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かげふみおに(3)親子面談
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あそぼ、あそぼ。今日は何して遊ぼうか。
だるまさんがころんだ。
靴隠し。
かげふみ。
鬼ごっこ。そうだ、かげふみ鬼。
鬼は影の中しか行けなくて、タッチしたら鬼が交代。
やろう、やろう。じゃあ鬼はまずさっちゃんからね。用意、どん。
さっちゃん、影しか踏んじゃだめだからね。鬼は影の中だからね。
真昼のグラウンドの真ん中には、どこにも影なんてない。亜里沙ちゃんたちは離れていて、届かない。
ねえ、ジュース飲もう。あ、さっちゃんは動けないよ、影しか。
鬼は影の中だもんねえ。
カップはジノリで、お茶菓子のミルフィーユは、雑誌やテレビで特集が組まれるような高級な店のものだ。そうなると、カップの中の紅茶も、きっと高いものに違いない。
飲んでみたが、よくわからないな。うちはコーヒー派だからな。
さりげなく見た部屋の内装も、テーブルセット、飾り棚やそこに飾られた時計、置物、幸せそうな家族写真を収めた写真立て、壁に掛けられたリトグラフ。どれも、高価そうだ。
ここは、応接間というより自慢間だな。
小東美羽の自宅に、亜里沙母子、夢愛母子、僕、直、エリカ、ユキが呼ばれ、集まっていた。
母親たちは一様に不機嫌で、子供達は不安そうにそんな母親の顔色を窺い、それでも、ケーキを食べる時だけは頬をゆるめていた。
崩れて食べ難いミルフィーユは、一層ずつ食べると食べやすいぞ、エリカよ。
「その島野さんが、うちの亜里沙や美羽ちゃんに、そんな酷い事をしたと言うのね」
「あまりにも信じがたい話だけれど、信じるほかはなさそうですわ、田川さん」
「そうですわね。訴えられるのかしら、その島野さんを」
僕らが呼ばれたのは、二つの出来事にほぼ居合わせた大きい人、という事で、子供達が呼ぶようにと頼んだらしい。そこで、間違いなく意思に反して、目を瞑ったまま歩いたり人を突き落としたりしたようだと、証言を求められたのだ。
確かに、そう言っていたし、嘘をついているようにも見えなかったと言えば、今度は、なぜ、となる。
そこで迷いはしたが、いじめにあっていた幸子が、と話したのである。
「その酷い事ってのは、もともと彼女達がした事ですよ」
イラッとしたのでそう言ったら、母親達は眦をキッと吊り上げた。
「何ですって」
「目を瞑ったまま家まで帰らないと、掃除当番を代わる。これは亜里沙ちゃんがさっちゃんに言った事だよねえ。
嫌いな先生を階段で押せ。これは美羽ちゃんがやらせたんだよねえ」
二人は俯いて、チラッと母親の顔色を窺う。
「同じことを、返しているんですよ。これが酷いというなら、島野さんにしたのも、酷いという事ですね」
二人の母親は黙り、次いで、オホホと笑う。
「うちの子がそんな事をするわけないわ。そうよね、亜里沙ちゃん」
「美羽だってそうよね。優しいいい子だものね」
子供達は黙り込んで、目を合わさないようにしていた。
「だったら心配ないですかね。ほかには、壁に頭をぶつけて反省と呼んでたり、トラックの下に入らせて足を骨折したりしたようですけど」
すましてそう言い、カップを手に取る。直はばくばくとケーキを食べていた。
母親達は慌てふためいて、
「どうすればいいの。警察?」
「だめよ、そんな事をすれば」
「あ、この子達のしたことも――」
と騒ぎ立て、子供達はとうとう泣き出した。
「やったの、全部亜里沙たちでやったの!」
「お揃いの浴衣とか買わなくてノリが悪いから」
「グラウンドに暑い中立たせて動くの禁止って言ったり。鬼だから影しか踏んだらだめって意地悪したの」
「どうしよう、ママ」
「こんなになるなんて思わなかったの」
「助けてママ、助けてさっちゃん!」
その時、夢愛の影がぼこりと波打ち、夢愛は横っ飛びで壁際に飛びつくと、頭を壁にゴンゴンと打ち付けはじめた。
「キャアアアア、夢愛ちゃん!」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」
泣きながら壁に頭突きする夢愛に、室内はもうパニックである。
影に向かって浄化の力を放つと、すぐに気配は消え失せた。
「怜、さっちゃんだよねえ。大丈夫なのかねえ」
「軽く追い払う程度にしたから大丈夫だ」
親子共々、泣いたり腰を抜かしたりしているが、いじめの事実は、親も認識したらしい。
「やっぱり説得しないとだめよね。何度もやってるとまずいんでしょ」
エリカが言う。
やれやれ。
「おい、お前ら。反省してるか」
美羽、亜里砂、夢愛はコクコクと頷く。
「謝って仲直りしたいか」
「したい」
「私も」
「する」
「こんな事されたんだぞ。怖くないのか」
「おんなじだもん」
「因果応報って言うのよね」
「平気」
