柳内警備保障秘書課別室

JUN

文字の大きさ
上 下
46 / 72

欲しい物(1)ハンターがいっぱい

しおりを挟む
「どちらにお勤め」
「年収は」
「ご兄弟は」
 出席者達はにこやかに会話をかわしながら、しっかりとリサーチをしている。
「大したもんだな」
 感心したように、それらを眺めながら湊は言った。
 篠杜 湊。柳内警備保障秘書課別室のメンバーだ。子供の頃にテログループに人質として連れ去られ、以後、行動を共にしてテロリスト達に育てられた経歴を持つ。
 そのせいで、何か国語もの言語を苦労なく使えたり、爆薬物や武器の扱い、体術、救急措置などを教え込まれているほか、人の悪意を感じ取れてしまうという特殊な能力まで身についた。
「何か、女性の方が、やる気をみなぎらせてないか?」
 やや及び腰で涼真が言った。
 保脇涼真。湊と同期入社で、同じく別室メンバーだ。童顔で、カジュアルな格好をしていると学生にしか見えないし、高校の制服を着ても、違和感が全く無いどころか、中学生に間違われた事まである。素直で裏表のない性格をしており、人のガードを外してしまう。
「肉食女子ですね」
 2人の会話に、悠花が言う。
 寺内悠花。同じく別室メンバーだ。元は経理担当だったのだが、異動して来たため、経理関係に強い。ややおっちょこちょいな所があるが、人をよく観察し、寄り添う事ができる。
「お相手探しって、そうそう上手く行くものかしら」
 雅美が首を捻った。
 木賊雅美。同じく別室メンバーだ。誰が見ても上品で優しい完璧な美女にしか見えないが、戸籍上は男である。格闘技のエキスパートでもあり、この見かけにはそぐわない一撃を繰り出す。
 今回別室に来た仕事は、このお見合いパーティー会場の警備だ。
 結婚相手を探す独身男女が会員登録をし、こういうパーティー形式のお見合いで相手を探すというものだ。運営会社は結婚式場と葬儀場を全国にたくさん持つ会社で、会員は最低の18歳から、上は70過ぎのシニアまでと幅広い。
 その会社に
「詐欺みたいな女をサクラに雇ってるのか」
「お前らもグルなんだな。絶対に許さない」
「次のパーティーにもあの女が来るんだろうな」
という電話が入ったのは、1週間ほど前らしい。
 電話を受けた社員も、報告されたほかの社員も首を傾げたが、まあ、マッチングが上手く行かなかった男性会員の八つ当たりだろうという話にはなり、何かするつもりかどうかまではわからないが、警察にまで言わなくても、という事で、柳内警備保障に話が来たらしい。
 会場で、目立たずに警備して欲しいという事だったので、湊達は社員のような顔で、会場の警備に当たっていた。
 結婚したい人ばかりが集まった会場だ。当然、かなり真剣に色んな異性と会話する人、話の合う人と話し込むペアはそこかしこに見られる。その他にも、男女混合のグループで固まっている人達や、お見合いそっちのけなのか「今日は好みのタイプがいない」と割り切ったのか、食事に専念している人もいる。
 そういう人達を眺めながら、おかしな人がいないかを見て歩く。
 と、湊が悪意を感じ取った。
「嫌な感じがする。赤の3番のテーブルの周囲に、2人かな」
 湊がそう言ったのはインカムから皆に伝わり、さり気なく、しかし足早に、そこを目指した。
 赤の3番テーブルには、いかにもかわいい感じの若い女と、彼女に熱心に話しかける男がいた。
「まあ、有名な会社にお勤めなんですね」
「ええ、まあ。趣味はヨットで――」
 男の方はアピールに忙しい。
 と、近くで談笑する人達の間から、この雰囲気にはそぐわない、硬い表情をした男がふらりと現れた。そしてその女の背後に近付いて来ると、何かを握りしめた手を、大きく振りあげた。
 湊はその男から目を外し、背後に目をやった。そちらからも男が近付いて来ているが、こちらは小瓶を持っている。
 背後の悲鳴を聞きながら、湊は小瓶を持つ男に近寄り、手首を掴んで捩じった。それで男は小瓶をポトリと取り落とした。恐らく劇薬だろう。
 そこに小走りで駆けつけて来た涼真にその男を預け、背後の男を振り返る。
 雅美が腕を捩じり上げて男を拘束し、悠花がナイフをさっと拾ってハンカチで包んで隠した。
 襲われた女は、青い顔をしながらも、助かった事に安堵しているようだ。
「この女は!」
「あちらでお伺いしますよ」
 女を睨みつける2人の男を拘束しながら有無を言わせずに連れ出し、本当の社員が女にも、来てくれと言う。
 女は不満そうだったが、ヨットの自慢をしていた男がさりげなく逃げ出しているのに気付くと、渋々ついて来た。
 別室で話を聞くと、襲撃した男2人も、ここの会員らしい。どちらもこの女とお見合いパーティーで知り合い、交際をスタートさせたが、色んなものをさんざん貢がされて、結婚について具体的に話を進めようとしたら、別れを切り出されたという。
 それで頭に来て調べると、程度の差はあれど、女は何人もとそういう事を繰り返しているらしく、ここの会社が彼女を退会させないのは彼女とグルなのかと勘繰ったりもしたという。
 この2人は中でも被害額が大きく、精神的にも参り、襲撃に及んだという事だ。
「私、結婚するなんて、最初から一言も言ってません。なのにひどい。怖かったわ」
 女は涙を浮かべて涼真をうるうるとした目で見上げながら縋り付いたが、ドギマギしているらしい涼真を湊はフンと鼻で笑い、悠花は溜め息を付き、雅美はにっこりと笑いながら言った。
「それは刑事さんにお話しください」
 女はそれで急に大きな溜め息をついてふてぶてしい態度で椅子の背にもたれ、足を組むと、
「はあ。さっきの人、お金持ってそうだったのに。あーあ」
と言った。
 それでまた男2人は怒りの形相を浮かべたが、呼ばれて来た刑事に3人共パトカーに押し込まれて行った。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ショタパパ ミハエルくん

