71 / 72
再来の熱砂(6)朝焼けの死
しおりを挟む
風の音がする。
「今日も暑くなりそうだ」
そう、場違いな事をシェンは言った。
「なあ、湊。お前は興味深いやつだな。オシリスが面白がるのがわかるぜ」
それに湊は、肩を竦めた。
「俺にはわからんな」
「お前は、今に満足してるのか」
「啓蒙活動か?セミナーに参加する気はない」
「俺はシェン。当然、これは後から俺が付けた名前だ」
「だと思ってた。あんまり子供に『神』なんて名前は付けないもんな」
「俺の親父は飲んだくれ、お袋は年中ガミガミ怒鳴ってばかりの、貧乏な家だった。そんな家、珍しくもねえ。そんなチャイナタウンで、俺はあいつらとつるむようになって、辛気臭い家を出た。
適当に上手くやってたさ。
でも、もっと力のある連中が、俺達の縄張りを荒らしやがった。結局力がないと、どうにもできない。
それで俺達は、麻薬の密売ルートを作って稼いで、大きくなって、強くなった。そうしたら、あれほど敵わないと思ってたやつらが、土下座して傘下に入りたいって言いやがったんだぞ。笑うよな。
それくらいからだ。俺がシェンを名乗り出したのは。
でも、分かったんだよな。力があれば、好きにできる。楽しめる。この世界は、金と力のあるやつの遊び場なんだよな。
いつの間にかここまで大きく強くなって、警察もおいそれと手出しできねえ。まあ、オシリスはなかなか手強いけどよ。いつかは俺達が勝つ。お前が手を貸してくれりゃ、間違いなく。
でも、変なんだぜ。あいつら最初は仲のいいダチだったんだぜ。なのに、いつの間にか、何でも俺にお伺いを立てて、俺の命令通りでよ。目の前の小金で十分、今の生活が満ち足りてるって顔、してやがるんだ。おかしいと思うだろ、湊。
なあ、俺と行こうぜ。世界を楽しむ側に立とうぜ」
シェンは笑っている。
それが湊には、泣いているようにも見えた。
オシリスと赤龍は、やはり違う。している事そのものは同じような事でも、イデオロギーが全く違う。オシリスは一応、富を先進国の一部で取り込むな、不公平な分配をするな、という事を唱えている。
赤龍は、面白半分、興味本位だ。自分達の命ですら賭けの対象にしている。だから、警察も行動が読めず、手を焼いているのだ。
(子供の癇癪に似ているな)
湊はそう思った。
「シェン。世界中がひれ伏したら、次はどうする?」
シェンはキョトンとしてから、破顔した。
「さあな。その時考える」
「俺は、付き合えないな。これでも、仕事のあるサラリーマンなんでね」
「そうか。残念だな。お前もあの世界で、退屈してると思ったのに」
「退屈も悪くない」
「そうか。俺にはわからねえな。
じゃあな」
「ああ」
シェンの引き金にかかる指に、力が入った。
パアン
銃声は軽く、乾いた音がした。
シェンは微笑むような泣き出す前のような顔をして、ゆっくりと目を閉じた。
「今日も暑くなりそうだ」
そう、場違いな事をシェンは言った。
「なあ、湊。お前は興味深いやつだな。オシリスが面白がるのがわかるぜ」
それに湊は、肩を竦めた。
「俺にはわからんな」
「お前は、今に満足してるのか」
「啓蒙活動か?セミナーに参加する気はない」
「俺はシェン。当然、これは後から俺が付けた名前だ」
「だと思ってた。あんまり子供に『神』なんて名前は付けないもんな」
「俺の親父は飲んだくれ、お袋は年中ガミガミ怒鳴ってばかりの、貧乏な家だった。そんな家、珍しくもねえ。そんなチャイナタウンで、俺はあいつらとつるむようになって、辛気臭い家を出た。
適当に上手くやってたさ。
でも、もっと力のある連中が、俺達の縄張りを荒らしやがった。結局力がないと、どうにもできない。
それで俺達は、麻薬の密売ルートを作って稼いで、大きくなって、強くなった。そうしたら、あれほど敵わないと思ってたやつらが、土下座して傘下に入りたいって言いやがったんだぞ。笑うよな。
それくらいからだ。俺がシェンを名乗り出したのは。
でも、分かったんだよな。力があれば、好きにできる。楽しめる。この世界は、金と力のあるやつの遊び場なんだよな。
