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女敵(2)探索
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化け猫長屋に来た飯田と沙織は、上手く長屋に馴染んだ。隣の菊江がなにくれとなく世話を焼いてやり、菊江と沙織は姉妹のように仲良くなった。
考えれば、敵を追う側と追われる側、おかしなものである。
「このまま逃げ切れればいいんだけど」
八雲が心配そうに言い、朝ごはんを盛った茶碗を運ぶ。
逃げる側であるこの兄弟は、飯田と沙織の方に心情的には近い。
「あの追手の3人は、周辺の宿場で聞き込んで来て、どこにも目撃情報がないからだろうね。ここに戻って来てるよ」
このところ3人を見張っていた狭霧がそう言う。
「まずいかも知れんな」
疾風が眉を寄せる。
「こんな所で『女敵だ』って大立ち回りをされちゃあ、敵わない。これは何とかしないと」
「でも、どう何とかする?」
考えてみたが、いいアイデアは浮かばない。
「ま、考えておこう。食うか」
「いただきます」
3人は手を合わせた。
ねこまんまに来た常連客は、狭霧の顔を見ると、
「お、もうでえじょうぶなのか」
「かぜだって?寝冷えしたんだろ。暑くなってきやがったからなあ」
などと声をかける。
あの3人の動向を探っている間、狭霧はかぜという事にしてねこまんまを休んでいたからだ。
「はい。ご心配をおかけしました」
狭霧は笑って、礼を言っておく。
「ああ。そう言やあ、そこで変なやつらと会ったぜ」
手代が箸を取りながら言う。
「変?」
「この辺りを通りかかる人の顔をじろじろと、確認するように見て来るんだ。ありゃあ、誰かを探してるんじゃないかな」
そばにいた鳶も、それに頷く。
「何だろうな、あの3人。特に中の1人が熱心でよ。違うってわかって、舌打ちしやがるんで。気分が悪いのはこっちだってんだ」
客達がそこここで、そうだそうだと頷く。
狭霧達はそっと目を合わせた。
<あいつらだね>
<バレないかしら>
<ここらに飯田さんと沙織さんが近付かないように言っておいた方がいいな>
微かに頷き合って、忙しく接客に戻った。
夜の営業を終えて長屋へ戻ると、残りものの総菜を入れた鉢を持って飯田と沙織の家へ行く。
「これ、あまりものだけど、よかったら」
そう言って、土間に入る。
昼間、飯田は人足などをし、沙織は菊江と一緒に針仕事の内職をして、稼いでいた。実入りは少ないが、2人は充実したような顔付きをしている。
「まあ!ありがとうございます」
「それと、店周辺をあいつらが嗅ぎまわってるようだ。あんまり出歩かない方がいい。少なくとも、あの辺りには近づかないように」
それに2人は、表情を引き締めて頷いた。
疾風がそう言っている間、狭霧は子供っぽく飯田に近付いた。
「うわあ、鍛えてあるんだなあ。やっぱり素振りって毎日しないとダメ?」
「そうだな。太平の世とは言え、いついかなる時も備えをするのが武士の務めだからな」
「なるほどね。寝る時も枕元に置いてるんだよね、きっと」
それに飯田は、あ、という顔をしたが、沙織はにこにことして、
「寝る時は、壁際に置いておくわよ」
と言うが、飯田はいや、と言った。
「確かに、その方がいい。ここは屋敷ではない。
ありがとう。良い事に気付かせてもらったよ」
そして、にこにこと笑った。
狭霧達は飯田と沙織の家を出て自宅へ戻り、にこにこしていた笑みを消した。
「よかった。やっと気付いた」
手の届くところに刀を置いていない事を屋根裏から見て、危ないと思っていたのだ。
「旅籠でも、刀掛けに掛けてたんでしょうね」
「まあ、そうまでしなくてもいいように、何とかしてやりたいが」
これからの作戦を考えながら、3人は寝る用意を始めた。
「ここに間違いないのか」
末次が声を潜めて仲間に訊く。
「出入りしているぼて振りに聞いた。つい最近、若い武士と武家娘が入居したらしい」
「それで張り込んで顔を確認した。あの家だ」
末次は、目をぎらつかせ、舌なめずりをするようにして言った。
「よし。飯田は殺せ。女は傷付けるな。あれは、俺と親父共有の妾だ」
