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継嗣決定(2)問い合わせ
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昌平坂学問所を出て、慶仁は急ぎ足で家へ帰った。どうにも気になる事があるのだ。
「ムササビ型で飛ぶなら、下から風が吹いていなくては無理そうだ。でも、鳥みたいに羽ばたいたら飛べるのではないだろうか。
あれ?じゃあ、何でにわとりは飛べないのかな?」
それで、にわとりとすずめを比べようと思い立ったのだ。
「ただいま帰りましたぁ!」
言うや、縁側に荷物を置き、にわとりを求めて踵を返す。
その背中に、佐倉の声がかかった。
「ああ、慶仁様。お帰りなさいませ」
「あ、じい。ただいま」
「またなにかをなさるおつもりですか?」
「にわとりとすずめの違いは何かなあと思って」
「ふむ。大きさですかな」
「大きいから重くて飛べないのかな。でも、鷲や鷹も大きいけどな。
あ、体の重さと羽の大きさとの釣り合いか?だとしたら、人間だと──」
「人間!?まさか!なりませんよ!?」
「しまった」
「慶仁様。さあ、お上がりください。さあ」
「……はい」
観察と実験はまた今度だ。慶仁は、大人しく家へ上がった。
「今日はおかしなことはありませんでしたか」
「ん?別になかったよ」
「実は、問い合わせがございまして。早紀様とおっしゃる方を知らないか、と」
佐倉はそう言って、慶仁の顔を見た。
「さき様。ああ、茜屋の主人は咲さんだよ」
「……そうでございましたな。はは。
ああ、お茶でもお持ちしましょうか。ささ」
「ありがとう、じい」
何か変な感じはしたが、学問所の事などを訊かれて答えているうちに、違和感は薄れてしまった。
祐磨は帰って来ると、佐倉から、早紀についての問い合わせがあった事を聞かされた。
「それで、『当家の早苗様がまだいらっしゃった頃に、何度かいらした方がもしや』とうろ覚えの振りをしておきました」
「そうか。それで問い合わせて来たのは誰だ?」
「岩代の岡村様とおっしゃる方で、同郷の方に頼まれて探していると」
「ふん。そいつも後南朝派だろうな」
「恐らくは」
「幕府も、一橋派と南紀派とで、きな臭い。この上後南朝まで暗躍するとなると、敵わんな。
慶仁にはしばらく、外出の時は青山を付けよう。そうでないなら、外出禁止だ」
「ははっ」
「慶仁は、早紀殿の事は全くまだ知らないようだな」
「どうしたもんでしょうなあ。いっそこのまま、知らさなくともよろしいのでは」
「そうだなあ。よく考えてみよう」
祐磨は、お目付け役が貼り付いてはやんちゃができなくなると言い出す慶仁を想像して、さてどう言いくるめようかと考えたのだった。
「ムササビ型で飛ぶなら、下から風が吹いていなくては無理そうだ。でも、鳥みたいに羽ばたいたら飛べるのではないだろうか。
あれ?じゃあ、何でにわとりは飛べないのかな?」
それで、にわとりとすずめを比べようと思い立ったのだ。
「ただいま帰りましたぁ!」
言うや、縁側に荷物を置き、にわとりを求めて踵を返す。
その背中に、佐倉の声がかかった。
「ああ、慶仁様。お帰りなさいませ」
「あ、じい。ただいま」
「またなにかをなさるおつもりですか?」
「にわとりとすずめの違いは何かなあと思って」
「ふむ。大きさですかな」
「大きいから重くて飛べないのかな。でも、鷲や鷹も大きいけどな。
あ、体の重さと羽の大きさとの釣り合いか?だとしたら、人間だと──」
「人間!?まさか!なりませんよ!?」
「しまった」
「慶仁様。さあ、お上がりください。さあ」
「……はい」
観察と実験はまた今度だ。慶仁は、大人しく家へ上がった。
「今日はおかしなことはありませんでしたか」
「ん?別になかったよ」
「実は、問い合わせがございまして。早紀様とおっしゃる方を知らないか、と」
佐倉はそう言って、慶仁の顔を見た。
「さき様。ああ、茜屋の主人は咲さんだよ」
「……そうでございましたな。はは。
ああ、お茶でもお持ちしましょうか。ささ」
「ありがとう、じい」
何か変な感じはしたが、学問所の事などを訊かれて答えているうちに、違和感は薄れてしまった。
祐磨は帰って来ると、佐倉から、早紀についての問い合わせがあった事を聞かされた。
「それで、『当家の早苗様がまだいらっしゃった頃に、何度かいらした方がもしや』とうろ覚えの振りをしておきました」
「そうか。それで問い合わせて来たのは誰だ?」
「岩代の岡村様とおっしゃる方で、同郷の方に頼まれて探していると」
「ふん。そいつも後南朝派だろうな」
「恐らくは」
「幕府も、一橋派と南紀派とで、きな臭い。この上後南朝まで暗躍するとなると、敵わんな。
慶仁にはしばらく、外出の時は青山を付けよう。そうでないなら、外出禁止だ」
「ははっ」
「慶仁は、早紀殿の事は全くまだ知らないようだな」
「どうしたもんでしょうなあ。いっそこのまま、知らさなくともよろしいのでは」
「そうだなあ。よく考えてみよう」
祐磨は、お目付け役が貼り付いてはやんちゃができなくなると言い出す慶仁を想像して、さてどう言いくるめようかと考えたのだった。
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