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注目(2)飲み会
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乾杯をし、ジョッキをグッと傾ける。
「ぷはあ。美味い!」
涼真は思わず声を上げた。
秘書課の飲み会に誘われて、涼真と悠花は参加し、近所のおしゃれな居酒屋に来ているのだ。
「仕事は慣れて来たか?」
先輩が訊いて来る。
「はい!どうにか」
「困った事とかがあれば言いなさいね。別室も秘書課なんだから」
「はい!ありがとうございます!」
スマートでできそうな先輩方だが、退社後は普通の感じで、親切だった。
「困り事と言えば、木賊さんだよな。男扱いするべきか、女扱いするべきか迷うよな」
「ああ。言われなきゃ美人だし、騙されるよな」
「別室に行くまでは、毎年新入社員が木賊さんに告白してはショックを受けるっていうのが出たからな。
いつ知ったんだ?」
「初日です。驚いたのは驚いたんですが、何か、慣れました。あんまり意識してないですね、誰も。
ねえ、悠花さん」
「そうですね。誰も気にしてませんね、男とか女とか」
そんな話をしながら、飲んでいた。
その頃会社では、雅美と湊が並んで歩いていた。社内のトレーニングジムは無料で使用できるので、湊は退社時刻後にここを利用していたのだが、雅美も来てトレーニングをしているうちに、雅美が数種類の格闘技の有段者だとわかり、それならと2人で格闘訓練をしていたのだ。
「湊君、なかなかやるわね」
「自己流ですよ。雅美さんこそ、お見事でした」
「また、お願いできるかしら」
「こちらこそ、是非」
言いながら、玄関に向かう。
「そう言えば、秘書課の飲み会でしょ。行かなかったの?」
「人見知りするんで」
雅美はプッと噴き出した。
「そういう雅美さんは?」
「私もね、ちょっと。忘年会とかは行くけど、プライベートのものだとね。皆、私との距離感とか扱い方に困るらしくて、楽しめないと悪いでしょ。
家飲みも楽しいし、楽でいいわよ」
雅美はそう言って、屈託なく笑った。
「ふうん。じゃあ、この別室だと平気ですね」
「それもそうね。
湊君も、平気?」
「はい」
「じゃあ、ビヤガーデンとか行かない?皆で」
「いいですね。行った事がないな」
「決まりね」
雅美はフフッと笑った。
街灯のない路上で、影が2つ、向かい合ってボソボソと会話していた。片方は錦織だ。
「まだ監視が必要と?」
「ええ。あれは危険です。危険な異物です」
答えたのは、西條蓮司、公安部長である。
「本人にテロに加担する気があるのかどうかはわかりませんが、服従するようにと刷り込まれていましたから、何か指令を与えられれば、従う可能性は十分あると思います。それにオシリスはあれに執着していました。接触してくる可能性はありますので、監視を続けるべきだと思います」
「執着ねえ。時限爆弾につないで、踏み込んで来た警察への足止めに使ったのに?」
「ええ。オシリスは、異常ですから。自分が平気で使い捨てておきながら、殺されたと嘆き、引き金を引いた相手を非難してくる。そういう相手ですから。
よくご存知でしょう、錦織部長」
錦織は、溜め息をついた。
「私はとっくに、一般人だよ。
とにかく、篠杜君は何の罪も犯していない一般人だ。それは忘れないでくれ。彼の上司として言えるのは、それだけだ」
「カミソリと呼ばれていた方が、随分と丸くなられたようですね」
錦織は答えず、肩を竦めてみせた。
西條は軽く一礼し、
「失礼します」
とボソボソと言うや、踵を返した。
「やれやれ」
錦織はそこを離れながら、もうひとつ溜め息をついた。
「噂はどうなのよう?社長の隠し子のために作った部署だって言うけど」
涼真は内心ドキッとしたが、悠花が首を傾け、答えた。
「隠し子?特に、そういう感じの人はいませんけど……」
「じゃあ、あれは?室長との同性愛疑惑」
それには全員すぐに、「ないない」と苦笑する。
が、悠花は内心の動揺を隠すのに精いっぱいだった。
「まあ、噂なんてそんなものだな。社内の問題を解決したり、人手が足りない時に助けになったりする部署があれば、確かにいいもんね」
「でも、急だし、強引だったじゃない?やっぱり隠し子説はありだわ。
もしそうだとしたら、誰かしら」
「タイミングからいうと、保脇君か篠杜君。年齢でいうと竹内さんもありかしら」
悠花が箸を置こうとして失敗し、スカートに醤油がはねた。それで慌てたらビールのグラスが落下してスカートがビールまみれになった。なので慌てふためいて立ち上がったら、氷を踏んで転んだ。
「……竹内さんはないかな」
「ないな」
