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禿山の一夜(1)真夜中の灯火

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 最後の一音が空気に中に溶け込み、消えて行く。
「素晴らしい!」
 客たちは口々に褒めたたえ、惜しみなく拍手を送る。その先で、貴音はバイオリンと弓を下ろし、理生はピアノの前から立ち上がって、一礼した。
 タウンゼント領。この山々で構成された地は、鉱物の採掘と高山独特の植物の実の出荷で成り立っているところで、国の国境にある。その割に警備が手薄なのは、国境の禿山は険しく、また、夏でも凍死できるほどに厳しいことから、ここを超えて来る事もないだろうとの事だ。
 人口は少なくはなく、街の規模もそこそこなのだが、やはり辺境の田舎という感じはどうしようもなく、また、新しい娯楽というものに飢えていた。演奏家だと言えば即、公演はいつ、どこでやるのか、などと質問攻めにされた。
 そして教会ですぐに判子は貰えたが、頼まれて、教会で公演をすることが決まったのだ。
 するとそれを聞きつけた領主が、自宅のサロンで個人的にリサイタルをしてもらいたいと言って来て、こうして領主宅でリサイタルとなったのだった。
 昔の音楽家などは、こういう活動をしていたものだ。
「実に素晴らしいね。その楽器も見た事がないがいい音色だし、その曲もいいね」
「ありがとうございます」
 バイオリンのような弦楽器はあるが、弓を使うものではなく、音もギターやウクレレ寄りだ。
 ピアノに至っては、似たようなものもない。パイプオルガンやハープシコードもなく、全くの未知の楽器だ。
「でけぇ」
「うわあ、中は紐でいっぱい」
 子供達は興味深気に覗き込んでいる。
 サロンでのリサイタルという事で、室内楽曲をアレンジしたものを中心に映画音楽も混ぜて編成してあるが、やはり、ピアノとバイオリン2台というのに、ストレスがたまり始めている貴音だった。
 ミハイルとトビーに何か仕込めないかとやっても見たが、そう簡単にできるものではないのは自分が1番良くわかってはいるのだ。
 ひとしきりの挨拶や感想を聞き、仕事を終えると、失礼にならない程度にパーティに参加して、早々に与えられた部屋に引っ込んだ。
 鬼のような練習とリハーサルに付き合って、充足感はあるものの疲れた理生も、一緒に行く。
 元々付き人でもあるのは、忘れてはいない。
「こっちの楽器で、何かないのかなあ。トビーは貴族の生まれなんだから、何かできそうなもんだけど」
「確かに、言われてみると・・・」
 貴音と理生の視線を受けて、トビーは肩を竦めた。
「習う前に、平民になったんでね」
「ボクは音楽は全然だからなあ」
 2人で残るのも遠慮したいと、一緒に2人も引き上げ、4人で部屋のソファに座る。
「それより、ここも、お姉さんはいなかったな」
「うん。でも、ひとつひとつ回ってれば、いつかは姉さんか、姉さんを知っている人に会えるよ。大丈夫」
 トビーは言って、窓の外を見た。
「見事に、禿山だな」
 それで、皆、外を見る。
 草木1本生えていない、岩石剥き出しの山だ。
「雨で崩れないのかな」
「そもそも、雨が少ない地域だからね」
「日本だったら土砂崩れ間違いなしだな」
「恐ろしい」
 言っていると、山の向こう側で、小さな火がいくつも見えた。
「何だろう。こんなに暗くなってから猟か?こんな禿山に動物がいるのか、狩りをするくらいの」
 ミハイルが言うのに、トビーは目を細めながら返す。
「見間違いだろ?ネズミとかトカゲはいても、わざわざ狩りになんて行かないよ。第一夜になんて行かないよ」
「あれえ?でも、ほら」
「あ」
 山の稜線の向こう側、つまり隣国に、小さな火がまたたいていた。
「・・・これ、まずいかも知れない。すぐに領主に知らせないと」
「トビー、何?まさか」
「国境侵犯か」
「戦争か!」
 4人は急いで、サロンへ戻った。








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