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隠された罪(2)聴き取り
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松本もその上司も、不機嫌そうにしていた。
「疑っているわけではないんですよ。調査のために、お聞きしておかないといけないので」
涼真が引き攣った笑顔を浮かべて言う。
その横で、湊がにこりともせずに2人を見ていた。
「別に、仕方ありませんしね。構いませんよ」
松本が、大きく息を吐きながら言った。
「ええ。あの会社については、最低だと思っていますよ。社長の指示だったと、退社後に人事担当者が言ってましたし、社長にも、いい感情はありませんよ。
でも、それで今更どうこうしようとは思いません。ましてや、娘をどうにかしようとかは筋違いですし、自分の仕事を利用してなんて、とんでもないです」
涼真がうんうんと頷き、メモをとる。
松本の上司は腕を組んで、威嚇するように涼真と湊を見た。
「こいつはバカが付く程真っ直ぐなやつだ。こんな風にキャリアに傷を付けられたくない」
それに涼真が、慌てて言う。
「いや、それは全く関係ありませんよ。事件の調査に、無関係の部署が当たれというだけですから。な」
湊は隣で、黙って座ったままだ。
そして、立ち上がった。
「え!?ちょっと湊!?」
「時間の無駄だ。次行くぞ」
松本と上司が眉をピクリとさせる。
「無駄?」
「わ!すすすみません!」
「この2人からは悪意の臭いがしない。無関係だ」
「へ?あ!
ありがとうございました!」
涼真は頭を下げて、慌てて湊の後を追った。
「もうちょっと言い方をだなあ、湊」
「向こうの態度もいい加減だったじゃないか。調査してるのに、最初からケンカ腰で、威圧して来て。こっちだけ丁寧に礼儀正しくしてやるの、嫌だね」
「……湊、子供じゃないんだから、我慢するところは我慢しようよ」
「ここがするところだとは思えない」
涼真は密かに、
(意外と子供っぽいのかな)
と思って、クスリと笑みをこぼした。
「何だよ」
「別に?」
涼真は澄まして、足を速めた。
悠花と雅美は、現場に来ていた。つまり、畠中家だ。
礼子の部屋は2階で、ドアも窓も1つずつだ。そのドアの前には松本が立っていたのだ。
窓は裏庭に面していて、当日も今も、吹き付け工事のために足場が組まれている。礼子が消えた午後8時から10時には、工事は終了していたが、足場はこのまま残っていた。
「どうして別の場所に行かなかったのかしら」
雅美は首を捻った。
「学校の準備とか色々、どうしてもここがいいと、お嬢様が」
メイドがそう言う。
「庭の見回りは定期的にしていたそうですし、塀は高くて超えられないし、通用門は暗証番号を知らないと開かないそうですよ」
悠花が言う。
しかし、暗証番号が漏れれば、侵入できるという事だ。
まあ、依頼主の希望で仕方がなかったのだろうと、雅美は思った。危険な時でも、「これは譲れない」と言う警護対象者はいるものだ。
「犯人は足場を使って窓から侵入し、礼子さんを拉致した、と」
言って、雅美は軽く首を捻った。
(まあ、いいわ。それは後で)
考え直し、続ける。
「そして窓からまた逃げて、裏門から出たのかしらね」
「門の外に行ってみますか、雅美さん」
2人は庭を横切り、裏門へ近付いた。
通用口にはテンキーが付いていて、メイドがそれに、6ケタの数字を打ち込んだ。すると、カチャッと音がして、門が小さく手前に開いた。
それを通って、外に出る。
閑静な住宅街、しかも近所はどこも広い敷地を持つ家ばかりだ。昼間でも静かなのに、夜ともなれば、本当に誰も通らないのだろう。
「こういう時ドラマなら、裏の家の防犯カメラがあったりするのに」
悠花が恨めしそうに辺りを見回して言う。
「現実は厳しいわ」
雅美は肩を竦めた。
「疑っているわけではないんですよ。調査のために、お聞きしておかないといけないので」
涼真が引き攣った笑顔を浮かべて言う。
その横で、湊がにこりともせずに2人を見ていた。
「別に、仕方ありませんしね。構いませんよ」
松本が、大きく息を吐きながら言った。
「ええ。あの会社については、最低だと思っていますよ。社長の指示だったと、退社後に人事担当者が言ってましたし、社長にも、いい感情はありませんよ。
でも、それで今更どうこうしようとは思いません。ましてや、娘をどうにかしようとかは筋違いですし、自分の仕事を利用してなんて、とんでもないです」
涼真がうんうんと頷き、メモをとる。
松本の上司は腕を組んで、威嚇するように涼真と湊を見た。
「こいつはバカが付く程真っ直ぐなやつだ。こんな風にキャリアに傷を付けられたくない」
それに涼真が、慌てて言う。
「いや、それは全く関係ありませんよ。事件の調査に、無関係の部署が当たれというだけですから。な」
湊は隣で、黙って座ったままだ。
そして、立ち上がった。
「え!?ちょっと湊!?」
「時間の無駄だ。次行くぞ」
松本と上司が眉をピクリとさせる。
「無駄?」
「わ!すすすみません!」
「この2人からは悪意の臭いがしない。無関係だ」
「へ?あ!
ありがとうございました!」
涼真は頭を下げて、慌てて湊の後を追った。
「もうちょっと言い方をだなあ、湊」
「向こうの態度もいい加減だったじゃないか。調査してるのに、最初からケンカ腰で、威圧して来て。こっちだけ丁寧に礼儀正しくしてやるの、嫌だね」
「……湊、子供じゃないんだから、我慢するところは我慢しようよ」
「ここがするところだとは思えない」
涼真は密かに、
(意外と子供っぽいのかな)
と思って、クスリと笑みをこぼした。
「何だよ」
「別に?」
涼真は澄まして、足を速めた。
悠花と雅美は、現場に来ていた。つまり、畠中家だ。
礼子の部屋は2階で、ドアも窓も1つずつだ。そのドアの前には松本が立っていたのだ。
窓は裏庭に面していて、当日も今も、吹き付け工事のために足場が組まれている。礼子が消えた午後8時から10時には、工事は終了していたが、足場はこのまま残っていた。
「どうして別の場所に行かなかったのかしら」
雅美は首を捻った。
「学校の準備とか色々、どうしてもここがいいと、お嬢様が」
メイドがそう言う。
「庭の見回りは定期的にしていたそうですし、塀は高くて超えられないし、通用門は暗証番号を知らないと開かないそうですよ」
悠花が言う。
しかし、暗証番号が漏れれば、侵入できるという事だ。
まあ、依頼主の希望で仕方がなかったのだろうと、雅美は思った。危険な時でも、「これは譲れない」と言う警護対象者はいるものだ。
「犯人は足場を使って窓から侵入し、礼子さんを拉致した、と」
言って、雅美は軽く首を捻った。
(まあ、いいわ。それは後で)
考え直し、続ける。
「そして窓からまた逃げて、裏門から出たのかしらね」
「門の外に行ってみますか、雅美さん」
2人は庭を横切り、裏門へ近付いた。
通用口にはテンキーが付いていて、メイドがそれに、6ケタの数字を打ち込んだ。すると、カチャッと音がして、門が小さく手前に開いた。
それを通って、外に出る。
閑静な住宅街、しかも近所はどこも広い敷地を持つ家ばかりだ。昼間でも静かなのに、夜ともなれば、本当に誰も通らないのだろう。
「こういう時ドラマなら、裏の家の防犯カメラがあったりするのに」
悠花が恨めしそうに辺りを見回して言う。
「現実は厳しいわ」
雅美は肩を竦めた。
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