仲間の2人が思わず顔をしかめるのにも気付かず、末次はニタニタと締まりなく笑った。
「今晩、襲撃だ」
考えれば、敵を追う側と追われる側、おかしなものである。
「このまま逃げ切れればいいんだけど」
八雲が心配そうに言い、朝ごはんを盛った茶碗を運ぶ。
逃げる側であるこの兄弟は、飯田と沙織の方に心情的には近い。
「あの追手の3人は、周辺の宿場で聞き込んで来て、どこにも目撃情報がないからだろうね。ここに戻って来てるよ」
このところ3人を見張っていた狭霧がそう言う。
「まずいかも知れんな」
疾風が眉を寄せる。
「こんな所で『女敵だ』って大立ち回りをされちゃあ、敵わない。これは何とかしないと」
「でも、どう何とかする?」
考えてみたが、いいアイデアは浮かばない。
「ま、考えておこう。食うか」
「いただきます」
3人は手を合わせた。
ねこまんまに来た常連客は、狭霧の顔を見ると、
「お、もうでえじょうぶなのか」
「かぜだって?寝冷えしたんだろ。暑くなってきやがったからなあ」
などと声をかける。
あの3人の動向を探っている間、狭霧はかぜという事にしてねこまんまを休んでいたからだ。
「はい。ご心配をおかけしました」
狭霧は笑って、礼を言っておく。
「ああ。そう言やあ、そこで変なやつらと会ったぜ」
手代が箸を取りながら言う。
「変?」
「この辺りを通りかかる人の顔をじろじろと、確認するように見て来るんだ。ありゃあ、誰かを探してるんじゃないかな」
そばにいた鳶も、それに頷く。
「何だろうな、あの3人。特に中の1人が熱心でよ。違うってわかって、舌打ちしやがるんで。気分が悪いのはこっちだってんだ」
客達がそこここで、そうだそうだと頷く。
狭霧達はそっと目を合わせた。
<あいつらだね>
<バレないかしら>
<ここらに飯田さんと沙織さんが近付かないように言っておいた方がいいな>
微かに頷き合って、忙しく接客に戻った。
夜の営業を終えて長屋へ戻ると、残りものの総菜を入れた鉢を持って飯田と沙織の家へ行く。
「これ、あまりものだけど、よかったら」
そう言って、土間に入る。
昼間、飯田は人足などをし、沙織は菊江と一緒に針仕事の内職をして、稼いでいた。実入りは少ないが、2人は充実したような顔付きをしている。
「まあ!ありがとうございます」
「それと、店周辺をあいつらが嗅ぎまわってるようだ。あんまり出歩かない方がいい。少なくとも、あの辺りには近づかないように」
それに2人は、表情を引き締めて頷いた。
疾風がそう言っている間、狭霧は子供っぽく飯田に近付いた。
「うわあ、鍛えてあるんだなあ。やっぱり素振りって毎日しないとダメ?」
「そうだな。太平の世とは言え、いついかなる時も備えをするのが武士の務めだからな」
「なるほどね。寝る時も枕元に置いてるんだよね、きっと」
それに飯田は、あ、という顔をしたが、沙織はにこにことして、
「寝る時は、壁際に置いておくわよ」
と言うが、飯田はいや、と言った。
「確かに、その方がいい。ここは屋敷ではない。
ありがとう。良い事に気付かせてもらったよ」
そして、にこにこと笑った。
狭霧達は飯田と沙織の家を出て自宅へ戻り、にこにこしていた笑みを消した。
「よかった。やっと気付いた」
手の届くところに刀を置いていない事を屋根裏から見て、危ないと思っていたのだ。
「旅籠でも、刀掛けに掛けてたんでしょうね」
「まあ、そうまでしなくてもいいように、何とかしてやりたいが」
これからの作戦を考えながら、3人は寝る用意を始めた。
「ここに間違いないのか」
末次が声を潜めて仲間に訊く。
「出入りしているぼて振りに聞いた。つい最近、若い武士と武家娘が入居したらしい」
「それで張り込んで顔を確認した。あの家だ」
末次は、目をぎらつかせ、舌なめずりをするようにして言った。
「よし。飯田は殺せ。女は傷付けるな。あれは、俺と親父共有の妾だ」
仲間の2人が思わず顔をしかめるのにも気付かず、末次はニタニタと締まりなく笑った。
「今晩、襲撃だ」
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