彼らは、残念な生き物を見る目で言い合って、涙目の悠花に手を差し伸べた。
「ぷはあ。美味い!」
涼真は思わず声を上げた。
秘書課の飲み会に誘われて、涼真と悠花は参加し、近所のおしゃれな居酒屋に来ているのだ。
「仕事は慣れて来たか?」
先輩が訊いて来る。
「はい!どうにか」
「困った事とかがあれば言いなさいね。別室も秘書課なんだから」
「はい!ありがとうございます!」
スマートでできそうな先輩方だが、退社後は普通の感じで、親切だった。
「困り事と言えば、木賊さんだよな。男扱いするべきか、女扱いするべきか迷うよな」
「ああ。言われなきゃ美人だし、騙されるよな」
「別室に行くまでは、毎年新入社員が木賊さんに告白してはショックを受けるっていうのが出たからな。
いつ知ったんだ?」
「初日です。驚いたのは驚いたんですが、何か、慣れました。あんまり意識してないですね、誰も。
ねえ、悠花さん」
「そうですね。誰も気にしてませんね、男とか女とか」
そんな話をしながら、飲んでいた。
その頃会社では、雅美と湊が並んで歩いていた。社内のトレーニングジムは無料で使用できるので、湊は退社時刻後にここを利用していたのだが、雅美も来てトレーニングをしているうちに、雅美が数種類の格闘技の有段者だとわかり、それならと2人で格闘訓練をしていたのだ。
「湊君、なかなかやるわね」
「自己流ですよ。雅美さんこそ、お見事でした」
「また、お願いできるかしら」
「こちらこそ、是非」
言いながら、玄関に向かう。
「そう言えば、秘書課の飲み会でしょ。行かなかったの?」
「人見知りするんで」
雅美はプッと噴き出した。
「そういう雅美さんは?」
「私もね、ちょっと。忘年会とかは行くけど、プライベートのものだとね。皆、私との距離感とか扱い方に困るらしくて、楽しめないと悪いでしょ。
家飲みも楽しいし、楽でいいわよ」
雅美はそう言って、屈託なく笑った。
「ふうん。じゃあ、この別室だと平気ですね」
「それもそうね。
湊君も、平気?」
「はい」
「じゃあ、ビヤガーデンとか行かない?皆で」
「いいですね。行った事がないな」
「決まりね」
雅美はフフッと笑った。
街灯のない路上で、影が2つ、向かい合ってボソボソと会話していた。片方は錦織だ。
「まだ監視が必要と?」
「ええ。あれは危険です。危険な異物です」
答えたのは、西條蓮司、公安部長である。
「本人にテロに加担する気があるのかどうかはわかりませんが、服従するようにと刷り込まれていましたから、何か指令を与えられれば、従う可能性は十分あると思います。それにオシリスはあれに執着していました。接触してくる可能性はありますので、監視を続けるべきだと思います」
「執着ねえ。時限爆弾につないで、踏み込んで来た警察への足止めに使ったのに?」
「ええ。オシリスは、異常ですから。自分が平気で使い捨てておきながら、殺されたと嘆き、引き金を引いた相手を非難してくる。そういう相手ですから。
よくご存知でしょう、錦織部長」
錦織は、溜め息をついた。
「私はとっくに、一般人だよ。
とにかく、篠杜君は何の罪も犯していない一般人だ。それは忘れないでくれ。彼の上司として言えるのは、それだけだ」
「カミソリと呼ばれていた方が、随分と丸くなられたようですね」
錦織は答えず、肩を竦めてみせた。
西條は軽く一礼し、
「失礼します」
とボソボソと言うや、踵を返した。
「やれやれ」
錦織はそこを離れながら、もうひとつ溜め息をついた。
「噂はどうなのよう?社長の隠し子のために作った部署だって言うけど」
涼真は内心ドキッとしたが、悠花が首を傾け、答えた。
「隠し子?特に、そういう感じの人はいませんけど……」
「じゃあ、あれは?室長との同性愛疑惑」
それには全員すぐに、「ないない」と苦笑する。
が、悠花は内心の動揺を隠すのに精いっぱいだった。
「まあ、噂なんてそんなものだな。社内の問題を解決したり、人手が足りない時に助けになったりする部署があれば、確かにいいもんね」
「でも、急だし、強引だったじゃない?やっぱり隠し子説はありだわ。
もしそうだとしたら、誰かしら」
「タイミングからいうと、保脇君か篠杜君。年齢でいうと竹内さんもありかしら」
悠花が箸を置こうとして失敗し、スカートに醤油がはねた。それで慌てたらビールのグラスが落下してスカートがビールまみれになった。なので慌てふためいて立ち上がったら、氷を踏んで転んだ。
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「ないな」
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