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新設部署(4)福利厚生
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悠花がぶちまけたのは重要な証書で、上司にはかなり絞られたらしい。
そして例のモテ男は、視神経を圧迫する位置に脳腫瘍が見つかり、即入院となった。
「竹内さん、助けようとしたのに、災難でしたね」
雅美が気の毒そうに言った。
「運が悪いですよね。どうでもいいような書類だったら良かったのに」
とは涼真の言だ。
「それで、竹内さんへの嫌がらせはどうするんですか。一応、課内での証拠はビデオで押さえましたが」
湊は言って、錦織を見た。
「それなんだけどねえ」
錦織が言った時、ドアがノックされた。
「はい」
雅美が開けに行くと、そこには悠花がいた。
「やあ、竹内さん」
「あの、失礼します」
錦織に、ピョコンと悠花が頭を下げる。
「紹介しよう。新しい仲間の竹内悠花くん」
「よろしくお願いします!」
涼真は口をあんぐりと開け、雅美はにんまりと笑い、湊はただ眺めていた。
「湊君言ってたよね。観察眼が優れてるって」
「そうですね」
「それに、経理関係に強い仲間も欲しいと思ってね」
錦織はニコニコと言い、ふと時計を見た。
「退社時刻だ。よし、これから親睦会をしよう。湊君と涼真君の歓迎会もまだだったしね」
「いや、俺――」
「あらあ、いいですね、室長」
湊の言葉をかき消して雅美が言い、
「どこに行きます?」
と涼真もウキウキとして言う。
「あの、俺」
「急だし、ここでしましょうか。キッチンには何か色々ありますよ。社長がくれたんですよ、福利厚生の一環だとかで」
錦織が言い、キッチンに皆でぞろぞろと入って行く。
なるほど、冷凍食品、レトルト、缶詰、乾麺、生野菜など色々ある。
「……福利厚生ですか?」
悠花が怪訝な表情を浮かべ、涼真は
「そういうものなんですね、大きい会社って」
と納得している。
「さあ、何を作りましょう?」
と鼻歌を歌うのは雅美だ。
「社長が、ね」
湊は小声で言って、肩を竦めた。
「調理実習みたいですねえ。私も手伝いますよ。皆でやりましょうか」
錦織が言い、袖をまくる。
どこかおかしな新設部署の、船出だった。
柳内は、報告を聞いて満足そうに笑った。
「まずは無事に解決できて何よりだったな。それに、雰囲気も良さそうで安心したよ」
秘書課課長は頷き、
「全員、生き生きとしているようです」
と付け加えながら、湊は新入社員とは思えないくらい堂々としていると、言うべきか言わざるべきか迷った。
しかしその葛藤に気付かないのか、柳内は機嫌よく笑顔を浮かべ、そして、呟いた。
「あの子の居場所になれればいい。あの子もいい加減、普通に人生を楽しんでもいい筈だ」
「はい。その為にも、あの部署にはきちんと機能してもらいませんと困ります」
「そうだねえ。その意味でも、今回はなかなか良かった。問題も解決できたし、あの社員の病気にも気付けた。
次も、何か適当な問題はあるかな」
「忙しすぎて手が足りないというものが幾つか」
「うん。よろしく頼むよ」
秘書課課長は頭を下げ、社長室を後にした。
柳内は1人になると、笑顔を消し、天井を見上げて考えた。
(あれから18年か。長いのか短いのか……)
「ま、何はともあれ、社会人第一歩だ」
妹に電話でもしようかと、柳内はスマホを取り出した。
そして例のモテ男は、視神経を圧迫する位置に脳腫瘍が見つかり、即入院となった。
「竹内さん、助けようとしたのに、災難でしたね」
雅美が気の毒そうに言った。
「運が悪いですよね。どうでもいいような書類だったら良かったのに」
とは涼真の言だ。
「それで、竹内さんへの嫌がらせはどうするんですか。一応、課内での証拠はビデオで押さえましたが」
湊は言って、錦織を見た。
「それなんだけどねえ」
錦織が言った時、ドアがノックされた。
「はい」
雅美が開けに行くと、そこには悠花がいた。
「やあ、竹内さん」
「あの、失礼します」
錦織に、ピョコンと悠花が頭を下げる。
「紹介しよう。新しい仲間の竹内悠花くん」
「よろしくお願いします!」
涼真は口をあんぐりと開け、雅美はにんまりと笑い、湊はただ眺めていた。
「湊君言ってたよね。観察眼が優れてるって」
「そうですね」
「それに、経理関係に強い仲間も欲しいと思ってね」
錦織はニコニコと言い、ふと時計を見た。
「退社時刻だ。よし、これから親睦会をしよう。湊君と涼真君の歓迎会もまだだったしね」
「いや、俺――」
「あらあ、いいですね、室長」
湊の言葉をかき消して雅美が言い、
「どこに行きます?」
と涼真もウキウキとして言う。
「あの、俺」
「急だし、ここでしましょうか。キッチンには何か色々ありますよ。社長がくれたんですよ、福利厚生の一環だとかで」
錦織が言い、キッチンに皆でぞろぞろと入って行く。
なるほど、冷凍食品、レトルト、缶詰、乾麺、生野菜など色々ある。
「……福利厚生ですか?」
悠花が怪訝な表情を浮かべ、涼真は
「そういうものなんですね、大きい会社って」
と納得している。
「さあ、何を作りましょう?」
と鼻歌を歌うのは雅美だ。
「社長が、ね」
湊は小声で言って、肩を竦めた。
「調理実習みたいですねえ。私も手伝いますよ。皆でやりましょうか」
錦織が言い、袖をまくる。
どこかおかしな新設部署の、船出だった。
柳内は、報告を聞いて満足そうに笑った。
「まずは無事に解決できて何よりだったな。それに、雰囲気も良さそうで安心したよ」
秘書課課長は頷き、
「全員、生き生きとしているようです」
と付け加えながら、湊は新入社員とは思えないくらい堂々としていると、言うべきか言わざるべきか迷った。
しかしその葛藤に気付かないのか、柳内は機嫌よく笑顔を浮かべ、そして、呟いた。
「あの子の居場所になれればいい。あの子もいい加減、普通に人生を楽しんでもいい筈だ」
「はい。その為にも、あの部署にはきちんと機能してもらいませんと困ります」
「そうだねえ。その意味でも、今回はなかなか良かった。問題も解決できたし、あの社員の病気にも気付けた。
次も、何か適当な問題はあるかな」
「忙しすぎて手が足りないというものが幾つか」
「うん。よろしく頼むよ」
秘書課課長は頭を下げ、社長室を後にした。
柳内は1人になると、笑顔を消し、天井を見上げて考えた。
(あれから18年か。長いのか短いのか……)
「ま、何はともあれ、社会人第一歩だ」
妹に電話でもしようかと、柳内はスマホを取り出した。
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