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廃業
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廃業と自由の話を、ユーリはすぐにキリー、カイ、ジンに話した。
しかし、遊妓にはなかなか話せない。特に、セレムの子であるジルラとフルイエには言えなかった。この2人はほかの遊妓と違い、一生何かしらの仕事をここでして、セレムから出る事は無い。
そんなジルラとフルイエに、言うのが怖かったのだ。
が、悩むユーリにジルラとフルイエは飛びついて来た。
「聞いたぞ、おい!」
「驚いたわ!まあ、あんたに関しては驚いてばっかりだけど」
箸を持ったまま困った顔をするユーリの肩を叩いてジルラが
「違いないな!こんな遊妓、後にも先にもユーリしかいねえって」
と笑い、フルイエは、
「ゴロゴロ出ても困るわ」
と言って笑った。
「で、どうするんだ?探索者?魔術団?」
「魔道具開発者ってのも捨てがたいわよ」
2人は自分の事のようにウキウキとし、ユーリの答えを待っていた。
「いや、その、困ってて……」
ユーリはひたすら困惑していた。
「魔物は美味いだろ」
「あら。魔道具でウハウハじゃない」
カイ、ジン、キリーも、同じテーブルでユーリの答えを待っている。ユーリの希望によって、銀月も考えなくてはならない。
ジルラは気付いたように一瞬真顔になった。
「ユーリ。これまで何人も、ここに来て、ここから出て行っただろ?同じだ。後の事を気にするな」
「そうよ。
まあ、たまには美味しいものとか送って来てくれたら嬉しいけど」
「自由を、無駄にするんじゃねえぞ。
それと、俺達を憐れむな」
ユーリはハッとした。
(そうか。ジルラやフルイエに悪いって思うのは、そういう事か)
そして、肩を竦める。
「ジルラとフルイエは、引退したらどうするんだ?」
「俺は遊妓を引退したら、武具職人になりたいんだ。壊れない丈夫な武具を作って、探索者が死なないようにしたいんだよな」
(探索者が死んで、子供が残されないように)
「私は、美味しいご飯の宿屋!」
(温かい家と美味しいご飯があれば、大丈夫だから)
「ユーリは?」
「俺は――」
ユーリは笑った。
そして、ユーリの廃業のニュースはすぐに知らされ、その前にと予約が殺到した。
が、相変わらず銀月は、日中は迷宮に行き、魔物を狩る。そしてユーリは見世に出た後、魔道具の開発にいそしむ。
そうして最後の客が帰った翌日、ユーリ、キリーと、カイ、ジンで、皇都へ行った。年に一度、全てのトゥヤルザの貴族が集められるのだが、それに出席しろと言われているのだ。
重大な報告や訴え、皇帝からの重大な通達などがこの時になされるのだが、今年に関しては、皆が思っていた。間違いなく、皇太子に関しての事である、と。
ユーリに皇室と同じ姓、固有の印が与えられた事、そしてこの日に合わせてユーリを遊妓から引退させた事。それらの意味を、皆は色々と考え、囁き合っていた。
大広間は人であふれ返っている。そして、挨拶したり派閥で集まったりしているが、ユーリ達に挨拶以上の事を言って来る者はいない。
なのに、全ての人の注意が、ユーリ達に向いている。
「ドキドキするねえ」
ジンが緊張した顔付きで言う。
「ああ。ドラゴンの時以上のプレッシャーだぜ」
カイは礼装の首周りをわずかに緩めて言うと、
「ちゃんと着てろ」
とキリーがそれを直す。
「ユーリは平気そうだな」
「まあ、銀花楼で見た顔もいるしな」
ユーリがそう言うと、キリー、カイ、ジンは貴族達を眺め、言った。
「そう言えば、そうだね」
「ああ。それによく考えれば、別に弾劾されるわけでもないしな」
「だからって急にくつろぐな!シャキッとしてろ!」
キリーが、急に緊張感を失ったカイとジンに小言を言った。
と、扉の方で動きがあった。
「お、始まるぞ」
ユーリが「授業が始まる」みたいな口調で言い、近衛が声を張り上げた。
「陛下が御入室されます!」
これまでにない緊張感が部屋中に満ち、貴族達は直立不動で待つ。
大きな扉が開き、皇帝、宰相、皇妃、リアンが入って来ると、一斉に頭を下げ、皇帝が
「頭を上げよ。これより、大集会を行う」
