。マミの家の人だ。
「帰りなさい」
 と言うや、マミの手を掴んで強引に立ち上がらせる。
「もっと遊びたい」
 マミが言っても、
「いけません。急いで下さい」
と、聞く耳を持たない。
「嫌、離して!」
「マミちゃん!」
「幽霊に食べられる!!」
 その人はマミを引きずるようにして、帰って行った。
 マミを助けられなかったユキは、家へ帰り、両親にそれを訴えた。
「マミちゃんが幽霊に食べられる」
と。
 大人にしてみれば、何をバカな事を、というだけの話だ。
 だが、あまりにもユキが言うので、虐待かも知れないと、外れのその施設へ行ってみたのだ。
 そして聞かされたのは、
「マミは本当は健康上の問題があって、外で遊べる子ではないのです。それが、いつの間にか目を盗んで外へ出てしまい、困っていた所です」
という話だった。
 出て来たマミも、
「ごめんなさい。もう、家でじっとしていないとだめなの」
と冷たい顔で笑ったのだ。
「マミちゃん?」
「なあに、ユキちゃん」
「幽霊、怖くない?」
「幽霊?そんなもの、いないのよ、ユキちゃん」
 それが、マミとの最後だった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました

四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。 だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

七年間の婚約は今日で終わりを迎えます

hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

処理中です...