柳内警備保障秘書課別室

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再来の熱砂(5)岩山

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 星を見てのナビを信じて、とにかく離れようとジープを走らせる。
「うわっ!凄い!」
 背後を見ていた子供達は、遠くの方に、火柱が上がるのを見て目を丸くした。
「これで大丈夫だよね」
 期待をこめて子供が訊くが、湊の表情は晴れない。
「いや、そろそろ襲撃をでっち上げた事もバレてるだろうしな。車にGPSでも付いていれば、間違いなく追って来てるだろうな」
 子供達の顔が絶望に変わる。
 湊は、村に向かうのではなく、一番近い街に向かっていた。そこに行けば、軍なり警察なりがいるだろうし、電話もできる。
 遠くの方に、ポツンと明かりが見えた。ヘッドライトだ。
「来たな。もうすぐゴールだったってのに。全員、体を縮めてろ」
 湊は車を、岩山へ向けた。

 GPSの反応を辿って、シェン達幹部は岩山へ来た。
「あそこ」
 ジープが2台停まっている。
 誰も残っていない事を確認して、彼らは素早く岩山を探し始めた。

 湊は息を殺して、それが近付くのを待った。
 スーツの上下が紺で、この暗闇の中では保護色として機能している。
「丸わかりだぜぇ」
 幹部の1人は、暗視ゴーグルを付けて、迷いなく歩いて近付いて行く。
「手を挙げて出て来な」
 その声に、湊は手を挙げて岩陰から出た。
 そして、懐中電灯を向けて点灯する。
「ぐわっ!?」
 慌ててカゴーグルを放り出し、目を押さえるが、もう遅い。視界は完全にアウトになっている。
 湊は素早く接近し、そいつの意識を刈り取った。
「ゴーグルを外せ!」
 光に気付いた誰かが叫ぶ。
 湊はそれを聞きながら、闇の中に身を潜めた。

 警戒した歩き方で、幹部の1人がライフルを周囲に向けながら進む。
 湊はそれに襲い掛かろうとして、その気配に動きを止めた。
 すると2秒ほどして、彼は
「うわあ!サソリが!」
と喚いて、尻もちをつくようにして倒れた。サソリは夜に動き回るが、それに気付かずに接近し、刺されたのだ。
 湊は無造作に近付くとライフルの銃尻で男を殴って失神させ、サソリを遠くに弾き飛ばした。

 部下の悲鳴が続き、シェンは舌打ちを堪えた。
(情けねえ)
 しかし、湊の反撃が予想以上である事は事実だ。
 また、短いうめき声がして、
(気に入らねえ)
と、シェンはニヤリと顔を歪めた。

 不意打ち、格闘の末にシェンの部下を次々と失神させた湊は、彼らの乗って来たジープに近付いて行っていた。
 ここまで乗って来た2台のジープの鍵は抜いてある。シェン達が乗って来たジープを奪って逃げれば、逃げ切れるだろう。
 子供達は徒歩で街へ向かわせているが、そう遠くない内に着くはずだ。
(その前に、夜が明けるな)
 闇の色が、薄くなり始めた。
 岩肌の向こうへ行こうとして、湊は身を引いた。
 その足元に小さい土煙が上がり、パンという軽い音が響く。
「ここまでにしようぜ」
 シェンの声がする。
「怒らないから、出て来なよ」
「絶対嘘だろ」
 言って、弾をそちら側に適当にばらまきながら向かい側の岩陰に走り込む。
 一般人が戦闘行動をとるのは国際法でどうたらこうたらというのは、命がかかっている時には無効だ。これは、自衛行動だ。
 岩を回って広場に出ると、同じタイミングでシェンも出て来た。
 ライフルの銃口を上げて湊へ向ける寸前、湊はライフルを槍投げのように投げつけて飛びかかった。
「え」
 シェンは一瞬動きが遅れ、湊がシェンのライフルを蹴り飛ばす事に成功する。
 が、シェンは素早く拳を握り込んで殴りかかって来た。それをブロックし、肘を打ち込む。シェンは一歩引きながらも、すぐに蹴り上げて来たのでそれをブロックし、膝を叩き込もうとしたらブロックされる。
 そうやって高速でお互いの隙を窺って攻撃していると、いつの間にか辺りはすっかり明るくなっていた。
 伸びていた部下達も、とうに気が付いているが、結束バンドで立ち上がる事もできない。
 まあ、毒蛇にでも襲われていなければの話だが。
 お互いの蹴りが交差して不発に終わり合った時、シェンは腰の後ろから拳銃を引き抜いた。そして、引き金を引く。
 すぐそばにいた毒蛇が、頭を爆ぜさせて絶命した。
 そしてシェンは、その銃口を湊へ向けた。
「おもしれえな。お前はやっぱりおもしれえ」
 湊はシェンから2メートルほど離れた位置で、シェンと向かい合っていた。
「そりゃどうも」
 シェンは、血の混じった唾をペッと吐いた。



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