「わかった。
おい、ユキ。頼みがある」
僕はある事を頼んで、幸子のマンションに向かった。
だるまさんがころんだ。
靴隠し。
かげふみ。
鬼ごっこ。そうだ、かげふみ鬼。
鬼は影の中しか行けなくて、タッチしたら鬼が交代。
やろう、やろう。じゃあ鬼はまずさっちゃんからね。用意、どん。
さっちゃん、影しか踏んじゃだめだからね。鬼は影の中だからね。
真昼のグラウンドの真ん中には、どこにも影なんてない。亜里沙ちゃんたちは離れていて、届かない。
ねえ、ジュース飲もう。あ、さっちゃんは動けないよ、影しか。
鬼は影の中だもんねえ。
カップはジノリで、お茶菓子のミルフィーユは、雑誌やテレビで特集が組まれるような高級な店のものだ。そうなると、カップの中の紅茶も、きっと高いものに違いない。
飲んでみたが、よくわからないな。うちはコーヒー派だからな。
さりげなく見た部屋の内装も、テーブルセット、飾り棚やそこに飾られた時計、置物、幸せそうな家族写真を収めた写真立て、壁に掛けられたリトグラフ。どれも、高価そうだ。
ここは、応接間というより自慢間だな。
小東美羽の自宅に、亜里沙母子、夢愛母子、僕、直、エリカ、ユキが呼ばれ、集まっていた。
母親たちは一様に不機嫌で、子供達は不安そうにそんな母親の顔色を窺い、それでも、ケーキを食べる時だけは頬をゆるめていた。
崩れて食べ難いミルフィーユは、一層ずつ食べると食べやすいぞ、エリカよ。
「その島野さんが、うちの亜里沙や美羽ちゃんに、そんな酷い事をしたと言うのね」
「あまりにも信じがたい話だけれど、信じるほかはなさそうですわ、田川さん」
「そうですわね。訴えられるのかしら、その島野さんを」
僕らが呼ばれたのは、二つの出来事にほぼ居合わせた大きい人、という事で、子供達が呼ぶようにと頼んだらしい。そこで、間違いなく意思に反して、目を瞑ったまま歩いたり人を突き落としたりしたようだと、証言を求められたのだ。
確かに、そう言っていたし、嘘をついているようにも見えなかったと言えば、今度は、なぜ、となる。
そこで迷いはしたが、いじめにあっていた幸子が、と話したのである。
「その酷い事ってのは、もともと彼女達がした事ですよ」
イラッとしたのでそう言ったら、母親達は眦をキッと吊り上げた。
「何ですって」
「目を瞑ったまま家まで帰らないと、掃除当番を代わる。これは亜里沙ちゃんがさっちゃんに言った事だよねえ。
嫌いな先生を階段で押せ。これは美羽ちゃんがやらせたんだよねえ」
二人は俯いて、チラッと母親の顔色を窺う。
「同じことを、返しているんですよ。これが酷いというなら、島野さんにしたのも、酷いという事ですね」
二人の母親は黙り、次いで、オホホと笑う。
「うちの子がそんな事をするわけないわ。そうよね、亜里沙ちゃん」
「美羽だってそうよね。優しいいい子だものね」
子供達は黙り込んで、目を合わさないようにしていた。
「だったら心配ないですかね。ほかには、壁に頭をぶつけて反省と呼んでたり、トラックの下に入らせて足を骨折したりしたようですけど」
すましてそう言い、カップを手に取る。直はばくばくとケーキを食べていた。
母親達は慌てふためいて、
「どうすればいいの。警察?」
「だめよ、そんな事をすれば」
「あ、この子達のしたことも――」
と騒ぎ立て、子供達はとうとう泣き出した。
「やったの、全部亜里沙たちでやったの!」
「お揃いの浴衣とか買わなくてノリが悪いから」
「グラウンドに暑い中立たせて動くの禁止って言ったり。鬼だから影しか踏んだらだめって意地悪したの」
「どうしよう、ママ」
「こんなになるなんて思わなかったの」
「助けてママ、助けてさっちゃん!」
その時、夢愛の影がぼこりと波打ち、夢愛は横っ飛びで壁際に飛びつくと、頭を壁にゴンゴンと打ち付けはじめた。
「キャアアアア、夢愛ちゃん!」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」
泣きながら壁に頭突きする夢愛に、室内はもうパニックである。
影に向かって浄化の力を放つと、すぐに気配は消え失せた。
「怜、さっちゃんだよねえ。大丈夫なのかねえ」
「軽く追い払う程度にしたから大丈夫だ」
親子共々、泣いたり腰を抜かしたりしているが、いじめの事実は、親も認識したらしい。
「やっぱり説得しないとだめよね。何度もやってるとまずいんでしょ」
エリカが言う。
やれやれ。
「おい、お前ら。反省してるか」
美羽、亜里砂、夢愛はコクコクと頷く。
「謝って仲直りしたいか」
「したい」
「私も」
「する」
「こんな事されたんだぞ。怖くないのか」
「おんなじだもん」
「因果応報って言うのよね」
「平気」
「わかった。
おい、ユキ。頼みがある」
僕はある事を頼んで、幸子のマンションに向かった。
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