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リトル・レディ(3)散歩
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順子とチビの散歩に、湊と涼真も付き合う。その間、北浜は家で夕食の準備で、雅美と悠花は北浜の警護だ。
チビは嬉しそうに歩き、時々順子を見上げる。順子はハミングしながら、軽い足取りで歩く。
その散歩コースの中には河原が入っていた。草が生えているが、材木やブロックやドラム缶に囲まれるようにして何もない空き地のような所ができている。
「はい、チビ」
順子はそこで、チビのリードを外した。
「ドッグランか、ここ」
狭いながらも、犬を放してもいい場所となっているらしく、そう書かれた看板が立っていた。
チビは勢いよく走ったり、その辺にある物のにおいをかいだり、ゴムボールで遊んだりしている。その間、順子は草むらの中を探して、きれいな形や色をしたタイルを探していた。
「ん?湊。ここって、女性が撲殺されてたのが見つかった場所じゃないか」
涼真が辺りを見回しながら言った。
「そうか?」
「たぶん。ニュースで映った時、あの落書きとこのドッグランの看板と、向こう側のラーメン屋の看板が見えたんだけど、そっくりだったぞ」
涼真が言い、湊と顔を見合わせた。
「……その事件はいつだ?」
「月曜だったな」
「おかしな人影が現れだしたのは、火曜日だそうだぞ」
「……」
「そういう事か?」
こそこそと話している間に、チビは存分にボールで遊び、順子もタイルを拾ったらしい。
「さあ、帰りましょう」
「わん!」
順子とチビにピッタリとついて、湊と涼真は周囲を警戒しながら家へ帰った。
帰ったところで、順子に訊く。
「さっきのドッグランで、変わったものを拾いませんでしたか。月曜日か火曜日あたりに」
順子は怪訝な顔付きで湊を見上げ、ああ、と思い出した。
「リップスティックみたいなものを拾ったわ」
「それか」
涼真が意気込む。
「それは今、どこに?」
皆が何事かと集まって来たので、先程気付いた可能性について話す。
「順子、持って来なさい」
血相を変えて北浜が言うので、順子も大変なものを拾ったのではないかと思ったらしい。すぐに自室からそれを取って来た。
リップスティックの形をしたメモリースティックだった。
「これを、ドッグランで拾ったんだね?」
順子はこっくりと頷いた。
「朝行ったら、草の中に落ちてたの。ママが持ってたみたいなのによく似てて、いいなって思って」
「いつかはっきりわかる?」
「パトカーがいっぱい来る前よ。これを拾って立ち上がったら、ジョギングしてた人が悲鳴をあげて、それで、『君はこっちに来たらダメだ』って。それでそっちを通らないで帰ったんだけど、その後、パトカーが来てたみたい」
大人は全員、それを見た。
「多分それ、被害者か加害者のものですよね」
悠花が言う。
「それで、加害者がそれを探してるんじゃないかな」
涼真が言うのに、雅美が頷く。
「たぶん、怪しい人っていうのは、加害者よね」
「警察に連絡しましょう」
北浜が、爆弾を持っているかのような手つきでそれを指でつまみながらそう言った。
と、湊が反応した。
「来たか」
「え?」
北浜はキョトンとしているが、涼真、雅美、悠花は表情が引き締まる。
「どうして今なんだ?」
「まさか」
辺りを調べて回り、ソケットに差し込んであったキャラクターつきの小さなランプを抜く。
「これは?」
「水曜日に来たアンケートのお兄さんにもらったの。かわいいでしょ」
順子はにこにこしているが、湊は十徳ナイフでソケット部分を開けた。
「盗聴器だ」
北浜の表情も変わった。
チビは嬉しそうに歩き、時々順子を見上げる。順子はハミングしながら、軽い足取りで歩く。
その散歩コースの中には河原が入っていた。草が生えているが、材木やブロックやドラム缶に囲まれるようにして何もない空き地のような所ができている。
「はい、チビ」
順子はそこで、チビのリードを外した。
「ドッグランか、ここ」
狭いながらも、犬を放してもいい場所となっているらしく、そう書かれた看板が立っていた。
チビは勢いよく走ったり、その辺にある物のにおいをかいだり、ゴムボールで遊んだりしている。その間、順子は草むらの中を探して、きれいな形や色をしたタイルを探していた。
「ん?湊。ここって、女性が撲殺されてたのが見つかった場所じゃないか」
涼真が辺りを見回しながら言った。
「そうか?」
「たぶん。ニュースで映った時、あの落書きとこのドッグランの看板と、向こう側のラーメン屋の看板が見えたんだけど、そっくりだったぞ」
涼真が言い、湊と顔を見合わせた。
「……その事件はいつだ?」
「月曜だったな」
「おかしな人影が現れだしたのは、火曜日だそうだぞ」
「……」
「そういう事か?」
こそこそと話している間に、チビは存分にボールで遊び、順子もタイルを拾ったらしい。
「さあ、帰りましょう」
「わん!」
順子とチビにピッタリとついて、湊と涼真は周囲を警戒しながら家へ帰った。
帰ったところで、順子に訊く。
「さっきのドッグランで、変わったものを拾いませんでしたか。月曜日か火曜日あたりに」
順子は怪訝な顔付きで湊を見上げ、ああ、と思い出した。
「リップスティックみたいなものを拾ったわ」
「それか」
涼真が意気込む。
「それは今、どこに?」
皆が何事かと集まって来たので、先程気付いた可能性について話す。
「順子、持って来なさい」
血相を変えて北浜が言うので、順子も大変なものを拾ったのではないかと思ったらしい。すぐに自室からそれを取って来た。
リップスティックの形をしたメモリースティックだった。
「これを、ドッグランで拾ったんだね?」
順子はこっくりと頷いた。
「朝行ったら、草の中に落ちてたの。ママが持ってたみたいなのによく似てて、いいなって思って」
「いつかはっきりわかる?」
「パトカーがいっぱい来る前よ。これを拾って立ち上がったら、ジョギングしてた人が悲鳴をあげて、それで、『君はこっちに来たらダメだ』って。それでそっちを通らないで帰ったんだけど、その後、パトカーが来てたみたい」
大人は全員、それを見た。
「多分それ、被害者か加害者のものですよね」
悠花が言う。
「それで、加害者がそれを探してるんじゃないかな」
涼真が言うのに、雅美が頷く。
「たぶん、怪しい人っていうのは、加害者よね」
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と、湊が反応した。
「来たか」
「え?」
北浜はキョトンとしているが、涼真、雅美、悠花は表情が引き締まる。
「どうして今なんだ?」
「まさか」
辺りを調べて回り、ソケットに差し込んであったキャラクターつきの小さなランプを抜く。
「これは?」
「水曜日に来たアンケートのお兄さんにもらったの。かわいいでしょ」
順子はにこにこしているが、湊は十徳ナイフでソケット部分を開けた。
「盗聴器だ」
北浜の表情も変わった。
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