柳内警備保障秘書課別室

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オシリスの呼び声(5)虜囚の終わり

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 オシリスは頭を振って、悲しそうな顔をした。
「ああ、カナリア。籠から一時でも放したのが間違いだったなあ」
「帰る。
 色々教わった事は、ありがたかったよ。じゃあ」
「待ぁて、待て待て待て。帰らせると思うのか?ああん?」
 それに答えず、落ち着いた足取りで部屋を出る。
 そして、一気にダッシュでそこを離れる。
 少しして、背後から銃弾が飛んで来た。ストライクがオシリスの命令で、追って来たのだ。
 わかっていたので、曲がりくねった通路を進み、射線がなかなか確保できないように走っている。
 そうしていると、甲板に出た。
「はい、先回り」
 チェンが待ち構えていた。向かう方向は船内カメラでわかるし、こちらはストライクをかわすために遠回りをしているのだ。
「まあ、そうなるよな」
 苦笑を浮かべ、お互い同時に踏み込む。
 相手の先を読み、そのまた先を予測する。攻撃を封じ、かわし、流す。それはもう、反射のようなものだ。考えて動く時間はない。
 あまりにも目まぐるしく動いて、追い付いたストライクも、湊を撃つのを諦めた。
 お互いを知り尽くした師弟による演舞のような動きで、少しずつ位置を変え、お互いの手を封じ続けて行く。
 そのうち、2人は右舷デッキに回り込む形になり、ストライクの目から隠れた。
「はあ」
 ストライクは溜め息をついて、そちらに回った。
「え?」
 デッキの上で、チェンが伸びていた。それに目を奪われた一瞬で、腕をねじり上げられて拳銃を奪われ、「ヤバイ」「そんなバカな」と思った時には、ストライクは首に回された腕で絞め落とされていた。
 湊は深く息をついて立ち上がった。
 遠くから聞こえていた音の方を見ると、ヘリが接近していた。柳内警備保障の社章が付いている。
 すぐにロケットランチャーを担いだプリーチャーとドク、それにラストが現れるが、拳銃でプリーチャーとドクの肩を撃つと、ランチャーを取り落とし、それは海に落ちて行った。
「ラスト、頼んだ」
 言って、後部デッキへ走る。
 ヘリはそれを見て、後部デッキへ下りようとしている。ドアが開き、身を乗り出すようにして、涼真が腕を伸ばしていた。
 そこに走り寄り、高度を落としたヘリに乗ろうとした湊は、ザワリとしたものを感じ、横へ飛ぶ。
 銃を構えるオシリスがいた。
 ヘリは一旦上空へ退避する。
「カナリア。怒らないから、こっちにおいで」
 抗いがたい魔力を有し、脳髄を鷲掴みにする声だ。オシリスの目を正面から受けるのがやっとという感じが湊にはした。
「あ……行かない」
 言った途端、何かが変わった。湊自身にも、それが何かわからないし、説明もできないだろう。
 だが、無理矢理言うとすれば、洗脳が解けた、という事だろう。
 オシリスは表情を失くした。そして、だらんと下げていた腕を上げ、ピタリと湊に向けて止める。
「さよならだ、カナリア。ああ。なんて辛いんだろう」
 ザラザラと背中を逆撫でするような不快感に、皮膚が泡立つ。
「オシリス。来るぞ」
 ピクリと、オシリスの腕が動く。
「何?」
「遠いところだ。物凄い悪意が近付いている。デッキの皆を中に入れるか、退避した方がいい。これが最後のアドバイスだ」
 オシリスは考えたが、イヤホンをはめた耳元を押さえ、言った。
「流石。商売敵の船がいる。魚雷かも知れん。
 全員退避だ!急いで船底に行け!」
 そして、ニヤリと笑って、湊に片手を上げた。
「またな、カナリア!」
 サッと姿を消すオシリスを見送ったかどうかという時にヘリが高度を下げ、湊はそれに飛び乗った。
 それを確認し、ヘリはすぐに高度を上げた。
 下を見ていると、遠くの沖の方から、何かが波を蹴立てて真っすぐに船に突っ込んで行くのが見えた。
「あれは?」
 訊く涼真に、
「うん。魚雷」
と湊が答えた次に瞬間、船は水柱を上げ、傾いた。



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