市民課葬祭係

JUN

文字の大きさ
上 下
12 / 26

疑惑(2)他殺の疑い

しおりを挟む
 その後どこからか大場が仕入れて来た情報で、清治は普通ランクの大学を卒業後、就職に失敗。どうにか派遣で収入を得ていたが、そこも派遣切りでクビに。それ以降、家に引きこもり、部屋を出る時は家族やものに暴力を振るう時か深夜に入浴する時くらいという生活になっていたらしいと聞いた。
 今回清治は、大量の睡眠薬を飲んで風呂に入り、湯船の中にコード付きのひげそりを引き込んで感電死した。
 警察は結局自殺としたが、家族の誰かによる他殺の線をかなり疑ったという。
 それについて、葬祭係は何もしない。火葬許可が出ており、警察が解剖だとか言っていない以上、火葬するだけだ。
 向里は淡々とそう言い、皆も真相が気になるものの、そうする以外にはなかった。

 谷口家では、父の英輔、母の真澄、妹の聖良が、片付けをしていた。
 傷だらけの壁や床、へこんだ冷蔵庫、割れたガラスなどを見回して聖良がぽつりと言う。
「リフォームしなきゃね。冷蔵庫やテーブルも買い替える?」
 それに真澄も、
「ああ……そうね。ええ」
と言いながら、リビングの清治を寝かしていた床を拭いていた手を止めて、周りを見回した。
「そうよ。もうこれで、これ以上暴れて壊される事もないんだから」
 それに、英輔がピクリと肩を揺らした。
 英輔は、密かに妻と娘を窺った。
(睡眠薬を飲んだ上に風呂に入って感電死だと?清治が自殺なんてするか?
 考えたくないが、どっちかが、清治を……)
 真澄も考えていた。
(清治は気が小さい子で、暴れるのもその裏返しだったわ。自殺なんてするかしら。それも、睡眠薬を飲んで入浴中に感電死だなんて方法、苦しそうじゃないの?
 まさかこの人が、父親としての責任を感じたとかで?
 いえ、聖良も変だわ。いくら皆困っていたとは言っても、葬儀もしていないうちにリフォームの話なんて)
 聖良も同じく考えていた。
(あのお兄が自殺なんて、考えられない。ちょっとでも痛いとか苦しいとかでギャアギャア騒ぐし、怖がりなのに。
 お父さんかな。もうすぐ定年なのに引きこもりの息子がいるから、この先どうしようか悩んだ末とか。
 お母さんかも知れないわ。睡眠薬を飲ませるのは、料理に混ぜられるお母さんが一番怪しいもの)
 お互いにお互いを疑っているとも知らず、彼らは黙々と掃除をし、明日の葬儀の準備を進めた。

 警察では、刑事達が話をしていた。
「自殺にしてはおかしくないですか?睡眠薬を飲んだなら、致死量を超えていたんだからそのままで死んでいた。感電死するような細工はいらなかったでしょう」
「致死量だとはわからなかったのかも知れないぞ」
「動機だけはあるからな。3人共、ガイ者にはさんざん手を焼かされていたらしいからな。真澄は2度も骨折してるし、聖良はガイ者のせいで恋人に振られ、友人を無くし、学校で孤立してるそうだ。英輔も退職金を前借りしていて、これ以上引きこもりの無職の息子を養うのは難しいと思っていたんじゃないのか」
「ただ、誰にしても、証拠がない」
 そうして、ううむと唸った。

 近所でも、
「もしかしたら、とうとう」
と噂のタネになっていた。
 どれだけ隠そうとしていても、清治が引きこもりで家庭内暴力を繰り返していたのは隠せるものではない。
 清治の霊は人知れず漂いながら、そんな彼らの話を聞いて回っていた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

不動の焔

桜坂詠恋
ホラー
山中で発見された、内臓を食い破られた三体の遺体。 それが全ての始まりだった。 「警視庁刑事局捜査課特殊事件対策室」主任、高瀬が捜査に乗り出す中、東京の街にも伝説の鬼が現れ、その爪が、高瀬を執拗に追っていた女新聞記者・水野遠子へも向けられる。 しかし、それらは世界の破滅への序章に過ぎなかった。 今ある世界を打ち壊し、正義の名の下、新世界を作り上げようとする謎の男。 過去に過ちを犯し、死をもってそれを償う事も叶わず、赦しを請いながら生き続ける、闇の魂を持つ刑事・高瀬。 高瀬に命を救われ、彼を救いたいと願う光の魂を持つ高校生、大神千里。 千里は、男の企みを阻止する事が出来るのか。高瀬を、現世を救うことが出来るのか。   本当の敵は誰の心にもあり、そして、誰にも見えない ──手を伸ばせ。今度はオレが、その手を掴むから。

ストーカー【完結】

本野汐梨 Honno Siori
ホラー
大学時代の元カノに地獄の果てまで付きまとわれた話

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【語るな会の記録】鎖女の話をするな

鳥谷綾斗(とやあやと)
ホラー
語ってはいけない怪談を語る会 通称、語るな会 「怪談は金儲けの道具」だと思っている男子大学生・Kが参加したのは、禁忌の怪談会だった。 美貌の怪談師が語るのは、世にも恐ろしい〈鎖女(くさりおんな)〉の話―― 語ってはいけない怪談は、何故語ってはいけないのか? 語ってはいけない怪談が語られた時、何が起こるのか? そして語るな会が開催された目的とは……? 表紙イラスト……シルエットメーカーさま

処理中です...