柳内警備保障秘書課別室

JUN

文字の大きさ
上 下
5 / 72

新設部署(4)福利厚生

しおりを挟む
 悠花がぶちまけたのは重要な証書で、上司にはかなり絞られたらしい。
 そして例のモテ男は、視神経を圧迫する位置に脳腫瘍が見つかり、即入院となった。
「竹内さん、助けようとしたのに、災難でしたね」
 雅美が気の毒そうに言った。
「運が悪いですよね。どうでもいいような書類だったら良かったのに」
 とは涼真の言だ。
「それで、竹内さんへの嫌がらせはどうするんですか。一応、課内での証拠はビデオで押さえましたが」
 湊は言って、錦織を見た。
「それなんだけどねえ」
 錦織が言った時、ドアがノックされた。
「はい」
 雅美が開けに行くと、そこには悠花がいた。
「やあ、竹内さん」
「あの、失礼します」
 錦織に、ピョコンと悠花が頭を下げる。
「紹介しよう。新しい仲間の竹内悠花くん」
「よろしくお願いします!」
 涼真は口をあんぐりと開け、雅美はにんまりと笑い、湊はただ眺めていた。
「湊君言ってたよね。観察眼が優れてるって」
「そうですね」
「それに、経理関係に強い仲間も欲しいと思ってね」
 錦織はニコニコと言い、ふと時計を見た。
「退社時刻だ。よし、これから親睦会をしよう。湊君と涼真君の歓迎会もまだだったしね」
「いや、俺――」
「あらあ、いいですね、室長」
 湊の言葉をかき消して雅美が言い、
「どこに行きます?」
と涼真もウキウキとして言う。
「あの、俺」
「急だし、ここでしましょうか。キッチンには何か色々ありますよ。社長がくれたんですよ、福利厚生の一環だとかで」
 錦織が言い、キッチンに皆でぞろぞろと入って行く。
 なるほど、冷凍食品、レトルト、缶詰、乾麺、生野菜など色々ある。
「……福利厚生ですか?」
 悠花が怪訝な表情を浮かべ、涼真は
「そういうものなんですね、大きい会社って」
と納得している。
「さあ、何を作りましょう?」
と鼻歌を歌うのは雅美だ。
「社長が、ね」
 湊は小声で言って、肩を竦めた。
「調理実習みたいですねえ。私も手伝いますよ。皆でやりましょうか」
 錦織が言い、袖をまくる。
 どこかおかしな新設部署の、船出だった。

 柳内は、報告を聞いて満足そうに笑った。
「まずは無事に解決できて何よりだったな。それに、雰囲気も良さそうで安心したよ」
 秘書課課長は頷き、
「全員、生き生きとしているようです」
と付け加えながら、湊は新入社員とは思えないくらい堂々としていると、言うべきか言わざるべきか迷った。
 しかしその葛藤に気付かないのか、柳内は機嫌よく笑顔を浮かべ、そして、呟いた。
「あの子の居場所になれればいい。あの子もいい加減、普通に人生を楽しんでもいい筈だ」
「はい。その為にも、あの部署にはきちんと機能してもらいませんと困ります」
「そうだねえ。その意味でも、今回はなかなか良かった。問題も解決できたし、あの社員の病気にも気付けた。
 次も、何か適当な問題はあるかな」
「忙しすぎて手が足りないというものが幾つか」
「うん。よろしく頼むよ」
 秘書課課長は頭を下げ、社長室を後にした。
 柳内は1人になると、笑顔を消し、天井を見上げて考えた。
(あれから18年か。長いのか短いのか……)
「ま、何はともあれ、社会人第一歩だ」
 妹に電話でもしようかと、柳内はスマホを取り出した。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

呪い子と銀狼の円舞曲《ワルツ》

悠井すみれ
キャラ文芸
【第7回キャラ文大賞参加作品です。お楽しみいただけましたら投票お願いいたします。】 声を封じられた令嬢が、言葉の壁と困難を乗り越えて幸せをつかみ、愛を語れるようになるまでの物語。 明治時代・鹿鳴館を舞台にした和風シンデレラストーリーです。 明治時代、鹿鳴館が華やいだころの物語。 華族令嬢の宵子は、実家が祀っていた犬神の呪いで声を封じられたことで家族に疎まれ、使用人同然に扱われている。 特に双子の妹の暁子は、宵子が反論できないのを良いことに無理難題を押し付けるのが常だった。 ある夜、外国人とのダンスを嫌がる暁子の身代わりとして鹿鳴館の夜会に出席した宵子は、ドイツ貴族の青年クラウスと出会い、言葉の壁を越えて惹かれ合う。 けれど、折しも帝都を騒がせる黒い人喰いの獣の噂が流れる。狼の血を引くと囁かれるクラウスは、その噂と関わりがあるのか否か── カクヨム、ノベマ!にも掲載しています。 2024/01/03まで一日複数回更新、その後、完結まで毎朝7時頃更新です。

