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強盗強要(2)手違い
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犯人は落ち着かない様子で、車を走らせながら、
「困ったなあ。こんなはずじゃなかったのに。どうしよう」
と呟いていた。
「あの。何で強盗なんてしたんですか」
悠花は訊いた。
犯人はチラッと悠花を見、ミラー越しに涼真を見、口を開きかけたところで、電話が鳴る。犯人は車を道端に停めて、急いで電話に出た。
「はい!」
悠花と涼真は、視線を合わせた。
何かおかしい、というのが、お互いの表情に現れている。
「今、ちゃんと強盗して来たよ!茜は!?」
ますます、悠花と涼真は眉を寄せた。
「あ、人質だ。その、逃走のための」
悠花は、自分を指で指した。
「え?それは、心配だったんだろ?大丈夫、ちゃんと、その、黙っててもらうから!」
今度は涼真が、自分を指さした。
「殺せ!?そんな――おい!おい!
クソッ」
電話は切れたらしい。
「あの、もしかして、強盗しろって強要されてます?茜って人を人質にして」
涼真が聞こえた単語から推測して訊くと、彼はハンドルに突っ伏すようにして、大きな溜め息をついた。
「お手伝い、しましょうか?」
悠花が言うと、彼は顔を上げ、迷うように視線をさ迷わせた。
「ボクは、保脇涼真と言います」
「私は、竹内悠花です」
それに釣られたのかどうかはわからないが、彼は口を開いた。
「三津屋健人です。ええ。異母弟に、妹を人質に取られて、さっきの人から鞄を取れって言われました」
「異母弟が?」
「さっきの人、弁護士なんです。うちの。父の遺言状を持ってる筈で、それを奪えって」
涼真と悠花は考え込んだ。
「遺言状の中身が不利なのかしら、その異母弟さんに」
「か、なあ。
警察に言った方がいいんじゃないですか?」
「だめだ。言えば何をするか。そういうやつなんだよ、あいつは」
諦めきった顔付きの三津屋に、涼真と悠花は困ったように顔を見合わせた。
「でも、ボク達の事、知ってましたね。見てるのかな」
涼真が辺りを窺い見る。
「多分。
それで、あなた達を、始末しろって」
「え……」
「始末してから、1人で別荘に来いって。
すみません」
涼真と悠花はギョッとした。
「殴るから、死んだふりしてください」
真剣そのものの顔付きだ。
「ちょっと待って、三津屋さん。それじゃあ、解決にならないです!」
「いいんです。妹さえ無事なら」
「待って!お願い!」
涼真と悠花が座席の隅に追い込まれて行く。
その時、窓ガラスがコンコンと叩かれ、3人は揃って外を見た。
「あ」
殺人者と愛人かというような2人組が、そこにいた。
「あの――!」
悠花が言いかける途中で、男がドアを乱暴に開け、涼真を引きずり出す。
「さっき車こすっただろう。ああ?」
女が、悠花を引きずり出した。
「謝れないなんて、ゴミなの?」
「え、ちょっと」
「ゴミなら片付けないとな」
「そうね」
男と女は、涼真と悠花を関節をきめながら横道へと歩き出し、ふと三津屋を振り返った。
「お前もちょっと待っとけ。こいつらを片付けたら、次はお前だ」
男に簡単に言われ、呆然とそれを見ていた三津屋は、我に返った。
「逃げて!」
涼真が言い、言われるがまま、三津屋は車を出した。
しばらくそのままの姿勢でいると、数十メートル置いて、別の車が走って行った。
「あれが監視者だな」
男――湊が言って、皆で車に戻る。
「え、何で知ってるんですか?
