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遺産(2)見回り
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どうにか暴力沙汰は治め、事務所に戻る。
「よくある事とは言っても、まあ、醜い!」
大場は嘆息して首を振った。
「通夜の日に殺人事件で新たな遺体発生なんて嫌ね」
川口も嫌そうに控え室の方向を見る。
「介護問題はよく聞きますけど……」
穂高が言うと、向里がそれに冷静に答える。
「ただでさえ遺産が絡むと揉める元になる。そこに、永年誰かが介護を一手に引き受けていたとかいう事になれば、更にもめる元になるな。
まあ、裁判に至って、介護を認められてその分遺産を計上されたっていう話は聞いたけど、裁判にするほどでもないが無視できない金額とかいうのが一番揉めるんだろうな」
「まあ、明日の葬式を無事に済ませれば我々の仕事はおしまい。まあ、暴力沙汰にならないように、充分注意してくださいよ」
倉持がそう締めくくり、それでその話は一旦終わった。
定時になって川口と大場が帰ると、鍵当番は穂高だったが、念の為にと向里も残ることになった。
しかし問題はなく、西沢家の遺族もほかの葬儀の遺族も斎場を出ており、ホッとしながら、穂高と向里は巡回をしていた。
「本当に殺人事件とかにならなくて良かったですよ」
「まだ明日があるからわからんぞ」
「やめてくださいよ、向里さん」
言いながら、火の始末や電気が消えているかどうかを確認して歩く。
遅くまで電気が点いていると、「明るい」「眩しい」などとクレームが来るのだ。そんなに他の家に近いわけでも、特別明るいわけでもない。そういう家は、何かしらクレームを付けたい家なのだ。誰もがお世話になる場所なのに、斎場が近くにあるのを嫌がる人は多い。
「斎場を持ってない市は近隣の市にお願いしないと火葬もできないから、そっちの市が優先で大変だとか聞きますよ」
「ああ、そうだな。ウチだってそんなに小さくはないのに、大概フル回転だしな。夏なんてドライアイスを大量に使って持たせるって聞いたな」
「うわあ。料金もバカになりませんね」
「ああ。それで斎場を作れというらしいが、どこに作るかで押し付け合って、結局作れないままらしい」
向里は肩を竦め、穂高は嘆息した。
話をしながらも、歩いて回る。
と、西沢家の斎場に辿り着いた。
ドアを開けると、電気はちゃんと消えていたし、線香もろうそくも消えていた。しかし、問題があった。
「む、む、向里、さん。あれ」
穂高は、棺を指さした。
「ん?足立、見えるようになったのか」
何という事も無く向里が言う。
「あ、はい。田ノ宮さんの一件以来、何か……じゃなくて!」
穂高は冷静に線香の残りやらを確認する向里に言い募った。
向里はどうでも良さそうに穂高に目をやる。
「ああ?」
「あれ!」
指さすのは、棺の上に腕を組んで座る故人の霊だった。
「怒ってるな。明日、更に揉めたりしてな」
「やめてくださいよお、向里さん……」
穂高は困り果てた顔で、故人、西沢秀俊の顔を見上げた。
「よくある事とは言っても、まあ、醜い!」
大場は嘆息して首を振った。
「通夜の日に殺人事件で新たな遺体発生なんて嫌ね」
川口も嫌そうに控え室の方向を見る。
「介護問題はよく聞きますけど……」
穂高が言うと、向里がそれに冷静に答える。
「ただでさえ遺産が絡むと揉める元になる。そこに、永年誰かが介護を一手に引き受けていたとかいう事になれば、更にもめる元になるな。
まあ、裁判に至って、介護を認められてその分遺産を計上されたっていう話は聞いたけど、裁判にするほどでもないが無視できない金額とかいうのが一番揉めるんだろうな」
「まあ、明日の葬式を無事に済ませれば我々の仕事はおしまい。まあ、暴力沙汰にならないように、充分注意してくださいよ」
倉持がそう締めくくり、それでその話は一旦終わった。
定時になって川口と大場が帰ると、鍵当番は穂高だったが、念の為にと向里も残ることになった。
しかし問題はなく、西沢家の遺族もほかの葬儀の遺族も斎場を出ており、ホッとしながら、穂高と向里は巡回をしていた。
「本当に殺人事件とかにならなくて良かったですよ」
「まだ明日があるからわからんぞ」
「やめてくださいよ、向里さん」
言いながら、火の始末や電気が消えているかどうかを確認して歩く。
遅くまで電気が点いていると、「明るい」「眩しい」などとクレームが来るのだ。そんなに他の家に近いわけでも、特別明るいわけでもない。そういう家は、何かしらクレームを付けたい家なのだ。誰もがお世話になる場所なのに、斎場が近くにあるのを嫌がる人は多い。
「斎場を持ってない市は近隣の市にお願いしないと火葬もできないから、そっちの市が優先で大変だとか聞きますよ」
「ああ、そうだな。ウチだってそんなに小さくはないのに、大概フル回転だしな。夏なんてドライアイスを大量に使って持たせるって聞いたな」
「うわあ。料金もバカになりませんね」
「ああ。それで斎場を作れというらしいが、どこに作るかで押し付け合って、結局作れないままらしい」
向里は肩を竦め、穂高は嘆息した。
話をしながらも、歩いて回る。
と、西沢家の斎場に辿り着いた。
ドアを開けると、電気はちゃんと消えていたし、線香もろうそくも消えていた。しかし、問題があった。
「む、む、向里、さん。あれ」
穂高は、棺を指さした。
「ん?足立、見えるようになったのか」
何という事も無く向里が言う。
「あ、はい。田ノ宮さんの一件以来、何か……じゃなくて!」
穂高は冷静に線香の残りやらを確認する向里に言い募った。
向里はどうでも良さそうに穂高に目をやる。
「ああ?」
「あれ!」
指さすのは、棺の上に腕を組んで座る故人の霊だった。
「怒ってるな。明日、更に揉めたりしてな」
「やめてくださいよお、向里さん……」
穂高は困り果てた顔で、故人、西沢秀俊の顔を見上げた。
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