と言ってから、ゆっくりと上体を戻した。
顔を上げたユーリは、皇帝と目が合った気がした。
しかし、遊妓にはなかなか話せない。特に、セレムの子であるジルラとフルイエには言えなかった。この2人はほかの遊妓と違い、一生何かしらの仕事をここでして、セレムから出る事は無い。
そんなジルラとフルイエに、言うのが怖かったのだ。
が、悩むユーリにジルラとフルイエは飛びついて来た。
「聞いたぞ、おい!」
「驚いたわ!まあ、あんたに関しては驚いてばっかりだけど」
箸を持ったまま困った顔をするユーリの肩を叩いてジルラが
「違いないな!こんな遊妓、後にも先にもユーリしかいねえって」
と笑い、フルイエは、
「ゴロゴロ出ても困るわ」
と言って笑った。
「で、どうするんだ?探索者?魔術団?」
「魔道具開発者ってのも捨てがたいわよ」
2人は自分の事のようにウキウキとし、ユーリの答えを待っていた。
「いや、その、困ってて……」
ユーリはひたすら困惑していた。
「魔物は美味いだろ」
「あら。魔道具でウハウハじゃない」
カイ、ジン、キリーも、同じテーブルでユーリの答えを待っている。ユーリの希望によって、銀月も考えなくてはならない。
ジルラは気付いたように一瞬真顔になった。
「ユーリ。これまで何人も、ここに来て、ここから出て行っただろ?同じだ。後の事を気にするな」
「そうよ。
まあ、たまには美味しいものとか送って来てくれたら嬉しいけど」
「自由を、無駄にするんじゃねえぞ。
それと、俺達を憐れむな」
ユーリはハッとした。
(そうか。ジルラやフルイエに悪いって思うのは、そういう事か)
そして、肩を竦める。
「ジルラとフルイエは、引退したらどうするんだ?」
「俺は遊妓を引退したら、武具職人になりたいんだ。壊れない丈夫な武具を作って、探索者が死なないようにしたいんだよな」
(探索者が死んで、子供が残されないように)
「私は、美味しいご飯の宿屋!」
(温かい家と美味しいご飯があれば、大丈夫だから)
「ユーリは?」
「俺は――」
ユーリは笑った。
そして、ユーリの廃業のニュースはすぐに知らされ、その前にと予約が殺到した。
が、相変わらず銀月は、日中は迷宮に行き、魔物を狩る。そしてユーリは見世に出た後、魔道具の開発にいそしむ。
そうして最後の客が帰った翌日、ユーリ、キリーと、カイ、ジンで、皇都へ行った。年に一度、全てのトゥヤルザの貴族が集められるのだが、それに出席しろと言われているのだ。
重大な報告や訴え、皇帝からの重大な通達などがこの時になされるのだが、今年に関しては、皆が思っていた。間違いなく、皇太子に関しての事である、と。
ユーリに皇室と同じ姓、固有の印が与えられた事、そしてこの日に合わせてユーリを遊妓から引退させた事。それらの意味を、皆は色々と考え、囁き合っていた。
大広間は人であふれ返っている。そして、挨拶したり派閥で集まったりしているが、ユーリ達に挨拶以上の事を言って来る者はいない。
なのに、全ての人の注意が、ユーリ達に向いている。
「ドキドキするねえ」
ジンが緊張した顔付きで言う。
「ああ。ドラゴンの時以上のプレッシャーだぜ」
カイは礼装の首周りをわずかに緩めて言うと、
「ちゃんと着てろ」
とキリーがそれを直す。
「ユーリは平気そうだな」
「まあ、銀花楼で見た顔もいるしな」
ユーリがそう言うと、キリー、カイ、ジンは貴族達を眺め、言った。
「そう言えば、そうだね」
「ああ。それによく考えれば、別に弾劾されるわけでもないしな」
「だからって急にくつろぐな!シャキッとしてろ!」
キリーが、急に緊張感を失ったカイとジンに小言を言った。
と、扉の方で動きがあった。
「お、始まるぞ」
ユーリが「授業が始まる」みたいな口調で言い、近衛が声を張り上げた。
「陛下が御入室されます!」
これまでにない緊張感が部屋中に満ち、貴族達は直立不動で待つ。
大きな扉が開き、皇帝、宰相、皇妃、リアンが入って来ると、一斉に頭を下げ、皇帝が
「頭を上げよ。これより、大集会を行う」
と言ってから、ゆっくりと上体を戻した。
顔を上げたユーリは、皇帝と目が合った気がした。
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