愛の裏では、屠所之羊の声がする。

清水雑音
キャラ文芸
父の仕事の都合で引っ越すことになった神酒 秋真(みき しゅうま)は、町で起こっていく殺人事件に怯えながらも一人の女性を愛す。 しかしその女性の恋愛対象は骨にしかなく、それでも彼女に尽くしていく。 非道徳的(インモラル)で美しい、行き交う二人の愛の裏……

生命の樹

プラ
キャラ文芸
ある部族に生まれた突然変異によって、エネルギー源となった人。 時間をかけ、その部族にその特性は行き渡り、その部族、ガベト族はエネルギー源となった。 そのエネルギーを生命活動に利用する植物の誕生。植物は人間から得られるエネルギーを最大化するため、より人の近くにいることが繁栄に直結した。 その結果、植物は進化の中で人間に便利なように、極端な進化をした。 その中で、『生命の樹』という自身の細胞を変化させ、他の植物や、動物の一部になれる植物の誕生。『生命の樹』が新たな進化を誘発し、また生物としての根底を変えてしまいつつある世界。 『生命の樹』で作られた主人公ルティ、エネルギー源になれるガベト族の生き残り少女グラシア。  彼らは地上の生態系を大きく変化させていく。 ※毎週土曜日投稿

フォギーシティ

淺木 朝咲
キャラ文芸
どの地図にも載らず、常に霧に覆われた街、通称フォギーシティは世界中のどの街よりも変わっていた。人間と"明らかにそうでないもの"──すなわち怪物がひとつの街で生活していたのだから。 毎週土曜日13:30に更新してます

ゆるしいろの喧騒

琴梅
キャラ文芸
 ――事実は小説よりも奇なり? 笑わせんな。  立夏も目前の春。とある街の高校では生徒が次々と行方不明になる事件が起きていた。 これは、そんな不穏な事件を知っているだけの高校三年生の一生徒――慎重派だけど好奇心旺盛な男の子と、事件を解決しなければならない学校の生徒会長――猪突猛進だけどあれこれ悩みやすい女の子と、とんでもビビりの転校生の男の子、それからちょっとうろんな成人女性が、不思議なことを巻き込まれててんやわんやする話。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

学園戦記三国志~リュービ、二人の美少女と義兄妹の契りを結び、学園において英雄にならんとす 正史風味~

トベ・イツキ
キャラ文芸
 三国志×学園群像劇!  平凡な少年・リュービは高校に入学する。  彼が入学したのは、一万人もの生徒が通うマンモス校・後漢学園。そして、その生徒会長は絶大な権力を持つという。  しかし、平凡な高校生・リュービには生徒会なんて無縁な話。そう思っていたはずが、ひょんなことから黒髪ロングの清楚系な美女とお団子ヘアーのお転婆な美少女の二人に助けられ、さらには二人が自分の妹になったことから運命は大きく動き出す。  妹になった二人の美少女の後押しを受け、リュービは謀略渦巻く生徒会の選挙戦に巻き込まれていくのであった。  学園を舞台に繰り広げられる新三国志物語ここに開幕!  このお話は、三国志を知らない人も楽しめる。三国志を知ってる人はより楽しめる。そんな作品を目指して書いてます。 今後の予定 第一章 黄巾の乱編 第二章 反トータク連合編 第三章 群雄割拠編 第四章 カント決戦編 第五章 赤壁大戦編 第六章 西校舎攻略編←今ココ 第七章 リュービ会長編 第八章 最終章 作者のtwitterアカウント↓ https://twitter.com/tobeitsuki?t=CzwbDeLBG4X83qNO3Zbijg&s=09 ※このお話は2019年7月8日にサービスを終了したラノゲツクールに同タイトルで掲載していたものを小説版に書き直したものです。 ※この作品は小説家になろう・カクヨムにも公開しています。

処理中です...