いつの間にかここまで大きく強くなって、警察もおいそれと手出しできねえ。まあ、オシリスはなかなか手強いけどよ。いつかは俺達が勝つ。お前が手を貸してくれりゃ、間違いなく。
でも、変なんだぜ。あいつら最初は仲のいいダチだったんだぜ。なのに、いつの間にか、何でも俺にお伺いを立てて、俺の命令通りでよ。目の前の小金で十分、今の生活が満ち足りてるって顔、してやがるんだ。おかしいと思うだろ、湊。
なあ、俺と行こうぜ。世界を楽しむ側に立とうぜ」
シェンは笑っている。
それが湊には、泣いているようにも見えた。
オシリスと赤龍は、やはり違う。している事そのものは同じような事でも、イデオロギーが全く違う。オシリスは一応、富を先進国の一部で取り込むな、不公平な分配をするな、という事を唱えている。
赤龍は、面白半分、興味本位だ。自分達の命ですら賭けの対象にしている。だから、警察も行動が読めず、手を焼いているのだ。
(子供の癇癪に似ているな)
湊はそう思った。
「シェン。世界中がひれ伏したら、次はどうする?」
シェンはキョトンとしてから、破顔した。
「さあな。その時考える」
「俺は、付き合えないな。これでも、仕事のあるサラリーマンなんでね」
「そうか。残念だな。お前もあの世界で、退屈してると思ったのに」
「退屈も悪くない」
「そうか。俺にはわからねえな。
じゃあな」
「ああ」
シェンの引き金にかかる指に、力が入った。
パアン
銃声は軽く、乾いた音がした。
シェンは微笑むような泣き出す前のような顔をして、ゆっくりと目を閉じた。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
サバゲーマーズ!
青空鰹
キャラ文芸
何処にでもいる社会人。伊上 翔也 (いがみ しょうや)は、20歳の記念に友人の鈴木 勝平(すずき かっぺい)と共に居酒屋に行き、楽しく飲んでいた。
他の店に行こうとした際に気になるお店に目が止まり、そこへ入ることになった。
そのお店からサバイバルゲームと言う新たな趣味が始まる物語である!
このたび、小さな龍神様のお世話係になりました
一花みえる
キャラ文芸
旧題:泣き虫龍神様
片田舎の古本屋、室生書房には一人の青年と、不思議な尻尾の生えた少年がいる。店主である室生涼太と、好奇心旺盛だが泣き虫な「おみ」の平和でちょっと変わった日常のお話。
☆
泣き虫で食いしん坊な「おみ」は、千年生きる龍神様。だけどまだまだ子供だから、びっくりするとすぐに泣いちゃうのです。
みぇみぇ泣いていると、空には雲が広がって、涙のように雨が降ってきます。
でも大丈夫、すぐにりょーたが来てくれますよ。
大好きなりょーたに抱っこされたら、あっという間に泣き止んで、空も綺麗に晴れていきました!
真っ白龍のぬいぐるみ「しらたき」や、たまに遊びに来る地域猫の「ちびすけ」、近所のおじさん「さかぐち」や、仕立て屋のお姉さん(?)「おださん」など、不思議で優しい人達と楽しい日々を過ごしています。
そんなのんびりほのぼのな日々を、あなたも覗いてみませんか?
☆
本作品はエブリスタにも公開しております。
☆第6回 キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました! 本当にありがとうございます!
あやかし蔵の管理人
朝比奈 和
キャラ文芸
主人公、小日向 蒼真(こひなた そうま)は高校1年生になったばかり。
親が突然海外に転勤になった関係で、祖母の知り合いの家に居候することになった。
居候相手は有名な小説家で、土地持ちの結月 清人(ゆづき きよと)さん。
人見知りな俺が、普通に会話できるほど優しそうな人だ。
ただ、この居候先の結月邸には、あやかしの世界とつながっている蔵があって―――。
蔵の扉から出入りするあやかしたちとの、ほのぼのしつつちょっと変わった日常のお話。
2018年 8月。あやかし蔵の管理人 書籍発売しました!