あ!さっきの人!」
殴られていた人が後部座席に乗っていた。
涼真はポケットから電話を出した。
「湊にかけて、通話状態にしておいたんだ」
「早く追わなきゃ!」
「大丈夫だ。雅美さんのスマホを座席に残して来たから、GPSで追える」
車を出して、距離を置いて走り出す。
雅美は膝の上のノートパソコンを広げ、自分のスマホの位置をフォローしている。
「あの、けがは?」
涼真が言うのに、弁護士が答える。
「大丈夫です。謝りながら加減して殴られたんで、大して力は入ってなかったんですよ」
「一体何がどうなってるんです?」
皆は一様に首を捻ったが、湊が言う。
「このまま追って、異母弟とやらに訊けばいい」
車は、どんどん寂しい方へと進んで行った。
「困ったなあ。こんなはずじゃなかったのに。どうしよう」
と呟いていた。
「あの。何で強盗なんてしたんですか」
悠花は訊いた。
犯人はチラッと悠花を見、ミラー越しに涼真を見、口を開きかけたところで、電話が鳴る。犯人は車を道端に停めて、急いで電話に出た。
「はい!」
悠花と涼真は、視線を合わせた。
何かおかしい、というのが、お互いの表情に現れている。
「今、ちゃんと強盗して来たよ!茜は!?」
ますます、悠花と涼真は眉を寄せた。
「あ、人質だ。その、逃走のための」
悠花は、自分を指で指した。
「え?それは、心配だったんだろ?大丈夫、ちゃんと、その、黙っててもらうから!」
今度は涼真が、自分を指さした。
「殺せ!?そんな――おい!おい!
クソッ」
電話は切れたらしい。
「あの、もしかして、強盗しろって強要されてます?茜って人を人質にして」
涼真が聞こえた単語から推測して訊くと、彼はハンドルに突っ伏すようにして、大きな溜め息をついた。
「お手伝い、しましょうか?」
悠花が言うと、彼は顔を上げ、迷うように視線をさ迷わせた。
「ボクは、保脇涼真と言います」
「私は、竹内悠花です」
それに釣られたのかどうかはわからないが、彼は口を開いた。
「三津屋健人です。ええ。異母弟に、妹を人質に取られて、さっきの人から鞄を取れって言われました」
「異母弟が?」
「さっきの人、弁護士なんです。うちの。父の遺言状を持ってる筈で、それを奪えって」
涼真と悠花は考え込んだ。
「遺言状の中身が不利なのかしら、その異母弟さんに」
「か、なあ。
警察に言った方がいいんじゃないですか?」
「だめだ。言えば何をするか。そういうやつなんだよ、あいつは」
諦めきった顔付きの三津屋に、涼真と悠花は困ったように顔を見合わせた。
「でも、ボク達の事、知ってましたね。見てるのかな」
涼真が辺りを窺い見る。
「多分。
それで、あなた達を、始末しろって」
「え……」
「始末してから、1人で別荘に来いって。
すみません」
涼真と悠花はギョッとした。
「殴るから、死んだふりしてください」
真剣そのものの顔付きだ。
「ちょっと待って、三津屋さん。それじゃあ、解決にならないです!」
「いいんです。妹さえ無事なら」
「待って!お願い!」
涼真と悠花が座席の隅に追い込まれて行く。
その時、窓ガラスがコンコンと叩かれ、3人は揃って外を見た。
「あ」
殺人者と愛人かというような2人組が、そこにいた。
「あの――!」
悠花が言いかける途中で、男がドアを乱暴に開け、涼真を引きずり出す。
「さっき車こすっただろう。ああ?」
女が、悠花を引きずり出した。
「謝れないなんて、ゴミなの?」
「え、ちょっと」
「ゴミなら片付けないとな」
「そうね」
男と女は、涼真と悠花を関節をきめながら横道へと歩き出し、ふと三津屋を振り返った。
「お前もちょっと待っとけ。こいつらを片付けたら、次はお前だ」
男に簡単に言われ、呆然とそれを見ていた三津屋は、我に返った。
「逃げて!」
涼真が言い、言われるがまま、三津屋は車を出した。
しばらくそのままの姿勢でいると、数十メートル置いて、別の車が走って行った。
「あれが監視者だな」
男――湊が言って、皆で車に戻る。
「え、何で知ってるんですか?
あ!さっきの人!」
殴られていた人が後部座席に乗っていた。
涼真はポケットから電話を出した。
「湊にかけて、通話状態にしておいたんだ」
「早く追わなきゃ!」
「大丈夫だ。雅美さんのスマホを座席に残して来たから、GPSで追える」
車を出して、距離を置いて走り出す。
雅美は膝の上のノートパソコンを広げ、自分のスマホの位置をフォローしている。
「あの、けがは?」
涼真が言うのに、弁護士が答える。
「大丈夫です。謝りながら加減して殴られたんで、大して力は入ってなかったんですよ」
「一体何がどうなってるんです?」
皆は一様に首を捻ったが、湊が言う。
「このまま追って、異母弟とやらに訊けばいい」
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