京衛武百十
キャラ文芸
蒼井ミハエルは、外見は十一歳くらいの人間にも見えるものの、その正体は、<吸血鬼>である。人間の<ラノベ作家>である蒼井霧雨(あおいきりさめ)との間に子供を成し、幸せな家庭生活を送っていた。 なお、長男と長女はミハエルの形質を受け継いで<ダンピール>として生まれ、次女は蒼井霧雨の形質を受け継いで普通の人間として生まれた。 これは、そういう特殊な家族構成でありつつ、人間と折り合いながら穏当に生きている家族の物語である。     筆者より  ショタパパ ミハエルくん(マイルドバージョン)として連載していたこちらを本編とし、タイトルも変更しました。

学園戦記三国志~リュービ、二人の美少女と義兄妹の契りを結び、学園において英雄にならんとす 正史風味~

トベ・イツキ
キャラ文芸
 三国志×学園群像劇!  平凡な少年・リュービは高校に入学する。  彼が入学したのは、一万人もの生徒が通うマンモス校・後漢学園。そして、その生徒会長は絶大な権力を持つという。  しかし、平凡な高校生・リュービには生徒会なんて無縁な話。そう思っていたはずが、ひょんなことから黒髪ロングの清楚系な美女とお団子ヘアーのお転婆な美少女の二人に助けられ、さらには二人が自分の妹になったことから運命は大きく動き出す。  妹になった二人の美少女の後押しを受け、リュービは謀略渦巻く生徒会の選挙戦に巻き込まれていくのであった。  学園を舞台に繰り広げられる新三国志物語ここに開幕!  このお話は、三国志を知らない人も楽しめる。三国志を知ってる人はより楽しめる。そんな作品を目指して書いてます。 今後の予定 第一章 黄巾の乱編 第二章 反トータク連合編 第三章 群雄割拠編 第四章 カント決戦編 第五章 赤壁大戦編 第六章 西校舎攻略編←今ココ 第七章 リュービ会長編 第八章 最終章 作者のtwitterアカウント↓ https://twitter.com/tobeitsuki?t=CzwbDeLBG4X83qNO3Zbijg&s=09 ※このお話は2019年7月8日にサービスを終了したラノゲツクールに同タイトルで掲載していたものを小説版に書き直したものです。 ※この作品は小説家になろう・カクヨムにも公開しています。

フォギーシティ

淺木 朝咲
キャラ文芸
どの地図にも載らず、常に霧に覆われた街、通称フォギーシティは世界中のどの街よりも変わっていた。人間と"明らかにそうでないもの"──すなわち怪物がひとつの街で生活していたのだから。 毎週土曜日13:30に更新してます

