柳内警備保障秘書課別室

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隠された罪(4)リコール

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 畠中はイライラとして、落ち着きがなかった。
「犯罪者の言う事なんぞ知るか! それどころじゃない!
 娘を犯人に拉致された事をうやむやにする気か?」
 それに、雅美がにこやかに答える。
「いいえ、そうじゃありません。犯人の言う罪というのがわかれば、犯人が誰かがわかりますし、そこから礼子さんの居所も掴めるかと」
 畠中は何か言いかけてそれをグッと堪えた。
「何の事か、わからんな。所詮、自分勝手にどこかの犯罪者が考えた根も葉もない事だ。私にわかるわけもない」
 そう言って、社長室へ足音も高く閉じこもる。
 雅美は肩を竦めた。
「まあ、否定するわよね」
 湊は興味も無さそうに、ソファに座った。
「現物は警察が持って行ったから確認できないけど、聞いた話では、ありふれたコピー用紙に印刷されたもので、直接家のポストに入れてあったらしいし。これで益々、内部犯行説が信ぴょう性を帯びて来たかな。だったら、松本さんの関与は否定されたと見ていいな」
「湊君、ちょっと不謹慎よ」
 雅美が、秘書を気にしながらこそっと言う。
「実際、どうなんですか? 罪っていうの、何だと思いますか」
 秘書は困ったように眉を寄せたが、クールに、平静を保った。
「まあ御存知かと思いますが、去年わが社では、残念ながら欠陥隠しが発覚しました。罪と言えばそれくらいかと」
 人身事故から自動ブレーキシステムに欠陥が見つかり、それがわかっていて故意に隠されていたとして、担当の部長が謝罪している。そしてそれと同時に、大掛かりなリコール騒ぎとなった。その後、業績も悪化し、工場がひとつ閉鎖に追い込まれるほどだった。
「確か、担当の部長が、自殺したんですよね」
 湊が訊くと、秘書はぎこちなく頷いた。
「はい。自宅にも電話や記者が殺到して、耐えきれなかったんだと思います。当時は操業していた工場ビルから飛び降りて」
「その時はもう、退職していましたよね。部外者なのに、よく入れましたね」
 僅かに、秘書の視線が揺れた。
「それは、その、よく知っている場所だったから、スルッと」
「ふうん。時刻は23時過ぎでしたよね。施錠されて、社員証とかが無いと入れない状態だったとか聞きましたが」
「ええっと、昼間にビル内に侵入していて、隠れていたんじゃ……」
「へえ。遺書もないし、事故か自殺か不明な状態で、追い詰められていたという畠中社長の証言で発作的な自殺に傾いたと聞きましたよ。何かおかしくないですか」
 秘書は急ぎの仕事を口実にどこかへ行き、クスリと雅美は笑った。
「いじめっ子ね、湊君」
「そうかな。涼真か悠花さんが、上手く訊き出して来てくれないかな」
 言っていると、涼真と悠花が小走りで来た。
「食堂でバイトさんから聞いて来ました!自動ブレーキシステムの不具合は、発売直前に指摘されていたそうですよ。それで死んだ部長は、むしろ発売を延期するように言ってたらしいです」
 涼真に続いて、悠花が言う。
「退職した部長、なぜか退職金が、満額だったそうですよ。おかしいですよね」
「責任を被る事をお金で言い含められたのかしら。でも、家族にも迷惑が掛かって、耐えきれなくなって自殺?」
 雅美が小首を傾げる。
「殺人とは言い切れないけど、遺族がそう考えても不思議はないな」
「え、じゃあ、湊。あの手紙の差出人は、その部長の遺族だと?」
 涼真がギョッとしたような顔をした。
「可能性だ」
「奥さんは、部長の忌明けの後で自殺したと美容院の週刊誌で見ました! あと、大学生の息子さんが1人いたはずです!」
 悠花が言う。
「そいつか」
 涼真がやり切れないという顔で言った。
 その時、社長室のドアが開いて、畠中が血相を変えて出て来た。
「電話で、閉鎖になった工場に礼子が!」
 それで皆は、その工場へと急いだ。

 門を閉ざされてはいるが、まだそれほど痛んだりはしていない。広い敷地には建物が2つ建っており、片方が工場、片方が事務棟らしい。
「いた!」
 秘書の説明に被せるように、畠中が事務棟の屋上を指さす。
 屋上の端に、女性が立っているのが見えた。
「ここ、部長の」
「はい。自殺現場です」
 秘書がボソリと言って車を止め、畠中が転がるように車を降りた。




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