柳内警備保障秘書課別室

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再来の熱砂(6)朝焼けの死

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 風の音がする。
「今日も暑くなりそうだ」
 そう、場違いな事をシェンは言った。
「なあ、湊。お前は興味深いやつだな。オシリスが面白がるのがわかるぜ」
 それに湊は、肩を竦めた。
「俺にはわからんな」
「お前は、今に満足してるのか」
「啓蒙活動か?セミナーに参加する気はない」
「俺はシェン。当然、これは後から俺が付けた名前だ」
「だと思ってた。あんまり子供に『神』なんて名前は付けないもんな」
「俺の親父は飲んだくれ、お袋は年中ガミガミ怒鳴ってばかりの、貧乏な家だった。そんな家、珍しくもねえ。そんなチャイナタウンで、俺はあいつらとつるむようになって、辛気臭い家を出た。
 適当に上手くやってたさ。
 でも、もっと力のある連中が、俺達の縄張りを荒らしやがった。結局力がないと、どうにもできない。
 それで俺達は、麻薬の密売ルートを作って稼いで、大きくなって、強くなった。そうしたら、あれほど敵わないと思ってたやつらが、土下座して傘下に入りたいって言いやがったんだぞ。笑うよな。
 それくらいからだ。俺がシェンを名乗り出したのは。
 でも、分かったんだよな。力があれば、好きにできる。楽しめる。この世界は、金と力のあるやつの遊び場なんだよな。
 いつの間にかここまで大きく強くなって、警察もおいそれと手出しできねえ。まあ、オシリスはなかなか手強いけどよ。いつかは俺達が勝つ。お前が手を貸してくれりゃ、間違いなく。
 でも、変なんだぜ。あいつら最初は仲のいいダチだったんだぜ。なのに、いつの間にか、何でも俺にお伺いを立てて、俺の命令通りでよ。目の前の小金で十分、今の生活が満ち足りてるって顔、してやがるんだ。おかしいと思うだろ、湊。
 なあ、俺と行こうぜ。世界を楽しむ側に立とうぜ」
 シェンは笑っている。
 それが湊には、泣いているようにも見えた。
 オシリスと赤龍は、やはり違う。している事そのものは同じような事でも、イデオロギーが全く違う。オシリスは一応、富を先進国の一部で取り込むな、不公平な分配をするな、という事を唱えている。
 赤龍は、面白半分、興味本位だ。自分達の命ですら賭けの対象にしている。だから、警察も行動が読めず、手を焼いているのだ。
(子供の癇癪に似ているな)
 湊はそう思った。
「シェン。世界中がひれ伏したら、次はどうする?」
 シェンはキョトンとしてから、破顔した。
「さあな。その時考える」
「俺は、付き合えないな。これでも、仕事のあるサラリーマンなんでね」
「そうか。残念だな。お前もあの世界で、退屈してると思ったのに」
「退屈も悪くない」
「そうか。俺にはわからねえな。
 じゃあな」
「ああ」
 シェンの引き金にかかる指に、力が入った。

 パアン

 銃声は軽く、乾いた音がした。
 シェンは微笑むような泣き出す前のような顔をして、ゆっくりと目を閉じた。





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