女装と復讐は街の華

木乃伊(元 ISAM-t)
キャラ文芸
・ただ今《女装と復讐は街の華》の続編作品《G.F. -ゴールドフィッシュ-》を執筆中です。 - 作者:木乃伊 - この作品は、2011年11月から2013年2月まで執筆し、とある別の執筆サイトにて公開&完結していた《女装と復讐》の令和版リメイク作品《女装と復讐は街の華》です。 - あらすじ - お洒落な女の子たちに笑われ、馬鹿にされる以外は普通の男子大学生だった《岩塚信吾》。 そして彼が出会った《篠崎杏菜》や《岡本詩織》や他の仲間とともに自身を笑った女の子たちに、 その抜群な女装ルックスを武器に復讐を誓い、心身ともに成長を遂げていくストーリー。 ※本作品中に誤字脱字などありましたら、作者(木乃伊)にそっと教えて頂けると、作者が心から救われ喜びます。 ストーリーは始まりから完結まで、ほぼ前作の筋書きをそのまま再現していますが、今作中では一部、出来事の語りを詳細化し書き加えたり、見直し修正や推敲したり、現代の発展技術に沿った場面再構成などを加えたりしています。 ※※近年(現実)の日本や世界の経済状況や流行病、自然災害、事件事故などについては、ストーリーとの関連性を絶って表現を省いています。 舞台 (美波県)藤浦市新井区早瀬ヶ池=通称瀬ヶ池。高層ビルが乱立する巨大繁華街で、ファッションや流行の発信地と言われている街。お洒落で可愛い女の子たちが集まることで有名(その中でも女の子たちに人気なのは"ハイカラ通り") 。 ※藤浦市は関東圏周辺またはその付近にある(?)48番目の、現実には存在しない空想上の県(美波県)のなかの大都市。

六月の読切(よみきり)

転生新語
キャラ文芸
「女性キャラの足って、重要だと思うの」。私たちはマンガ家二人組で、そして私のパートナーが、そんなことを言い出した。  読切(よみきり)マンガのネーム、つまりマンガの下書きの提出期限は今日で、ストーリーもキャラクターも決まっていない。パートナーは会話を求めてくるし、これでネームは完成するのだろうか?  カクヨム、小説家になろうに投稿しています。  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16818093080133489828  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5231jf/

午後の紅茶にくちづけを

TomonorI
キャラ文芸
"…こんな気持ち、間違ってるって分かってる…。…それでもね、私…あなたの事が好きみたい" 政界の重鎮や大御所芸能人、世界をまたにかける大手企業など各界トップクラスの娘が通う超お嬢様学校──聖白百合女学院。 そこには選ばれた生徒しか入部すら認められない秘密の部活が存在する。 昼休みや放課後、お気に入りの紅茶とお菓子を持ち寄り選ばれし7人の少女がガールズトークに花を咲かせることを目的とする──午後の紅茶部。 いつも通りガールズトークの前に紅茶とお菓子の用意をしている時、一人の少女が突然あるゲームを持ちかける。 『今年中に、自分の好きな人に想いを伝えて結ばれること』 恋愛の"れ"の字も知らない花も恥じらう少女達は遊び半分でのっかるも、徐々に真剣に本気の恋愛に取り組んでいく。 女子高生7人(+男子7人)による百合小説、になる予定。 極力全年齢対象を目標に頑張っていきたいけど、もしかしたら…もしかしたら…。 紅茶も恋愛もストレートでなくても美味しいものよ。

天道商店街の端にありますー再生屋ー

光城 朱純
キャラ文芸
 天道商店街にある再生屋。  看板も出ていない。ぱっと見はただの一軒家。この建物が店だなんて、一体誰が知っているだろうか。  その名の通り、どんなものでも再生させてくれるらしい。  まるで都市伝説の様なその店の噂は、どこからともなく広まって、いつしかその店を必要としてる者の耳に届く。  本当にどんなものでも直してくれるのか?お代はどれだけかかるのか?  謎に包まれたままのその店に、今日も客が訪れる。  再生屋は、それが必要な人の目にしかその店構えを見せることはない。  その姿を見ることができるのは、幸せなのか。果たして不幸なのか。

お犬様のお世話係りになったはずなんだけど………

ブラックベリィ
キャラ文芸
俺、神咲 和輝(かんざき かずき)は不幸のどん底に突き落とされました。 父親を失い、バイトもクビになって、早晩双子の妹、真奈と優奈を抱えてあわや路頭に………。そんな暗い未来陥る寸前に出会った少女の名は桜………。 そして、俺の新しいバイト先は決まったんだが………。

処理中です...