柳内警備保障秘書課別室

JUN

文字の大きさ
上 下
21 / 72

隠された罪(2)聴き取り

しおりを挟む
 松本もその上司も、不機嫌そうにしていた。
「疑っているわけではないんですよ。調査のために、お聞きしておかないといけないので」
 涼真が引き攣った笑顔を浮かべて言う。
 その横で、湊がにこりともせずに2人を見ていた。
「別に、仕方ありませんしね。構いませんよ」
 松本が、大きく息を吐きながら言った。
「ええ。あの会社については、最低だと思っていますよ。社長の指示だったと、退社後に人事担当者が言ってましたし、社長にも、いい感情はありませんよ。
 でも、それで今更どうこうしようとは思いません。ましてや、娘をどうにかしようとかは筋違いですし、自分の仕事を利用してなんて、とんでもないです」
 涼真がうんうんと頷き、メモをとる。
 松本の上司は腕を組んで、威嚇するように涼真と湊を見た。
「こいつはバカが付く程真っ直ぐなやつだ。こんな風にキャリアに傷を付けられたくない」
 それに涼真が、慌てて言う。
「いや、それは全く関係ありませんよ。事件の調査に、無関係の部署が当たれというだけですから。な」
 湊は隣で、黙って座ったままだ。
 そして、立ち上がった。
「え!?ちょっと湊!?」
「時間の無駄だ。次行くぞ」
 松本と上司が眉をピクリとさせる。
「無駄?」
「わ!すすすみません!」
「この2人からは悪意の臭いがしない。無関係だ」
「へ?あ!
 ありがとうございました!」
 涼真は頭を下げて、慌てて湊の後を追った。
「もうちょっと言い方をだなあ、湊」
「向こうの態度もいい加減だったじゃないか。調査してるのに、最初からケンカ腰で、威圧して来て。こっちだけ丁寧に礼儀正しくしてやるの、嫌だね」
「……湊、子供じゃないんだから、我慢するところは我慢しようよ」
「ここがするところだとは思えない」
 涼真は密かに、
(意外と子供っぽいのかな)
と思って、クスリと笑みをこぼした。
「何だよ」
「別に?」
 涼真は澄まして、足を速めた。

 悠花と雅美は、現場に来ていた。つまり、畠中家だ。
 礼子の部屋は2階で、ドアも窓も1つずつだ。そのドアの前には松本が立っていたのだ。
 窓は裏庭に面していて、当日も今も、吹き付け工事のために足場が組まれている。礼子が消えた午後8時から10時には、工事は終了していたが、足場はこのまま残っていた。
「どうして別の場所に行かなかったのかしら」
 雅美は首を捻った。
「学校の準備とか色々、どうしてもここがいいと、お嬢様が」
 メイドがそう言う。
「庭の見回りは定期的にしていたそうですし、塀は高くて超えられないし、通用門は暗証番号を知らないと開かないそうですよ」
 悠花が言う。
 しかし、暗証番号が漏れれば、侵入できるという事だ。
 まあ、依頼主の希望で仕方がなかったのだろうと、雅美は思った。危険な時でも、「これは譲れない」と言う警護対象者はいるものだ。
「犯人は足場を使って窓から侵入し、礼子さんを拉致した、と」
 言って、雅美は軽く首を捻った。
(まあ、いいわ。それは後で)
 考え直し、続ける。
「そして窓からまた逃げて、裏門から出たのかしらね」
「門の外に行ってみますか、雅美さん」
 2人は庭を横切り、裏門へ近付いた。
 通用口にはテンキーが付いていて、メイドがそれに、6ケタの数字を打ち込んだ。すると、カチャッと音がして、門が小さく手前に開いた。
 それを通って、外に出る。
 閑静な住宅街、しかも近所はどこも広い敷地を持つ家ばかりだ。昼間でも静かなのに、夜ともなれば、本当に誰も通らないのだろう。
「こういう時ドラマなら、裏の家の防犯カメラがあったりするのに」
 悠花が恨めしそうに辺りを見回して言う。
「現実は厳しいわ」
 雅美は肩を竦めた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

フォギーシティ

淺木 朝咲
キャラ文芸
どの地図にも載らず、常に霧に覆われた街、通称フォギーシティは世界中のどの街よりも変わっていた。人間と"明らかにそうでないもの"──すなわち怪物がひとつの街で生活していたのだから。 毎週土曜日13:30に更新してます

学園戦記三国志~リュービ、二人の美少女と義兄妹の契りを結び、学園において英雄にならんとす 正史風味~

トベ・イツキ
キャラ文芸
 三国志×学園群像劇!  平凡な少年・リュービは高校に入学する。  彼が入学したのは、一万人もの生徒が通うマンモス校・後漢学園。そして、その生徒会長は絶大な権力を持つという。  しかし、平凡な高校生・リュービには生徒会なんて無縁な話。そう思っていたはずが、ひょんなことから黒髪ロングの清楚系な美女とお団子ヘアーのお転婆な美少女の二人に助けられ、さらには二人が自分の妹になったことから運命は大きく動き出す。  妹になった二人の美少女の後押しを受け、リュービは謀略渦巻く生徒会の選挙戦に巻き込まれていくのであった。  学園を舞台に繰り広げられる新三国志物語ここに開幕!  このお話は、三国志を知らない人も楽しめる。三国志を知ってる人はより楽しめる。そんな作品を目指して書いてます。 今後の予定 第一章 黄巾の乱編 第二章 反トータク連合編 第三章 群雄割拠編 第四章 カント決戦編 第五章 赤壁大戦編 第六章 西校舎攻略編←今ココ 第七章 リュービ会長編 第八章 最終章 作者のtwitterアカウント↓ https://twitter.com/tobeitsuki?t=CzwbDeLBG4X83qNO3Zbijg&s=09 ※このお話は2019年7月8日にサービスを終了したラノゲツクールに同タイトルで掲載していたものを小説版に書き直したものです。 ※この作品は小説家になろう・カクヨムにも公開しています。

