柳内警備保障秘書課別室

JUN

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過去(1)聴取

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 翌朝、家を出たところで、湊はスッと男達に囲まれた。 
 正面の男が警察バッジを示して、ニコリともしないばかりか、瞬きすらしないで言った。
「篠杜 湊さん。お尋ねしたい事があるので、ご同行願えますか」
 任意だろうとか言って断っても、いい事はないとわかっている。なので、職場に連絡だけ入れさせてもらいたいと言って、錦織に電話をかけ、湊は彼らに付いて車に乗り込んだ。
 飾り気のない部屋にポツンとあるスチールのデスクを前に座ると、目の前に1人が座り、ドアのそばのデスクに1人が座り、反対側に1人が立ち、湊の背後にも1人が立つ。
 圧迫聴取とでも言おうか。
「あなたは、今もオシリスと連絡を取り合っていますか」
 目の前の男が訊くのに、
「いいえ」
と短く答える。
 途端に、他の男達からの無言の圧力が強くなる。
「そうですか?あなたは、昨日の事件とその前日の事件が、オシリスのものでは無いと知っていた。違いますか」
「違います。見て、そう感じただけです」
「そうですか。
 ああ、ちょっと失礼」
 目の前の男が、席を立って出て行く。
 その途端、背後の男が机にドンとてをつく。
「そんなのが、通じると思ってるのか?ああ?」
 肩を竦める。
「事実ですから」
「この野郎」
 言いざま、椅子の足を力任せに蹴りつける。
 普通の人間なら、これで少なからず怯える事になる。
 しかし、彼らがこうする事は予測の範囲内だったし、もっと恐ろしい尋問、いや拷問も見て来た。この程度、今更だ。
「聴取、録画してなくてよかったですね」
 言った途端、そいつは顔を赤くして、殴りかかって来た。
 わざと1発殴らせる。
 唇の端が切れ、他のやつが慌てた。現在の警察は、こういう取り調べを許してはいない。公安と言えど、ここに来た事は錦織に知らせてある。隠しきる事は不可能だ。錦織も柳内も、権力に負ける性格はしていない。
 ドアを開けて出て行った男が戻って来ると、彼らは咳払いして、最初の位置に戻った。
 湊は目の前の男を平然と見た。
「昨日の夜、オシリスから電話がかかって来た事はわかっている」
「かかってきましたね。向こうから勝手にかかって来ただけで、やり取りでもないし、定期的でもないですよ。そんな事は、とうにわかってるんじゃないですか、盗聴してるんでしょうに」
 男は切り札が不発に終わった事にイライラとしたような顔で、こめかみをひくつかせていた。
「ああ。行動確認もまだしていますか」
 男は大きく溜め息をつき、わざとらしい笑みを浮かべて言った。
「ははは。何の事でしょう。
 今度オシリスから連絡があったら、協力していただきたいんですがね」
「いつどこでかかって来るか全くわかりませんし、ろくに内容もありませんけど?それに、いつもあなた方が近くに?」
 背後の男が、大きく息を吸って、吐く。これも、普通ならば、プレッシャーだろう。
 湊は落ち着いて言う。
「用件がそれだけなら、行ってもいいですか」
 そして湊は、刺々しい視線に見送られてそこを出た。
 そして、そっと呟いた。
「何で連絡して来るのかな。もう、やめてくれって言ったのになあ」
 オシリスには何を言っても無駄だとは、まあ、湊もわかってはいるのだが、言わずにもおれないのだ。

 遅れて昼頃になって会社に出社すると、皆が心配して集まって来た。
「ちょっと、それ――!」
 涼真が傷を見て慌て、雅美が素早く救急箱を取りに立つ。
「大丈夫だ。早く解放してもらおうと、大人しく当たっておいただけだから」
「何言ってるんですか!訴えましょうよ!」
 悠花は完全に怒っているが、湊と錦織は冷静だ。
「湊君の挑発に乗るとは、まだまだ未熟ですねえ」
 笑って錦織は言うが、目は笑っていない。
「まあ、焦って、大したカードもなく呼び出したみたいですよ。脅したら協力すると考えてたようで。それも、パンチの効かない脅しで」
 湊は何という事もなく言うが、涼真は固い顔をし、悠花は泣きそうな顔で、雅美は心配そうな顔をしていた。
「なあ、湊。何があったんだ?俺達にできる事はないのか?」
 それに、湊も錦織も、「ない」とは思ったが、今後、彼らに接触される事もないとは言い切れない。そう考えて、湊は小さく嘆息した。
「室長。話しておいた方が?」
「湊君がいいのなら」
 湊は、この原因となった出来事について、話す事にした。



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