※登場妖怪は伝承にアレンジを加えてありますので、ご了承ください。
マサキは魔法使いになる
いちどめし
キャラ文芸
「おれ、松尾雅樹は、将来魔法使いになれるのだそうだ」
普通の高校生であるはずのマサキは、ある日酔っ払った父親に魔法使いになることを勧められる。半ば馬鹿にしていたマサキだったが、そんな彼の前に魔女のような服装の少女が現れて……
✳︎✳︎✳︎
「たこ焼きじゃなくてお好み焼きにする話」のマサキと同一人物の話ですが、全くの別ジャンルですし、話の内容に特に繋がりはありません。
軽めの文体となります。
速達配達人 ポストアタッカー 4 サバイバルファミリー 〜サトミ、除隊失敗する〜
LLX
キャラ文芸
バトルアクション。
ポストアタッカーのサトミ・ブラッドリー15才は、メレテ共和国の殲滅部隊タナトスの元隊長。
現在はロンド郵便局の速達業務を行うポストエクスプレスのポストアタッカー。
ある日、彼は夢で行方知れずだった妹と、ようやく再会する。
やっと家族と再会出来るかと思ったが、しかしなかなか家族は家に帰ってこない。
なぜだ?!それはお母ちゃんがダメダメだから。
つか、『サトミちゃんなら大丈夫!』超超放任主義の親であった。
一方その頃、隣国アルケーに潜伏していたメレテ情報部員エアーは、ある情報を掴んだ時に潜伏先に踏み込まれ、その後追っ手に逮捕されてしまう。
命ギリギリのラインで彼がもたらした情報、それは核輸送の情報だった。
軍上層部はエアーを救うため、戦時中捕虜にしていたアルケーの国防大臣の息子ガレットと交換にエアーを救おうと画策する。
しかしガレットは交換場所に向かう途中、かつての部下たちに救われ、脱走してしまう。
しかし彼はアルケーに帰らず、メレテ国内に潜伏し、復讐のためにある人物を探し始めた。
それは、自分を捕らえた上に部隊を殲滅寸前まで追い込んだ、背中に棒を背負った少年兵、サトミのことだった。
そんな事などつゆ知らず、サトミは通常業務。
しかし配達中に出会ったギルティが、彼に重大な秘密を暴露する。
果たして彼は愛する家族や可愛い妹に会えるのか?
殺し屋集団タナトスに出された命令、『生け捕り』は果たして成功するのか?
息を呑むような呑まないような、タナトスに「殺すな」の命令。
戸惑う彼らを、久しぶりにまとめ上げる事になってしまったサトミ。
ちょっと長めの今回ですが、出来れば最後までお楽しんで頂けたら小躍りします。
それではお楽しみ下さいませ。
**各話あとがきは、近況ボードをお読み下さい。
表紙絵、ご @go_e_0000 様
こちら、あやかし移住就職サービスです。ー福岡天神四〇〇年・お狐社長と私の恋ー
まえばる蒔乃
キャラ文芸
転職活動中のOL菊井楓は、何かと浮きやすい自分がコンプレックス。
いつも『普通』になりたいと願い続けていた。ある日、もふもふの耳と尻尾が映えたどう見ても『普通』じゃない美形お狐様社長・篠崎に声をかけられる。
「だだもれ霊力で無防備でいったい何者だ、あんた。露出狂か?」
「露出狂って!? わ、私は『普通』の転職希望のOLです!」
「転職中なら俺のところに来い。だだもれ霊力も『処置』してやるし、仕事もやるから。ほら」
「うっ、私には勿体無いほどの好条件…ッ」
霊力『処置』とは、キスで霊力を吸い上げる関係を結ぶこと。
ファーストキスも知らない楓は篠崎との契約関係に翻弄されながら、『あやかし移住転職サービス』ーー人の世で働きたい、居場所が欲しい『あやかし』に居場所を与える会社での業務に奔走していく。
さまざまなあやかしの生き方と触れ、自分なりの『普通』を見つけていく楓。
そして篠崎との『キス』の契約関係も、少しずつ互いに変化が……
※ 土地勘や歴史知識ゼロでも大丈夫です。 ※ この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません
愛して、私の生き人形(マイドール)
せんのあすむ
キャラ文芸
ただただ真面目に働き平凡な毎日を送り、老後の計画もばっちりだけど決して華やかとは言い難い冴えないOLの冴島麗亜(さえじまれいあ)はある時、知人から押し付けられるようにして一体の人形を譲り受けた。
それは三分の一ほどの大きさで、十代前半くらいの少女の姿を模した球体間接人形だった。
それ自体は決して珍しいものではなかったけれど、その人形は彼女が知るどんな人形とも決定的に違っている部分があった。それは、なんと生きている人形だったのだ。
まるで人間の子供のようにワガママで寂しがり屋のその人形、璃音(りおん)との奇妙な同居生活により、麗亜は自分が生まれてきた意味を改めて考えるようになるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる