銀の花と銀の月

JUN

文字の大きさ
上 下
87 / 90

廃業

しおりを挟む
 廃業と自由の話を、ユーリはすぐにキリー、カイ、ジンに話した。
 しかし、遊妓にはなかなか話せない。特に、セレムの子であるジルラとフルイエには言えなかった。この2人はほかの遊妓と違い、一生何かしらの仕事をここでして、セレムから出る事は無い。
 そんなジルラとフルイエに、言うのが怖かったのだ。
 が、悩むユーリにジルラとフルイエは飛びついて来た。
「聞いたぞ、おい!」
「驚いたわ!まあ、あんたに関しては驚いてばっかりだけど」
 箸を持ったまま困った顔をするユーリの肩を叩いてジルラが
「違いないな!こんな遊妓、後にも先にもユーリしかいねえって」
と笑い、フルイエは、
「ゴロゴロ出ても困るわ」
と言って笑った。
「で、どうするんだ?探索者?魔術団?」
「魔道具開発者ってのも捨てがたいわよ」
 2人は自分の事のようにウキウキとし、ユーリの答えを待っていた。
「いや、その、困ってて……」
 ユーリはひたすら困惑していた。
「魔物は美味いだろ」
「あら。魔道具でウハウハじゃない」
 カイ、ジン、キリーも、同じテーブルでユーリの答えを待っている。ユーリの希望によって、銀月も考えなくてはならない。
 ジルラは気付いたように一瞬真顔になった。
「ユーリ。これまで何人も、ここに来て、ここから出て行っただろ?同じだ。後の事を気にするな」
「そうよ。
 まあ、たまには美味しいものとか送って来てくれたら嬉しいけど」
「自由を、無駄にするんじゃねえぞ。
 それと、俺達を憐れむな」
 ユーリはハッとした。
(そうか。ジルラやフルイエに悪いって思うのは、そういう事か)
 そして、肩を竦める。
「ジルラとフルイエは、引退したらどうするんだ?」
「俺は遊妓を引退したら、武具職人になりたいんだ。壊れない丈夫な武具を作って、探索者が死なないようにしたいんだよな」
(探索者が死んで、子供が残されないように)
「私は、美味しいご飯の宿屋!」
(温かい家と美味しいご飯があれば、大丈夫だから)
「ユーリは?」
「俺は――」
 ユーリは笑った。

 そして、ユーリの廃業のニュースはすぐに知らされ、その前にと予約が殺到した。
 が、相変わらず銀月は、日中は迷宮に行き、魔物を狩る。そしてユーリは見世に出た後、魔道具の開発にいそしむ。
 そうして最後の客が帰った翌日、ユーリ、キリーと、カイ、ジンで、皇都へ行った。年に一度、全てのトゥヤルザの貴族が集められるのだが、それに出席しろと言われているのだ。
 重大な報告や訴え、皇帝からの重大な通達などがこの時になされるのだが、今年に関しては、皆が思っていた。間違いなく、皇太子に関しての事である、と。
 ユーリに皇室と同じ姓、固有の印が与えられた事、そしてこの日に合わせてユーリを遊妓から引退させた事。それらの意味を、皆は色々と考え、囁き合っていた。
 大広間は人であふれ返っている。そして、挨拶したり派閥で集まったりしているが、ユーリ達に挨拶以上の事を言って来る者はいない。
 なのに、全ての人の注意が、ユーリ達に向いている。
「ドキドキするねえ」
 ジンが緊張した顔付きで言う。
「ああ。ドラゴンの時以上のプレッシャーだぜ」
 カイは礼装の首周りをわずかに緩めて言うと、
「ちゃんと着てろ」
とキリーがそれを直す。
「ユーリは平気そうだな」
「まあ、銀花楼で見た顔もいるしな」
 ユーリがそう言うと、キリー、カイ、ジンは貴族達を眺め、言った。
「そう言えば、そうだね」
「ああ。それによく考えれば、別に弾劾されるわけでもないしな」
「だからって急にくつろぐな!シャキッとしてろ!」
キリーが、急に緊張感を失ったカイとジンに小言を言った。
 と、扉の方で動きがあった。
「お、始まるぞ」
 ユーリが「授業が始まる」みたいな口調で言い、近衛が声を張り上げた。
「陛下が御入室されます!」
 これまでにない緊張感が部屋中に満ち、貴族達は直立不動で待つ。
 大きな扉が開き、皇帝、宰相、皇妃、リアンが入って来ると、一斉に頭を下げ、皇帝が
「頭を上げよ。これより、大集会を行う」
と言ってから、ゆっくりと上体を戻した。
 顔を上げたユーリは、皇帝と目が合った気がした。





しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 0

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

姫騎士様と二人旅、何も起きないはずもなく……

踊りまんぼう
ファンタジー
主人公であるセイは異世界転生者であるが、地味な生活を送っていた。 そんな中、昔パーティを組んだことのある仲間に誘われてとある依頼に参加したのだが……。 *表題の二人旅は第09話からです (カクヨム、小説家になろうでも公開中です)

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

処理中です...