午後の紅茶にくちづけを

TomonorI
キャラ文芸
"…こんな気持ち、間違ってるって分かってる…。…それでもね、私…あなたの事が好きみたい" 政界の重鎮や大御所芸能人、世界をまたにかける大手企業など各界トップクラスの娘が通う超お嬢様学校──聖白百合女学院。 そこには選ばれた生徒しか入部すら認められない秘密の部活が存在する。 昼休みや放課後、お気に入りの紅茶とお菓子を持ち寄り選ばれし7人の少女がガールズトークに花を咲かせることを目的とする──午後の紅茶部。 いつも通りガールズトークの前に紅茶とお菓子の用意をしている時、一人の少女が突然あるゲームを持ちかける。 『今年中に、自分の好きな人に想いを伝えて結ばれること』 恋愛の"れ"の字も知らない花も恥じらう少女達は遊び半分でのっかるも、徐々に真剣に本気の恋愛に取り組んでいく。 女子高生7人(+男子7人)による百合小説、になる予定。 極力全年齢対象を目標に頑張っていきたいけど、もしかしたら…もしかしたら…。 紅茶も恋愛もストレートでなくても美味しいものよ。

六月の読切(よみきり)

転生新語
キャラ文芸
「女性キャラの足って、重要だと思うの」。私たちはマンガ家二人組で、そして私のパートナーが、そんなことを言い出した。  読切(よみきり)マンガのネーム、つまりマンガの下書きの提出期限は今日で、ストーリーもキャラクターも決まっていない。パートナーは会話を求めてくるし、これでネームは完成するのだろうか?  カクヨム、小説家になろうに投稿しています。  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16818093080133489828  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5231jf/

女装と復讐は街の華

木乃伊(元 ISAM-t)
キャラ文芸
・ただ今《女装と復讐は街の華》の続編作品《G.F. -ゴールドフィッシュ-》を執筆中です。 - 作者:木乃伊 - この作品は、2011年11月から2013年2月まで執筆し、とある別の執筆サイトにて公開&完結していた《女装と復讐》の令和版リメイク作品《女装と復讐は街の華》です。 - あらすじ - お洒落な女の子たちに笑われ、馬鹿にされる以外は普通の男子大学生だった《岩塚信吾》。 そして彼が出会った《篠崎杏菜》や《岡本詩織》や他の仲間とともに自身を笑った女の子たちに、 その抜群な女装ルックスを武器に復讐を誓い、心身ともに成長を遂げていくストーリー。 ※本作品中に誤字脱字などありましたら、作者(木乃伊)にそっと教えて頂けると、作者が心から救われ喜びます。 ストーリーは始まりから完結まで、ほぼ前作の筋書きをそのまま再現していますが、今作中では一部、出来事の語りを詳細化し書き加えたり、見直し修正や推敲したり、現代の発展技術に沿った場面再構成などを加えたりしています。 ※※近年(現実)の日本や世界の経済状況や流行病、自然災害、事件事故などについては、ストーリーとの関連性を絶って表現を省いています。 舞台 (美波県)藤浦市新井区早瀬ヶ池=通称瀬ヶ池。高層ビルが乱立する巨大繁華街で、ファッションや流行の発信地と言われている街。お洒落で可愛い女の子たちが集まることで有名(その中でも女の子たちに人気なのは"ハイカラ通り") 。 ※藤浦市は関東圏周辺またはその付近にある(?)48番目の、現実には存在しない空想上の県(美波県)のなかの大都市。

インミシべルな玩具〜暗殺者として育てられた俺が普通の高校生に〜

涼月 風
キャラ文芸
幼少期にテロ組織に拉致され暗殺者として育った少年は、ある人物に救い出されて生まれ育った日本に帰って来た。 普通の高校生をしながら、裏の世界にも籍を置き仕事をこなす毎日だったが、心は冷えたままだった。 しかし、偶然にも妹の沙希と再会を果たしてその心は揺れ動く。 そんな高校二年生の男子が周りの人達を関わりながら人間としての心を取り戻していくお話です。 ※なろう、カクヨムにも投稿してます。

お犬様のお世話係りになったはずなんだけど………

ブラックベリィ
キャラ文芸
俺、神咲 和輝(かんざき かずき)は不幸のどん底に突き落とされました。 父親を失い、バイトもクビになって、早晩双子の妹、真奈と優奈を抱えてあわや路頭に………。そんな暗い未来陥る寸前に出会った少女の名は桜………。 そして、俺の新しいバイト先は決まったんだが………。

処理中です...