市民課葬祭係

JUN

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道を外れたもの(1)準備中

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「あれ?」
 穂高は来た僧侶を見て、首を傾けた。
 斎場では、色んな人が葬儀を執り行う。そして各々の家の宗派に応じて僧侶を呼ぶ。すると近所の寺の僧侶は呼ばれる事も多くなる。
 極楽寺もそのひとつで、近所に古くからある寺だ。そしてその際には大抵長男の蒼龍が来ていたのだが、今来たのは知らない人だった。
「極楽寺さんですよね?」
 穂高は彼を控え室へ案内して戻って来た大場に訊いた。
「そうよ。何でもいつもの若いイケメン僧侶はしばらく都合が悪いんだって。それで本山から助っ人に来ているそうよ」
「しばらく都合が悪いって、病気とか怪我とか?」
 川口も目を丸くして訊くが、大場は残念そうに顔の前で手を振った。
「詳しくは聞けなかったのよお。でも、病気とかじゃあないって」
「修行とかかな。いや、だったら話してくれそうなもんか」
 穂高はそう言いながら、嫌な予感がして、空いた机を見た。
 向里が有休をまとめて使って休みだし、3日になる。電話をかけてもメールをしても返事がなく、心配していたのだ。土村に訊けばわかるかと思っていただけにガッカリする以上に、心配が募る。
(片一方だけだったら、旅行とか修行とかかも知れないって思うけど、揃ってとなると、やっぱり魂魄鬼に何かしようとしてるんじゃないかって気がするよな)
 考えると、あれに勝てるのかと懐疑的な気分になり、勝手に体が震えて来る。
「数少ない癒しだったのに」
「ねえ。早くまた来て欲しい」
「もう、全ての喪主があそこの檀家になって欲しい」
 大場と川口がそんな事を言っているのに適当に笑っていたが、穂高は頬が強張って愛想笑いも上手くできなかった。

 食べ物や飲み物を制限し、水垢離やら座禅やらをする。そんな日課を過ごすようになった向里は、はあ、と溜め息をついて親友を見やった。
「これ、本当に効果があってやってるんだろうな」
 言われた土村は、笑顔のまま首を傾げた。
「さあ?でも、体も心も健康になるだろ?だったらきっと効果があると思うな」
 向里はその返事にイラッとしながらも、仕方がないともう一度嘆息した。
 魂魄鬼をおびき寄せて囚われた魂を解放させる事を思いついた向里だったが、その実際の方法を考えてみたが考えつかず、取り敢えず土村に話して協力を要請したのだ。
 今は決行に備えて、準備中だ。
「魂魄鬼か。今どこで何をしてるんだろうな。というか、どういう魂なら回収に来るのかが今一つよくわからん」
「ああ。でも、俺が死んだとなれば必ず来るだろう。兄ちゃんが動揺しそうだから、きっとそのために」
 向里が冷静に言うのに、土村は顔をしかめて頷いた。
「まったく、なんて奴だろうな。必ず仕留めてやる」
「ああ。頼むぜ」
 2人は拳を合わせて誓い合った。







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